67話「そして二人は…」

 ついに俺は、しーちゃんにこれまでずっと想い続けていた気持ちを伝えた。


 今日を迎えるまでは、自分が女の子に向かって告白をするだなんて正直想像も出来なかった。



 でも俺は、あの頃と何も変わっていないしーちゃんにまた恋をしたんだ。


 美人で、可愛くて、オマケに国民的アイドルの超が付くほどの有名人で、とてもじゃないけど自分と釣り合うだなんて思えない高嶺の花。


 それが、世間の見る三枝紫音という存在だ。


 だけど実際は、彼女の魅力はその容姿や肩書だけじゃない。

 誰とでも分け隔て無く接してくれて、よく笑って、それから時々挙動不審になるけどそれも全部可愛くて――



 そんなしーちゃんだからこそ、俺はまた恋をしたんだ―――




 いざ告白をしてみると、不思議と緊張は無かった。


 今までの関係が壊れてしまうのではないかとか、大好きなしーちゃんが遠くに離れてしまうのではないかとか、そんな不安は常に俺の頭の中に付き纏っている。今だってそうだ。


 でもそれ以上に、今目の前に座るしーちゃんの事を俺はもっと知りたいし、叶うならこれからもずっと隣に居たいって願ってしまうんだ。


 そんな想いを込めながら、俺はしーちゃんの事を真っすぐ見つめ返事を待った。



 まるで時が止まったかのように、目の前のしーちゃんは少し驚いた顔をしながら固まっていた。



 すると、しーちゃんのそのクリクリとした大きな瞳から、一粒の涙が零れ落ちる。


 そしてしーちゃんは、その流れ落ちる涙を拭う事もせず、



「……夢みたい」


 と一言呟いた。



「……夢じゃない、よね?」


「……うん、多分ね」


「……なにそれ」


 俺の中途半端な答えに、しーちゃんは泣きながら笑った。



「これが夢でも現実でもどっちでもいいさ。だって、今しーちゃんの目の前にいる俺が、しーちゃんのことが大好きなことに変わりはないんだから」


「そっか……うん、そうだね」


 俺の言葉に、頷くしーちゃん。


 そしてハンカチで自分の涙を拭うと、覚悟を決めた様子で真っすぐ俺の顔を見つめる。

 膝の上に置かれたその両手は若干震えているが、堪えるようにぎゅっと握られる。



 その様子に、俺も覚悟を決める。

 これからしーちゃんが口にする言葉を、それがどんな言葉であってもちゃんと受け入れるという覚悟を――。


 しーちゃんの目を真っすぐに見つめ返しながら、不安と、緊張と、それから淡い期待を胸に抱きつつ、次の言葉を待った――――。









「……わたしも、たっくんの事がずっとずっと大好きでした。……こんなわたしで良ければ、よろしくお願いします」





 そう言って、しーちゃんは嬉しそうにふわりと微笑んだ。



「そ、それって……」


「……うん、わたしはたっくんの彼女で、たっくんは、わたしの彼氏……だよ」



 俺の疑問に、耳まで真っ赤になったしーちゃんは嬉しそうにそう答えてくれた。


 その言葉のおかげで、ようやく俺にも実感が湧いてくる。



 そっか……しーちゃんが、俺の彼女……



 ――ダメだ、やっぱり夢みたいだ。


 でも、これは夢なんかじゃなくて――。




「ねぇたっくん、ちょうど天辺に来たみたいだよ!」


 窓の外を眺めながら、しーちゃんは話題を変えるように楽しそうに話しかけてくる。

 だから俺も、窓の外を眺めてみる。


 外は辺り一帯が夕焼け色に染まっていて、確かにとても綺麗な景色が広がっていた。


 すると、向かいに座っていたしーちゃんは急に立ち上がると、俺の隣にピタッと座ってきた。



「ちょ!しーちゃん揺れるから!」


「アハハ、平気だよ!それよりたっくん、記念撮影しよ!」


 観覧車が揺れて焦る俺を笑いながら、しーちゃんは鞄からスマホを取り出した。


 そして、俺の顔の隣にその小さくて可愛らしい顔を近づけると、



「……付き合った記念だよ」


 そう言って、腕を伸ばして掲げたスマホのシャッターボタンを押した。


 そのスマホの画面には、ちょっと困った顔をしながら微妙な笑みを浮かべる俺と、隣で嬉しそうに微笑むしーちゃんの顔が写っていた。


 そんな記念写真が何だか嬉しくて可笑しくて、俺達はお互い吹き出すように笑い合った。



 そして――





「……大好きだよ、たっくん」


「……俺も、しーちゃんのことが大好きだ」



 見つめ合いながら、俺達はもう一度確かめ合うようにそう言葉を交わして、微笑み合ったのであった。



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