76話「プレゼント」

 放課後。


 久々の学校だったせいか、はたまた後ろの席のしーちゃんからのツンツン攻撃のせいか、なんだか非常に長く感じた授業もようやく終了した。


 孝之はこれから部活があるとの事で、今日は清水さんもその応援に向かっていった。

 うちの高校には、どの部活もマネージャーという役割は無いのだが、よくバスケ部の応援に向かうようになった清水さんは、気が付くと今では実質マネージャーのような立ち位置に収まっているそうだ。


 そんな清水さんは、その美貌も相まって『バスケ部の勝利の女神』として部全体から崇められており、そんな状況に孝之も満更じゃない様子だった。



「じゃ、帰ろうか」

「うん!」


 俺は同じく帰り支度を終えたしーちゃんに声をかけると、そのまま一緒に教室を出た。


 新学期早々という事もあり、しーちゃんへ向けられる視線は以前より多くなっているように感じられる。

 それは当然、久々にアイドルしおりんの姿を見れるという喜びからのものがほとんどだが、その中にはやっぱり俺が隣を歩いているのをよく思っていないような視線も突き刺さってくるのを感じた。


 しかし、それに気づいていないのか気にしていないのか、見えない尻尾をブンブンと振りながら楽しそうに隣を歩くしーちゃんを見て、俺もこの程度気にしていられないなと思った。


 自分達、あくまで友達としてですから!と大嘘の態度をつきながら、俺は堂々としーちゃんの隣を歩いてやった。



「ねぇたっくん、このあと寄り道していかない?」

「ん?今日はバイトも無いしいいよ、どこ行きたい?」


「パンケーキ!」


 俺の質問に、やっぱり見えない尻尾をブンブンと振りながら答えるしーちゃん。


 何故だかおばあちゃん家で飼ってる犬を思い出してしまった俺は、そんな幸せそうにするしーちゃんに思わず笑みが零れてしまいながらオッケーした。



 こうして俺達は、帰り道に駅前から少し離れた所にあるパンケーキのお店へとやってきた。

 ここへ来るのは今回が初めてで、どうやらここは以前しーちゃんがリサーチしていた『行きたいパンケーキ屋さんリスト』の内の一つらしい。



「ここも素敵だねっ!」


 席についたしーちゃんは、楽しそうに周囲をキョロキョロとしている。

 ちなみに今日も、校門を出たところでちゃんと伊達メガネをしているため、一応しーちゃんは現在変装中である。


 それでも、しおりん本人だとはバレてはいなくともその溢れ出るオーラに、やっぱり周囲からの視線を集めてしまっているのであった。



 注文したパンケーキが届くと、しーちゃんは嬉しそうに写真を撮り出した。

 そういえば、パンケーキついでに写真撮られた事とかあったなぁと思い出しながら、俺はそんなしーちゃんを微笑みながら見守った。


 すると、しーちゃんは「えいっ!」と言いながらカメラをこちらに向けると、そのまま俺の顔も撮影しながら楽しそうに笑っていた。



「たっくんとの思い出がまた増えたなぁ~♪」


 と、さっき撮った写真を楽しそうに眺めるしーちゃんに、俺はやれやれと笑った。

 いきなり撮られたけど、まぁ減るもんじゃないし喜んでるみたいだから良しとする事にした。



「そうだ、しーちゃん」

「ん?なーに?」


 それから俺は、美味しそうにパンケーキを食べるしーちゃんに声をかけた。

 フォークを咥えながら、きょとんとした顔で聞き返してくるしーちゃん。



「はい、これ」


 そんなしーちゃんに、俺は鞄から取り出した包装紙に包まれた一つの箱を手渡す。



「え?なにこれ?」

「開けてみて」


 訳が分からないながらも、しーちゃんは俺の言葉に頷くとそのまま少し頬を赤くしながらその箱を開けた。



「……これ、くれるの?」

「うん」

「な、なんで?」


「しーちゃんと付き合ってからさ、まだ何も形として残るものをあげられてなかったなと思って」


 俺が渡したのは、ネックレスだった。

 以前一人で買い物をしている時、たまたまこれを見つけてしーちゃんに似合いそうだなと思った俺は、勢いでそのまま買っておいたのだ。


 だから、今日ちゃんと渡せたらなと思って鞄に入れておいたのだが、今が丁度良いと思って渡す事にした。



「たっくん、つけてみてもいいかな?」

「うん、俺も見たいかな」


 しーちゃんはそのネックレスを取り出すと、そのまま自分の首につけてくれた。

 シルバーのネックレスで、指輪の形をしたトップがついているとてもシンプルなデザインのものだ。



「ど、どうかな?」

「うん、やっぱりよく似合ってるよ」


 首から下げたネックレスを摘まんで嬉しそうに微笑むしーちゃんは、それから恥ずかしそうに感想を聞いてくる。

 勿論俺は、やっぱりよく似合っているしーちゃんの姿に思わず見惚れつつも、言葉を濁すことなく素直に褒めた。


 そんな俺の言葉と態度に、しーちゃんは顔を真っ赤にすると「あぅぅ」と呻きながら俯いてしまった。



「でも、わたしばっかり貰ってたら悪いよ……」

「そんな事ないよ、ちゃんとしーちゃんからも貰ってるから」

「え?なにを?」


「弁当」


 何の事と首を傾げるしーちゃんに、俺はニカッと笑って答えた。

 あんなに美味しい弁当を食べさせて貰ってるんだから、これでも全然釣り合わないぐらいだった。


 そんな俺の言葉に、しーちゃんは予想していなかったのかちょっと驚いたあと、少し恥ずかしそうに微笑むと、



「じゃあ、そんな優しいたっくんのため、明日は唐揚げ多めにしちゃおうかな」


 そう言ってちょっと悪戯っぽく笑うしーちゃんの姿は、やっぱりこの上なく可愛かった。


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