84話「デートとお願い」
先ほど購入した洋服の入った手提げ袋を、嬉しそうに眺めながら隣を歩くしーちゃん。
そんな金額的にも大したプレゼントをしたつもりは無いのだが、それでもここまで嬉しそうにしてくれると俺の方まで嬉しくなってきてしまう。
そんな今日も可愛さが限界突破しているしーちゃんと一緒に、それからもショッピングモール内を見て回った。
何をするわけでもないけれど、しーちゃんと一緒なら雑貨屋や本屋を見て回ったりするだけでもその全てが楽しかった。
それはしーちゃんもきっと同じで、俺は楽しそうにしているしーちゃんを眺めているだけでとにかく幸せだった。
それから暫く歩き回った俺達は、フードコートで少し休憩する事にした。
ちょっとだけ小腹も空いてきたため、ついでにフードコートで一つだけ買ったたこ焼きを一緒につまむ事にした。
「はい、たっくんアーン」
すると、割り箸でそのたこ焼きを一つ摘まみながら、しーちゃんがあーんと差し出してくる。
そんないきなりのしーちゃんからのあーん攻撃を前に、俺は思わず照れてしまう。
それになにより、きっとそのたこ焼きはまだ熱いに違いなかった――。
でも俺には、そんなしーちゃんが差し出してくれるこのたこ焼きを食べないなんて選択肢は無いため、多少の口の中の火傷は覚悟した俺はそのたこ焼きを思い切ってパクリと一口で食べた。
「あ!ごめん熱かった!?」
「あふっ、だ、だいじょうぶへーきへーき」
熱がる俺を心配するしーちゃんに、俺はホフホフしながらもやせ我慢を決め込んで返事をする。
たしかに熱いけれど、幸い火傷する程熱いわけでも無かったため本当に大丈夫だったのだが、それよりも心配そうに俺の顔を覗き込んでくるしーちゃんを前にしている方が俺は気になって仕方なかった。
自分の彼女だからとかではなく、しーちゃんは客観的に見てもそこいらの女の子より絶対的に可愛い。
そんなしーちゃんのクリクリとした瞳でじっと見つめられると、やっぱりいつもドキドキしてしまうのだ。
しかし、周りには家族連れやカップルなど沢山の人で溢れているのだが、まさかこんな所にしおりんが居るなんて誰も思いもしないようで、意外とバレないものだなと思った。
こうして一緒に普通のカップルとして何気ないデートを出来ている事に、俺は改めて嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「ほんほだ、あっふいね」
そう言って熱そうにしながらも楽しそうたこ焼きを食べるしーちゃんの事が、俺はやっぱり大好きで仕方が無かった。
◇
しーちゃんとのデートを終え帰宅した俺は、夜ご飯とお風呂を済ませてから自分のベッドの上で大の字に寝転んだ。
そして、今日もしーちゃんは可愛かったなぁと、俺は今日あった出来事を思い出す。
今日買ったニット、きっと似合うだろうなぁとしーちゃんが着ている姿を想像しながらニヤついていると、スマホからLimeの通知音が聞こえてきた。
誰だろうと俺はすぐにスマホをとって確認すると、それはしーちゃんからのLime……ではなかった。
『いきなりだけど、話があるの』
知らない人から、いきなりそんなLimeが送られてきたのである。
そのLimeいわく、どうやらこの送り主は俺に話があるようだ。
でも、話があると言われても誰だか分からない相手と話なんて出来ないぞ。
それに、なんで俺の連絡先を知っているのか普通に怖いんだけどと思いながら、俺はそのLimeの送り主の名前を確認する。
「Akariか……そんな知り合いいたっけ?」
その送り主の名前はAkariとなっているが、生憎俺の知り合いにアカリなんて名前の人なんていない。
というか、女の知り合い自体ほとんどいないのだ。
それこそ、俺が知ってるアカリなんて名前の人は――そう記憶を辿ってみると、一人だけいた。
いや、でもまさかそんなわけ……と思っていると、再びその送り主からLimeが送られてくる。
『あ、ごめん名乗ってなかったね!わたしあかりんです。エンジェルガールズの
その追加で送られてきた一文を見て、俺は送り主が誰だか分かった安心感と、その上でなんでいきなりあかりんが!?という焦りで、何がなんだかよく分からない事になってしまった。
『えっと、お久しぶりです。それで、話ってなんでしょう?』
何故か現役の超有名アイドルとLimeをする事になってしまった俺は、とりあえず無視するわけにもいかないから恐る恐る返事を返した。
あのあかりんが俺に話があるなんて言ったら、それは十中八九しーちゃんに関する事と見て間違いないだろう。
でも、だからといって何故俺に直接Limeしてくるのか、その理由が分からなかった。
というか、そもそもなんで俺のLimeを知ってるんだ?と思ったけど、そういえば以前しーちゃんの寝顔をLimeで送ってきた事があったのを思い出した。
あの時、ちゃっかりあかりんは俺のLimeのIDを控えておいたのだろう。
『いきなりごめんね!話ってのは、勿論しおりんのことで』
あかりんから、すぐにそんな返信が返ってきた。
やっぱりしーちゃんの事かと思っていると、続けてLimeが送られてくる。
『ていうか、二人付き合ったんでしょ?おめでとう!』
それはまさかの、俺としーちゃんが付き合った事に対する祝福の言葉だった。
まさかあかりんから祝福されるなんて思ってもみなかった俺は、どう返信していいものか迷っていると、そんな俺の気持ちを悟っているかのように今度はあかりんから通話がかけられてきた。
突然のあかりんからの通話にめちゃくちゃ驚いたが、恐る恐る俺はそのあかりんからの通話ボタンを押した。
「あ、もしもしたっくん?久しぶりー」
「あ、はい、お、お久しぶりです」
電話の向こうから聞こえてくるのは、たしかにあかりんの声で間違い無かった。
しかし、国民的アイドルとこうして何故か通話している今の現状には違和感しかなかった。
「いきなりごめんね、それからおめでとう!」
「あ、その、うん、どうも」
駄目だ、いきなりのあかりんにどうしてもキョドってしまう自分。
そんな俺が可笑しいのか、電話の向こうでクスクスと笑っているあかりん。
「それでね、たっくんに頼み事があるのよ」
「な、なんでしょう?」
あかりんから発せられた頼み事という言葉に、俺は気を引き締め直した。
無いとは思うが、これからあかりんの言う言葉がもししーちゃんにとって悪い意味で影響するような事ならば、俺がしっかりと対応しなければならないと思ったからだ。
そう思いながら、俺はあかりんの次の言葉をドキドキしながら待った。
「あー、そんな大した話じゃないから構えなくていいよ。たっくんの高校今度文化祭あるんでしょ?」
「え?あ、はい」
「いつ?」
「えっと、今月末の土曜日だけど……」
「ふむふむ、しおりんと同じクラスだよね?何するの?」
「メ、メイド喫茶」
「え?しおりんもメイドするの?大丈夫それ!?」
「はい、多分……」
「うん、まぁそっちの方が面白そうだしいっか。それじゃ、うちらもその文化祭遊びに行く事にしたからよろしくね。あ、当然サプライズだから、しおりんにはこのこと秘密にしつつ、たっくんには連絡係お願いしたいの!ってことで、そろそろ次の仕事に移動しないとだからまたLimeするね!よろしくぅ!」
そう言う事だけ言ったあかりんは、忙しいようですぐに電話を切られてしまった。
俺はそんなあかりんの勢いに呆気にとられながらも、今あった出来事を整理する事にした。
えーっと、とりあえず今なんて言ったんだっけ?
あかりんが、うちの文化祭に遊びにくるんだっけ?
しかも、うちらって事は当然それはエンジェルガールズの事だろうから……
「って、えーー!?」
ようやくあかりんの言葉の意味を理解した俺は、夜中であるにも関わらず思わず大声を出してしまったのであった。
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