77話「出し物」
次の日のホームルーム。
「それじゃあ、みんなで文化祭について話し合いたいと思います」
「とりあえず、みんなのやりたい事を言い合って、その中からこのクラスの出し物決めちゃおうよ!」
二学期に入り、文化祭実行委員に選ばれた新島くんと三木谷さんが教壇に立ち、クラスのみんなにそう告げると共に教室内は一気にざわつき出した。
そう、今から今月末にある文化祭について、このクラスの出し物を話し合って決めちゃおうというわけだ。
文化祭については、各クラスそれぞれ自分達の出し物を自由に決定し、それから文化祭当日までにその出し物の準備を当然していかなければならないというわけだ。
中学生の頃は当然こんな文化祭自体無かったため、ついに俺も文化祭かぁと改めて高校生になった事の実感が湧いてきた。
「はーい!じゃあメイド喫茶ー!」
「いっそ体育館で出し物とかしちゃう?」
「あーいいかもー!劇とか?」
新島くんが仕切り、クラスから挙がる意見を三木谷さんが黒板へ全て箇条書きにしていく。
ちなみに、この実行委員の二人はクラスでも中心の男女で、色男の新島くんと明るいギャル系の三木谷さんの二人ならと満場一致でこのクラスの代表に選抜されたのである。
こうして挙がった様々な意見の中から、このクラスの出し物を多数決で決める事になった。
――ツンツン。
そんな中、後ろから背中をつつかれる俺。
「ねぇ、たっくんは何がいい?」
後ろを振り返ると、しーちゃんが口元に手を当てながら楽しそうに聞いてきた。
俺かぁ……うーん、俺は正直何でも良かった。勿論いい意味で。
流石に劇とか歌はちょっと恥ずかしい気もするけど、メイド喫茶とか定番な感じがするしクラス展示は準備が楽そうだし、あとはクラスの決定に従うのみという感じだった。
でも、欲を言うならやっぱり……
「まぁ、鉄板ではあるけどメイド喫茶とか楽しそうだよね」
俺は以前貰ったメイドコスのしーちゃんの写真を思い出しながらそう答えた。
純粋に楽しそうだし、やりがいもありそうだというのは本当だが、何よりしーちゃんの生メイド姿が純粋に見たいというのが一番の本音である。
そしてこれは、きっとクラスのみんなも内心では思っているのだろう。
公平に多数決で決める事になっているが、実際はもう何にするか決まったような空気が教室内に流れていた。
そんな俺の意見に「そっか」としーちゃんがちょっとニヤついたところで、早速多数決が行われる事になった。
「じゃあまず、メイド喫茶がいい人挙手してください」
その声に、案の定教室内の過半数の手が挙がった。
という事で、最初の多数決でこのクラスの出し物がすぐに決定してしまったのであった。
「でも、メイド服とかどうするの?これから作るのって、正直無茶あるよね?」
クラスの女子から、ごもっともな意見が挙がった。
みんなやりたい事を言うのはいいが、たしかに実際に準備するとなると中々大変だと思われる。
アニメや漫画では鉄板のメイド喫茶だが、実際には中々実行されない理由がこれだろう。
すると、また別の女子から手が挙げられる。
「あ、それならあーしのバイト先から借りてくれば何とかなると思うよ」
それはまさかの、三木谷さんからの提案だった。
え?バイト先って?とクラスのみんなが疑問に思っている事に気付いた三木谷さんは、頭に手を置いてちょっと恥ずかしそうに笑うと、
「実はあーし、言ってなかったけど駅前のメイド喫茶でたまにバイトしてんだよね!」
と、三木谷さんがまさかのカミングアウトした事で、クラスの全員「えー!?」と驚いたのであった。
三木谷さんと言えば、まずその第一印象はザ・ギャルという感じだ。
金髪のふわふわしたロングヘア―をいつも一つにまとめており、背が高くスレンダーなルックスに色白の肌、そして猫を思わせるような釣り目が印象的な整ったその顔付きは可愛らしく、二大美女とは種類が違うだけで相当な美人として人気も高い。
しかし、そんなギャル系の三木谷さんが、まさかのメイド喫茶でバイトしているというギャップに、俺を含めクラスのみんなはとても驚いていた。
というか、そんな事よりメイド喫茶ってこの街ではあそこだけだよな……と、気が付くと俺は自然に孝之とアイコンタクトを交わしていた。
そう、俺は以前孝之と一緒にそのメイド喫茶へ行っているのだ。
オープンしてすぐに行ったからか三木谷さんの姿は無かったのだが、もしかしたらあの日クラスメイトに接客されていたのかもしれないと思うと、それは中々辛いものがあった。
俺は孝之と危なかったなと力なく笑い合っていると、そういえば俺達がメイド喫茶へ行った事をしーちゃんは知ってるんだったと気づいた俺は、慌てて後ろの席を振り向いた。
するとそこには、ちょっと不満そうな表情を浮かべながらジト目で見てくるしーちゃんの姿があった。
俺はそんなしーちゃんを前に、アハハと笑って誤魔化しつつゆっくりと前を向いた。
いや、あれは付き合う前の話だし、そもそも何もいやらしいお店に行ったとかそういうわけでもないのだけど、それでもこういう場合は下手な事は言わずにあとでそっと謝るに限るだろう。
そう思い俺は黒板へ目を移すと、メイド喫茶という文字の上には大きく花マルが書かれていた。
どうやら先ほどの三木谷さんの提案により、このクラスの出し物はメイド喫茶に正式に決定したようだった。
そして気のせいだろうか、その花マルの隣に立つ三木谷さんが、何故かこっちを見ながら面白いものを見るような目で微笑んでいるのであった。
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