66話「観覧車」
「それじゃあ、最後にあれ乗っておきますか」
お化け屋敷を離れた俺達は、それからしーちゃんでも平気そうなアトラクションを四人で仲良く楽しんだ。
そして、そろそろ良い時間帯になってきたというところで、孝之は『あれ』に向かって歩き出した。
道中、「『あれ』って何だよ?」と聞いても、「まぁまぁ」とはぐらかす孝之。
清水さんも行き先を知っているのか何も言わずに孝之の隣を歩き、しーちゃんはと言うと何だかここへ来た時よりもピッタリと俺の隣に並んで歩いていた。
――そして、そんな孝之に最後に連れてこられたのは、観覧車だった。
俺はでっかい観覧車を見上げながら、成る程なと思った。
隣に視線を向けると、孝之、そして清水さんの二人は、何も言わず視線で物語っていた。
全く……何から何までお節介なカップルだが、やっぱりここしかないよな思った俺は、そんな二人に向かって笑って応えた。
――サンキューな。まぁ、やれる限りやってみるさ
ちなみにしーちゃんはというと、子供のように「うわぁ!」と声を漏らしながら、楽しそうに観覧車を見上げていた。
「これ乗るの?わたし初めてなんだよね!近くで見るとすっごく高いんだね!」
やっぱり子供のように、無邪気にはしゃぐしーちゃん。
俺は、そんなしーちゃんに微笑みながら「そうだね」と一言返事をした。
「んじゃまぁ、ここはそれぞれ別れて乗るとしましょうか。行こう、桜子」
そう言うと、孝之は俺の肩をポンと一回叩いて微笑み、それから清水さんの手を取って先に観覧車の入り口へと向かって歩いて行った。
「たっくん!わたし達も早く乗ろう!」
「うん、そうだね」
こうして俺も、はしゃぐしーちゃんに手を引かれながら二人で観覧車へと向かった。
◇
俺はしーちゃんと向かい合う形で観覧車の席に座った。
外は綺麗な夕焼け色に染まっており、徐々に観覧車が上がって行くにつれて周囲の景色が広がっていく。
しーちゃんはサングラスを外すと、その目をキラキラとさせながら身を乗り出すようにその景色を嬉しそうに眺めていた。
「すごい!綺麗だねたっくん!」
「うん、本当に」
うわぁと景色を楽しむしーちゃんを、俺は微笑みながら見つめていた。
本当に、綺麗だなって思った。
それから暫くすると、しーちゃんも落ち着いたのか俺と向き合って座り直した。
そしてしーちゃんは、俺の顔を見るや否や急に顔を赤らめながら下を俯いてしまった。
「あ、あの――」
「はは、大丈夫だよ」
無邪気にはしゃいでしまっていたせいか、それともようやく密室で二人きりな事に気が付いたせいか、急に恥ずかしがるしーちゃん。
俺はそんなしーちゃんが可笑しくて、思わず笑ってしまう。
何はともあれ、こうして俺は最後の最後でしーちゃんと二人きりで落ち着いて向かい合う事ができた。
今日は本当に楽しかった。
色んなしーちゃんも見られた。
時にちょっとすれ違ってしまった事もあったけれど、結果としてはあの白崎の事も含め、俺はこれまでみんなに背中を押して貰っていた事に気付き、そして感謝する。
――みんな、今まで本当にこんなダメダメな俺のためにありがとう
――こんな俺だけど、これからちゃんと自分と……そして、しーちゃんと向き合おうと思うよ
そう覚悟を決めた俺は、一度深呼吸をする。
――よし、大丈夫だ
そして俺は、目の前で恥ずかしそうに座るしーちゃんの顔を真っすぐ見つめながら、ゆっくりと口を開いた――
「今日は楽しかったね」
「……うん、そうだね。……たっくんが居てくれたから、楽しかったよ」
俺と一緒だったから楽しかったと、ふわりと微笑むしーちゃん。
その様子は、背景の夕焼けと合わさり本当に綺麗だった。
「……俺もだよ。俺も、しーちゃんが居てくれたから楽しかった」
「えっ?……う、うん、なら嬉しい、かな……」
しーちゃんの頬が、夕焼けと同じように赤く染まっていくのが分かる。
そんなしーちゃんを見つめながら、俺はついに自分の気持ちを言葉にする。
「……今日はしーちゃんに、どうしても伝えたいことがあるんだ」
「え……」
驚くしーちゃん。
そして俺は、一呼吸置いてから言葉を続ける――
「俺はしーちゃん……いや、三枝紫音さんのことが、大好きです。こんな取り柄の無い俺ですが、貴女を好きな気持ちだけは絶対に誰にも負けません。だからその……良かったら、付き合って下さい」
こうして俺は、ついに自分の気持ちを伝えたのであった――。
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