78話「役割分担」

 無事クラスの出し物が決まったところで、今度は各担当の洗い出しとその担当者決めを行う事になった。


 メイド喫茶だと、接客、厨房、あとは設備作成に買い出し担当が必要だろうと色々意見が上がり、いざ担当を決めようというところでクラスの男子が突然意を決した様子で挙手をしだした。



「はい!!三枝さん、清水さん、それから経験者の三木谷さんに接客して貰えたら、きっとこの文化祭が盛り上がると思いま゛ぁす!!」


 必死だった。

 そもそも、それを見たいがための今回のメイド喫茶だ、その意見に他の男子達も慌てて拍手で賛同し出す。

 たしかに、客観的に見てこの学年の二大美女の二人とメイド経験者の三木谷さんが接客に回るというのは、正直俺も適材適所だと思った。


 その光景に、クラスの女子達は「何?わたし達じゃ力不足だっての?」と不快感を露わにしていたが、それでも確かにその3人が接客してくれるなら盛り上がりそうだというのは頭では分かっているようで、あまり強くは否定はしなかった。


 そんなクラスからの圧に、困った様子の清水さんが孝之としーちゃんを交互に見ていた。


 しかし、孝之はやれやれと笑い、しーちゃんはこれまでの芸能活動でコスプレするのに慣れているのかむしろ乗り気な顔をしていたため、どうやら断りたいのは自分だけだと悟った様子の清水さんは、項垂れながら諦めた様子で大きくため息をついていた。


 しーちゃんや経験者の三木谷さんが映えるのは間違いないのだが、小柄で可愛らしい清水さんのメイド姿もきっとヤバいだろうなぁと思っていると、孝之もメイド姿の清水さんを考えているのか幸せそうな顔をしながら少し鼻の下を伸ばしていた。



「じゃ、どうだろう?三枝さん、清水さん、それから三木谷さんも。クラスのみんなはこう言っているけど、引き受けて貰えるかな?」


 新島くん自身も3人が接客に回るのにきっと賛成なのだろうが、それでも実行委員として無理強いは出来ないと意見をちゃんと確認してくれていた。

 もっとも、こういう状況自体既に3人への圧になっているような気がするから、誰か一人でも嫌々引き受ける感じがあるなら俺はすぐに割って入ろうと思っていたのだが、3人ともすんなりと引き受けてくれたのであった。


 嫌がっていた様子の清水さんも、孝之が小声で「桜子のメイド姿、正直めちゃくちゃ見たいわ」と笑って言ったその一言で、両手でガッツポーズしながら一瞬でやる気になっていたのだから恋心って凄いなと思った。


 三木谷さんは「最初からそのつもりだったからオッケーだよ!」と微笑み、そしてしーちゃんは無言で頷いていた。

 だがそんなしーちゃんは、何か企んでいるようなやる気に満ちた表情を浮かべており、それから鼻息をフンスと鳴らしていた。


 本当分かりやすいよなぁと、俺はそんなしーちゃんを前に笑うのを必死に堪えた。

 まぁしーちゃんが何を企んでいるのか知らないけど、本人がやる気になってるみたいだし当日の楽しみにしておこうかなと思った。



 それからは、3人が快く接客を引き受けてくれた事もあって、全体として否定的な意見は出ずにみんな協力的に話し合いができた事で、スムーズに役割分担が完了した。

 そして、まだ時間が残っているという事で、残り時間は早速各担当ごとに分かれて準備に向けた話し合いをする事になった。


 ちなみに、俺と孝之は厨房担当になった。

 基本的に、表の接客等は女子にお願いして男子は裏方作業に回る分担になったため、厨房担当は男子6人に料理が得意な女子2人交えてのメニュー検討会が開かれた。



「メニューは絞らないとだよな。オムライス、ハンバーグ、あとはソフトドリンクってところか?」


 孝之が率先して発言してくれた事で、一気に意見交換が活発化した。

 オムライスならチキンライス作り置きしておいて玉子だけ焼けばいいし、ハンバーグも冷凍を買っておけば焼くだけでいいだろうと女子達が具体的に考えてくれたおかげで、効率を考えてもどうやら問題は無さそうだった。


 あとは、トッピング等含め限られた予算でどう遣り繰りするかについて話し合った。

 このペースなら、今日中にほとんど形に出来そうだなと思いながら俺は、なんとなく接客担当の輪に目を向けた。


 そこでは、三木谷さんを中心にメイド喫茶の接客ノウハウがみんなに引き継がれている様子で、どうやら当日までには本格的な接客が出来そうな雰囲気だった。


 というか、だ。

 普通に考えて、ただの学祭で元とは言えエンジェルガールズのしおりんに接客して貰える上、オムライスにケチャップで絵を書いて貰えるなんてちょっとサービス過多なんじゃないかと思えてきてしまった。


 こりゃ当日大変な事になりそうだなと思っていると、そんな俺に気が付いたのか孝之は面白そうに笑いながら俺の背中をバシッと叩いた。



「まぁ大丈夫だろ!減るもんじゃねーし!」


 そう言って豪快に笑う孝之を見ていたら、たしかに俺も少し考え過ぎかなと思えてきた。

 孝之の言う通り、来たる文化祭を全力で楽しもうと俺は気持ちを入れ替えた。


 しかし、接客担当は基本女子だけのはずなのに、何故かそこに新島くんだけはナチュラルにその輪に溶け込んでいるのであった。

 これも所謂クラスのカースト最上位の成せる業なのだろうなと、何だかしーちゃんにばかり話しかけているような気がする新島くんが俺は少し気になった。



 そして、そんな視線を向ける俺の事を、またしても三木谷さんが少し面白そうに微笑みながら見て来ているのであった。


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