68話「これから」※第二章完結

 告白を終えた俺は、隣にピタリとくっついて座るしーちゃんと無事に付き合える事になった。


 時間が経つに連れて徐々に実感が湧いてくるのと同時に、現実味が薄れていくという不思議な感覚に陥っていた。


 隣で微笑むしーちゃんが俺の彼女だなんて……やっぱり信じられないというか、嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだった。



「たっくん?」


 そんな俺の様子に気付いたしーちゃんは、きょとんとした顔で首を傾げて聞いてくる。



「いや、改めて現実味が無いっていうか、とにかく嬉しいなって思ってただけだよ」

「フフ、そっか、じゃあ同じだね」


 正直に思いを伝えると、同じだねと微笑むしーちゃん。


 同じだね、か――。

 しーちゃんも同じ気持ちでいてくれている事が、俺はやっぱり嬉しかった。




 ◇



 無事付き合う事になった俺達は、手を繋ぎながら観覧車から降りた。


 そのまま出口を潜ると、先に出ていた孝之と清水さんが俺達の事を待ってくれていた。


 そして、手を繋ぐ俺としーちゃんを交互に見ると、本当に嬉しそうに二人とも微笑んでくれた。



「おめでとう、でいいんだよな?」

「ああ、俺達は付き合う事になったよ」

「そうか、良かったな卓也!!」


 そう言って、孝之は俺の肩に手を回すと本当に嬉しそうに笑ってくれた。


 かなり恥ずかしかったけど、俺はこうして祝福してくれる孝之が本当に嬉しくて、そしてこれまで色々と本当に有難うという気持ちでいっぱいになった。


 清水さんも、しーちゃんの元へと駆け寄ると両手を握り、それから嬉しそうにブンブンと振っていた。

 そんな清水さんに、しーちゃんも嬉しそうに微笑んでいた。



「まぁこれで、正真正銘のグループデートになったわけだ!やべぇ、俺ちょっと泣きそうだわ」

「なんでお前が泣くんだよ」


 嬉し泣きをしそうになっている孝之を見て、俺も目頭が熱くなるのを感じた。

 俺の事を、自分の事のように喜んでくれる親友の姿に何も思わない方が嘘ってもんだ。


 今日という場を用意してくれた事もそうだし、本当に孝之には感謝してもしきれないぐらいだった。



「まぁこれで、あの卓也が彼女持ちになったどころか、その相手があの三枝さんだなんて中学のみんなが聞いたら驚いて泡吹くだろうな!」

「それは……うん、自分でもそう思うわ」


 たしかに、俺の彼女があの三枝紫音だと聞いたら、全ての知り合いが驚くのは間違いないと思う。

 泡を吹くかは知らないけど。



「でも孝之。それから清水さんも一ついいかな。俺としーちゃんが付き合った事は、暫く周りには秘密にしておいて欲しいんだ。やっぱり色んな目があると思うから、暫く様子を見るべきだと思うんだ。って、勝手に決めちゃってるけど、良かったかな?」


 俺はまだ、しーちゃんと付き合った事はみんなには秘密にすべきだと考えた。


 これは別に、自分が目立ちたくないとか、保身のために言っているわけでは断じてない。

 そんな覚悟が無かったら、そもそも告白自体していないから。


 じゃあ何故かと言うと、それはやはり有名人であるしーちゃんに何かあるといけないと思ったからだ。


 何があるかなんて分からないけど、所謂スキャンダルのような扱いになってしまったら、きっとしーちゃんが大変な事になるのは確かだから。

 だから一先ず関係は伏せておいて、暫く様子を見ても悪い事はないだろうと考えた。



「うん、そうだね」


 俺の言葉に、しーちゃんはしっかりと頷きながら返事をしてくれた。


 そして、



「……それに、そっちの方が秘密の恋愛してるみたいで、楽しいかも……」


 そう言って頬を赤らめながら微笑むしーちゃんは、やっぱり最強に可愛かった。



「よし、分かった。じゃあこの事は、俺達だけに留めておくとしよう」


 そう言って孝之は頷き、それに合わせるように清水さんもニッコリと頷いてくれた。



 なにはともあれ、孝之の言う通り正真正銘のグループデートになった今日の遊園地は、最後まで楽しむ事が出来た。




 ◇



 そして遊園地からの帰り道、俺はしーちゃんと手を繋ぎながら電車に揺られた。


 繋いだ手、そして触れ合う肩から伝わってくるしーちゃんの体温は温かくて、会話は無くてもずっとしーちゃんの温もりを感じられて心地よかった。



「じゃ、俺達は行くわ!またな!」

「おう!」


 地元の駅に着いたところで、孝之は清水さんを近くまで送って行くという事で別れた。



「じゃあ、わたしもここで」

「あ、うん。今日は本当にありがとう。……えっと、それからこれからもよろしくお願いします」


「うん、こちらこそよろしくお願いします」


 何故か敬語になってしまった俺に、ちょっと可笑しいように微笑んだしーちゃん。

 それから、同じく敬語で返事をしたしーちゃんは、そのままバイバイと小さく手を振りながら去っていった。


 俺はなんだかまだここから離れたくなくて、そんなしーちゃんの背中が見えなくなるまで見送った。




 ◇



 すっかり日が落ちた帰り道を一人歩きながら、俺は今日までの事を思い出した。



 最初は、コンビニに現れる度とにかく挙動不審だったしーちゃん。


 だけど、席が隣になると徐々に仲良くなって、Lime交換したり、サインTシャツをくれたり、DDGのライブでも一緒になったりしたっけな。


 遠足では同じ班になったし、その後カラオケに行って遊んだりしているうちに、気が付くと俺達四人はいつも一緒に居るような仲になって、それから孝之と清水さんは付き合いだした。



 それから、しーちゃんが小さい頃一緒に遊んでいたあのしーちゃんだと知った時は本当に驚いたな。



 しーちゃんと知り合ってから、思えば本当にこれまで色々あったよなぁと俺は、そのどれもが楽しい思い出すぎて思わず笑みが零れてしまう。




 ――ピコン



 そんな事を思い出しながら歩いていると、スマホからLimeの通知音が鳴るのが聞こえてきた。


 俺はポケットからスマホを取り出して確認すると、それは先ほどバイバイしたしーちゃんからのLimeだった。



『たっくん、今日は一日本当にありがとう。大好きだよ』


 その一文を見て、俺はやっぱり嬉しすぎて笑みが零れてしまう。


 すぐに返事を返そうとしたが、続けてしーちゃんから画像が送られてきた。


 なんだろうと思いその画像を開くと、それは観覧車で撮った付き合った記念のツーショット写真だった。


 改めて見ると、やっぱり俺の表情がぎこちなくて正直撮り直したいぐらいだったけれど、隣で顔をくっつけながら嬉しそうに微笑むしーちゃんを見て、俺はまぁいっかと思った。


 俺はその画像を三回保存すると、すぐに返事を送信した。



『こちらこそありがとう。俺も大好きだよ』




 ◇



 それから帰宅した俺は、すぐにシャワーを浴びて食事を済ませると、部屋のベッドに大の字に寝転んだ。


 スマホを確認するが、あれからしーちゃんからの返信は無かった。


 いきなり踏み込みすぎたかなとちょっと不安になったが、それでも俺達はもう付き合っているんだし、お風呂とかなんか理由があるんだろうと気にしない事にした。


 しーちゃんと付き合う時点で、俺はネガティブ思考は卒業したんだ。


 そう思い、とりあえず漫画を読みながら俺は眠気が来るまで部屋でゴロゴロと過ごしていると、



 ――ピコン


 Limeの通知音が鳴った。


 やっぱり内心気になって仕方なかった俺は、慌ててLimeを確認するとそれはしーちゃんからのLimeだった。

 俺は安心と喜びとドキドキの感情に一気に襲われながら、送られてきたLimeを開いた。




『返事が遅れてごめんなさい、嬉しすぎて死んでました』



 それは、あまりにも気の抜けた一文過ぎて、拍子抜けした俺は思わず吹き出してしまった。


 死んでましたって何だよと笑っていると、すぐにしーちゃんからの着信が鳴った。



「も、もしもし?」


「あ、たっくん?ご、ごめんね電話しちゃって」


「いや、いいよ、どうした?」


「別に何も無いんだけど……ちょっと、たっくんの声が聞きたいなぁと思って……」


 まだ別れて二時間経っていないのに、声が聞きたいからと電話してくるしーちゃんが可愛すぎて、俺の中で一気に込み上げてくるものがあった。



「そ、そっか、うん、俺もしーちゃんの声が丁度聞きたかったところだから……」


「ほ、本当?」


「うん、本当だよ」


「なら、嬉しいな……」


 耳元で電話越しに聞こえてくるしーちゃんの声に、俺のドキドキはどんどん加速する。



「あ、そうだ!わたしね、さっき送った画像待ち受けにしたよ!」


「え?マジで?」


 さっきというのは勿論、付き合った記念のツーショット写真の事だろう。



「……たっくんは、してくれないのかな?」


 そんなしーちゃんのちょっと悪戯っぽい問いかけに、俺は笑って答える。



「分かった。俺も待ち受けにするよ」


「フフ、良かった、これでお揃いだね!ねぇたっくん、これからもこうして寝る前とかに電話してもいいかな?」


「うん、全然良いよ。っていうか、俺からもかけてもいいかな……?」


「え?う、うん!もちろん!エヘヘ」


 しーちゃんの嬉しそうな返事に、俺はほっとした。


 こうして俺達は、付き合った初日という事もありお互いが眠くなるまでずっと電話をした。



「それじゃ、おやすみ」


「うん、またね」


 名残惜しい気持ちを抱きつつ、俺はそっと電話を切った。

 こんな長電話するのは人生で初めてだったけれど、それはとても幸せな時間だった。



 俺はベッドで横になりながら、待ち受け画像に設定したツーショット写真を眺めた。


 隣で幸せそうに微笑むしーちゃんの事を、俺はこれから必ず幸せにしようと決心しながら、この日はそのまま幸せな気持ちと共に眠りについた。


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