85話「ライバル」

 あかりんとLimeするようになって早一週間。


 俺は文化祭の準備の対応をしつつ、裏ではエンジェルガールズがお忍びで俺達の文化祭へ遊びに来るための連絡係という重大すぎる役目も受け持っていた。


 しかし、当日は週末という事もあり、やはり一日オフにするのは難しいかもしれないとあかりんから連絡がきた。

 あかりんは何とかすると言っていたけれど、メンバーそれぞれ予定もあるだろうしやっぱり厳しいんじゃないかと少し心配になっている自分がいた。


 最初は、エンジェルガールズが何でもないこんな高校の文化祭に遊びに来るなんてと思ったけれど、それでもあかりんと連絡を取っているうちに本当に楽しみにしてくれているのが伝わって来たし、何より今でも同じ仲間としてしーちゃんの事を本当に大事に思ってくれている事が俺は嬉しかった。


 だから、俺としてもあかりん達が文化祭に来られるために出来る事があるなら、何でも協力したいなと思っている。

 そんな気持ちだけでもあかりんに伝えたところ、「ありがと、たっくんは優しいね。しおりんの彼氏として申し分ないかな」と笑ってくれた。


 そして、いざとなれば最終手段もあるからと意味深な言葉を残しつつ、あかりんは色々と裏で動いているようだった。


 こうして俺は、いよいよ文化祭が来週末に迫ってきた今、文化祭の準備とあかりんとの連絡係で割かし忙しい毎日を送っているのであった。




 ◇



「みんなー!お店からメイド服借りてきたよー!」


 今日は部活も休みなため、クラスのほとんどの人が教室に残って文化祭の準備に取り掛かっているところ、バイト先へメイド服を受け取りに行っていた三木谷さん達が戻ってきた。


 本来この数の貸し出しなんて難しいはずなのだが、そこは仕事の出来る三木谷さんの頼みという事で、旧デザインの使っていないメイド服を特別に本社経由で送ってもらったのだそうだ。


 本当、三木谷さんのおかげで今回の文化祭が行えると言っても過言ではないため、クラスのみんな頭が上がらない思いでいっぱいだった。

 最初は女子のメイド姿を見たいのが目的だった男子達も、準備を進めていくうちに目的が下心から文化祭の成功へと変わっており、今ではクラス一丸となって一つの目標に向かって取り組んでいるこの感じは、なんか青春してるよなぁって感じがしてちょっとむず痒いけどそれが素直に嬉しかった。



「じゃ、接客担当はサイズ合わせも兼ねて一回着てみようか」


 しかし、したり顔の三木谷さんから告げられたその一言で「「「おー!」」」と教室内が一気に湧き上がったのは、まぁ仕方ないだろう。

 俺も正直、しーちゃんのメイド姿は見たくて仕方ないのだから。


 こうして、接客担当の女子達はメイド服を持って少し恥ずかしそうにしながらも体育館の更衣室へと向かって歩いて行った。

 当然、しーちゃんも清水さんと一緒に向かって行ったのだが、去り際ちょっと恥ずかしそうに俺の顔を見ながら「えへへ」と微笑んだしーちゃんが見られただけで、正直可愛すぎてお腹いっぱいなレベルだった。


 それはクラスの男子達も同じ感想なようで、「今、絶対俺の事見て三枝さん笑ったよな?」と勝手に盛り上がっていた。



「はい、それじゃあこっちが一条の分で、こっちが健吾の分ね!」


 俺とたまたま近くにいた新島くんのもとへ駆け寄ってきた三木谷さんが、ウェイター用の制服を持って俺と新島くんにそれぞれ手渡してきた。



「ありがとう、じゃあ僕達も試着してみようか」


 手渡された制服を見て、そうか俺も制服着ないとダメなんだよなとそこでようやく気が付いたのだが、そんな俺に向かって新島くんから一緒に試着してこようと声をかけてくれた。

 唯一のウェイター仲間の誘いのため、俺はそうだねと返事をし一緒に試着するため更衣室へと向かった。



「一条くんはさ、凄く三枝さんと仲いいよね。一体どうやったらそんなに仲良くなれるんだい?」


 更衣室へ向かって歩いていると、なんだか疲れたように微笑みながら新島くんから話しかけてきた。

 その表情は、まるで失恋をしたあとのような哀愁が感じられ、今どういうつもりで新島くんがそんな話をしてきているのか流石に察しがついたため、俺はちゃんと答える事にした。



「実はさ、俺としーちゃん……いや、三枝さんは幼馴染っていうか、小さい頃一度知り合っているんだ」

「へぇ、そ、そうだったんだ」


 俺がこの事を学校の誰かに言うのは、思えば近しい仲である孝之と清水さん以外だと初めてだった。



「うん、それでさ、俺はまさかあの時のしーちゃんが三枝さんだったなんて最近まで気付かなかったんだけどさ、しーちゃんはちゃんと俺の事を覚えててくれたんだよね」

「それはなんていうか……凄い話だね」

「本当にね、俺なんかが恐れ多いっていうか、どこのラブコメ漫画だよってね」


 そう自虐的に俺が笑ってみせると、新島くんも一緒に笑ってくれた。



「でも、だからこそっていうのかな、俺はそんなしーちゃんの事を本当に大切に思っているんだ」

「僕達じゃ得られない特別な繋がり、か。……うん、それならなんだか納得も出来るかな。じゃあやっぱり、君たち二人は……?」


 そう力なく笑いながらも、どこか腑に落ちたような表情を浮かべる新島くんは俺達の関係について聞いてきた。


 しーちゃんとの約束があるから、当然俺から関係を口外する事は出来ない。

 けど、ここでこんな新島くん相手にはぐらかす答えをするのも違うよなと思った俺は、正直な気持ちを伝える事にした。



「俺はしーちゃんの事が好きだよ。勿論それは友達としてではなく、一人の女性としてね」



 俺は新島くんに向かって、ハッキリとそう告げた。

 俺はしーちゃんが大好きだ。それならば関係は隠しつつも決して嘘は言っていない。


 そして、俺は新島くんのライバルなんだとここでハッキリと宣戦布告も兼ねておきたかったのだ。



「……そうか、分かったよ。ちゃんと答えてくれてありがとう」


 そんな俺の素直な気持ちを聞いた新島くんは、今度は俺の顔を真っすぐ見ながらそう言ってニコリと笑った。



「なんだか結果はもう見えてる気がするけど、僕ももう少しやれる限り頑張らせてもらうよ」

「そうか、まぁ絶対に負けないけどな」


 俺達はそう言葉を交わし、今度は腹の底から笑い合った。

 どんだけバチバチに青春してるんだよって話だけど、こんな新島くんならライバルとしても申し分ないかなと思った。



 こうして俺達は、まずはどっちのウェイター姿がしーちゃんをキュンキュンさせられるかという、全くもって不毛な勝負を開始する事にしたのであった。


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