87話「メイドが好き?」

 文化祭の準備を終えた俺達は、孝之と清水さんも連れて久々に4人で帰宅する事となった。


 俺の隣をニコニコと歩くしーちゃん。

 当然、もう既に制服に着替えているのだが、さっきのメイド服姿の破壊力は思い出しても本当に凄まじかった。


 これならば、文化祭当日はうちのクラスが大繁盛するのが確定してると言っても何も過言ではないだろう。

 それに、清水さんや三木谷さんもいるのだ、ただでさえ美少女の多いうちのクラスが、他のクラスより大分攻めたメイド喫茶をしようっていうのだから、企画の時点でも正直圧勝であった。


 だからこそ俺は、当日はしーちゃんの事をちゃんと守らないとだよなともう一度気持ちを引き締め直しながら、既に暗くなってしまった帰り道をみんなと歩いた。



「文化祭、楽しみだね」


 隣を歩くしーちゃんが、そう言って微笑んだ。

 その言葉に、俺も孝之も清水さんもそうだねと微笑んだ。


 最初はノリだけで決まった出し物だけど、クラスのみんなで一つの目標に向かって協力しながら準備を進めているだけでも何だか楽しいし、こういうの青春って感じがして良いよなって思った。


 いよいよ来週に迫った文化祭だけど、絶対に成功させようという気持ちは日に日に強くなっているのであった。



「でも、ちょっと心配でもあるかな」

「ん?何かあった?」


 何故かしーちゃんはそんな言葉を零しながら、困ったように笑った。

 心配って、何か問題でも起きているのだろうか。



「だって、ウェイター姿のたっくん、本当格好良かったから……」

「え?」

「あーそれ分かるわ!卓也ってあんまりこれまで色気づいて来なかったけどさ、ちゃんとしたらちゃんとするんだよな!」


 恥ずかしそうにそう呟くしーちゃんに、孝之が笑いながら便乗した。

 清水さんも、面白そうに微笑みながらうんうんと隣で頷いている。



「いや、まぁ、そ、そうかな……?」

「そうだよ!」


 照れながらそう返事をすると、しーちゃんが少し頬を赤く染めながら食い気味に肯定してくれた。


 そうか、正直自分では中々そうだよねとは言い辛い事だけど、これはちゃんと受け入れるべき事なんだろうな。

 それに、実際はそんな事無いにしても、こうしてしーちゃんが心配してくれているのであれば、俺はちゃんと言葉で伝えなければならないだろう。



「それじゃあ、精々しーちゃんの彼氏として恥ずかしくない程度には頑張るよ。……でも、俺が好きなのはしーちゃんだけだから、その、そこは全く心配しなくても大丈夫だから……」

「う、うん……ありがとう……」


 そう言葉を交わし、恥ずかしさで頬を赤くしながら見つめ合う俺達。



「すっかり幸せバカップルだな、お二人さん」

「あら、幸せなのはいいことじゃない」


 そう言って、孝之と清水さんは俺達を見ながら微笑んだ。

 俺もしーちゃんも、そんな孝之のバカップルという言葉に途端に恥ずかしくなってしまったのだが、なんだかそれも可笑しくて、まぁそれでも別にいいかと吹き出すように笑い合った。



 こんなに愛おしいしーちゃんと二人なら、バカップルだって上等だった。




 ◇



 ベッドの上で横になりながらスマホをいじる。

 スマホの画面には、以前送られてきたしーちゃんのメイド服姿の写真が映し出されている。



「うん、やっぱめちゃくちゃ可愛いな……」


 そう呟きながら、俺は暫くその写真を眺めていると、ピコンッとLimeの通知音が鳴った。

 ぼーっと写真を眺めていた俺は、その音に少し驚きながらも送られてきたLimeをすぐに確認すると、それはしーちゃんから送られてきたLimeだった。



『今日もお疲れ様!今はベッドでゴロゴロしてるよー♪』


 それは、何気ない会話のLimeだった。

 でも、俺はこうして他愛ない会話Limeを普通に出来るようになった事が素直に嬉しかったりする。


 何があるわけでもないけど、こうしてLimeを送り合う事で相手を感じられるというか、今しーちゃんが何してるのか確認できるだけで正直安心出来るんだから、恋愛するっていうのは凄い事だなって思う。



『俺も一緒、前に送ってもらったしーちゃんのメイド自撮りみてた』


 そんなゴロゴロ中のしーちゃんに、俺はちょっと揶揄うつもりでそう返事をした。

 きっと今頃、Lime見ながら恥ずかしがってるであろうしーちゃんの姿を想像すると、思わずニヤけてきてしまう。



『たっくんは、メイド好きなの?』


 しかし、返ってきたLimeは俺の思っていた返事とはちょっと違っていた。


 メイド好きなの、か。どうだろう。

 勿論嫌いじゃないけど、それはメイドだから良いのではない。



『メイドが好きってよりも、俺はしーちゃんが好きだよ』


 そう返事をして、流石に今のは我ながら臭すぎたかなと一気に恥ずかしくなってきた。

 何送っちゃってるんだ俺はと思ったが、すぐに既読がついてしまったためもう戻れない。


 恥ずかしくなった俺は布団を被って悶えていたのだが、最悪な事にしーちゃんからの返事が何故かそれからパタリと止まってしまったのである。


 流石に臭すぎて引かれたかな……とネガティブが発動し、俺は時間を巻き戻したい!とまた布団の中で悶えていると――



 ピコンッ


 Limeの通知音が鳴った。

 俺は慌ててスマホを確認すると、それはしーちゃんからのLimeで一先ず返事が来た事に安心した。


 そして、ちょっと緊張しながらそのLimeを開くと、それはメッセージではなくなんと写真であった。


 ん?なんだ?と思いながら、俺はその画像をちょっと緊張しながら開いた――



「これは……」


 そして、その送られてきた画像を見て俺は思わずそう呟いてしまった。


 それもそのはず、その送られてきた画像というのは、今日のメイド服姿のしーちゃんの自撮り写真だった――。


 恐らく、最後着替える前に撮った写真なのだろう。

 隣には一緒に撮った清水さんのメイド姿までセットになっているんだから、もしこの写真をクラスのみんなが見たら大変な事になるのは間違いないだろうから、絶対に見せられないなと思った。


 そして俺は、今日のしーちゃんのメイド姿がこうして写真として手に入れられた事に物凄い喜びを覚えた。


 改めて見てもやっぱり可愛すぎるその姿に、今度は違う意味で悶えてしまった。



『素直なたっくんに、プレゼントだよ』


 素直な俺に、か。

 うん、本当に素敵なプレゼントありがとねと、俺は深く感謝をしながらその写真を三回保存したのであった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る