65話「お化け屋敷」
お化け屋敷の前へとやってきた俺達。
道中、清水さんは目に入る他のアトラクション全てに興味を示して行きたがっていたのだが、その全てを否定するわけでもなく「分かった、
でも、すっかりそんな気を使わない関係になっている二人が微笑ましくて、それからやっぱりちょっとだけ羨ましかった。
「じゃ、お先にっ!」
ついに俺達の番が回ってきたというところで、どうしようかの相談も無く孝之は腕にくっ付いて震えている清水さんを連れて、さっさと二人でお化け屋敷の中へと入って行ってしまった。
こうして、四人で仲良く入る選択肢もあったのだが、俺としーちゃん二人だけが外に残される形となった。
「じゃあ、俺達も行こっか」
ここは男の俺がリードしないとなと思い、勇気を出してしーちゃんの手を取りそのままお化け屋敷の中へと入った。
しかし、いきなり手を取ったのが不味かったのか、手を取った瞬間しーちゃんは凄く驚いたように一回ビクッとしてしまっていた。
やっぱり不味かったかなと思ったけど、それからしーちゃんは俺の手をぎゅっと握り返してくれたので、どうやら問題は無かったようで安心した。
お化け屋敷の中へ入ると、そこは結構暗くて、それから気温もちょっと低く感じた。
でも、ここならもう周りの人に見られる心配も無いため、しーちゃんはサングラスを頭の上にかけてその素顔を見せてくれた。
ヤバい……今日の服装も相まってやっぱり可愛いなぁ……。
吊り橋効果というのだろうか、いつも見ているはずなのに今は特に可愛く思えてしまう。
「……たっくん」
「ん?ど、どうかした?」
思わずしーちゃんに見惚れていたところに声をかけられた俺は、驚いてちょっときょどりながら返事をしてしまった。
いかんいかん、しっかりしろ俺!
「あの、ね?手、握ったままでいいかな?」
「え、手?」
そういえば、まだしーちゃんと手を繋いだままだった。
というか、しーちゃんの方からぎゅっと握ってきており、離さないも何も離せないが正しかった。
でも、こうしてしーちゃんと手を繋いだままいれるのならば俺としても願ったり叶ったりなので、断る理由なんて何も無い俺は「いいよ」とニッコリ返事をした。
するとしーちゃんは、安心したように一回ため息をついたあと、ちょっと困り顔で微笑みながら「良かった、ちょっと怖いんだ」とカミングアウトしてきた。
行きたがった本人が怖がっている事にちょっと驚いたけど、まぁ怖いからこそ面白いってのもあるよなと思った俺は、そのまましーちゃんと手を繋いだまま中へと進んでいった。
◇
少し進むと、一本道の先に露骨に怪しい井戸が一つ置かれていた。
これは完全に中から何か出てくるパターンだなと思った俺は、しーちゃんは大丈夫かな?と心配になって隣を見た。
すると、しーちゃんもその事に感づいているようで、ちょっと青ざめたような顔をして小刻みに震えていた。
――ちょっとじゃなくて、結構怖いんじゃないか?
と思ったけど、そんな震えるしーちゃんがやっぱり可愛くて、俺はお化け屋敷に来ているのに思わず顔が緩んでしまった。
そして井戸の近くに近づくと、案の定中から女性のお化けがガバッと飛び出してきた。
「きゃあ!!」
するとしーちゃんは、驚いて叫びながら手を繋いでいる俺の腕へとぎゅっとしがみ付いてきたのである。
俺も、分かっていてもやっぱり井戸からお化けが出てきた事に正直少し驚いてしまったのだが、はっきり言ってそれどころではなかった。
――揺れる髪から漂うシャンプーの香り
――そして何より、腕に当たるその柔らかい感触
この状況に、一気に俺の心拍数が上がってしまう。
お化けなんかより、しがみ付くしーちゃんの方がよっぽど心臓に悪かった。
俺は目の前のお化けと、それから腕にしがみ付きながらプルプルと震えるしーちゃんという訳の分からない状況に若干パニックになりながらも、とりあえず怖がるしーちゃんを宥めながら俺は先を急いだ。
多分、ここに長居するのは俺のメンタル的にも限度があるから、早くここを出ないとどうにかなりそうだったから。
「ご、ごめんねたっくん。でもこのままで居させてぇ」
震えながら俺の腕にしがみ付き、涙目で俺の顔を見上げてくるしーちゃんの破壊力は、最早言うまでもなかった。
もうここの何よりも、今のしーちゃんの破壊力の方が俺は恐ろしかった。
しかしそんなに怖いのに、何故ここへ来たがったんだ?と正直言いたいところだけど、とりあえず怖がるしーちゃんのためにも俺は早く出られるように進むペースを上げた。
それからお化け屋敷を出るまで、しーちゃんは飛び出してくるお化けの全てに驚いていた。
そして驚く度に、ぎゅっと俺の腕にしがみ付いてくる事で感じられるその感触に、俺は平静を保つのが正直やっとだった。
こうして、俺としーちゃんは理由は違うけれどそれぞれ命からがらになりながらも、無事お化け屋敷から脱出する事に成功したのであった。
「ど、どうしたよ?」
外へ出ると、そんなヘトヘトになっている俺達を見た孝之がちょっと引きながら聞いてきたが、正直それに答える余力は残されてはいなかった。
隣を見ると、しーちゃんもヘトヘトになりながらもその頬は真っ赤に染まっており、そしてなんだかやりきったように満足そうな表情を浮かべていた。
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