64話「昼食を」
YUIちゃんと白崎が去っていったところで、俺としーちゃん、それから孝之と清水さんの四人でテーブル席に座り直した。
先ほど隣に移動してきたしーちゃんは、今度は向かいの席ではなく俺の隣の席にそのまま腰掛けた。
なんだか、その事が俺は内心結構嬉しかった。
向かい合うのも顔が見れるから良いのだが、それでもやっぱり隣というのは距離が近い分体温を感じられるというかなんと言うか……ダメだ、ちょっとこの考え方は気持ち悪いから止めておこう。
「いやぁ、まさかYUIちゃん達までいるなんてビックリだな」
フゥーと気が抜けるようにため息をついた孝之が、先ほどまでの出来事を思い出していた。
確かに、一般人の俺達からしたらやっぱり普通にあり得ない状況だったよなと思う。
「孝くんがビックリしたのは、YUIちゃんに彼氏がいると思ったからじゃなくって?」
「え?いや、ち、ちげーよ!?」
清水さんに痛いところを突かれた孝之は、俺から見ても変なリアクションをしていた。
これはひょっとして図星だったかなと思っていると、清水さんもそんな孝之の事を目を細めながらじーっと見ていた。
その視線にたじたじになった孝之は、とりあえずハハハと乾いた笑いで誤魔化していた。
そんな孝之がちょっと可哀そうだったから、せっかく遊園地に来てるんだし俺は話題を変えてあげる事にした。
「それで孝之、乗り物はどうだったんだ?」
「ん?お、おう!!そりゃもう楽しかったぜ!!なぁ桜子さん!?」
俺の出した助け舟に、孝之はすぐに飛び込んできた。
「うん!どれも最高だった!」
清水さんも、本気で孝之を問い詰めたかったわけではないようで、目をキラキラとさせながら孝之と二人で楽しかったトークが繰り広げられた。
――ズズズッ
楽しそうに話をする二人を眺めながら、俺は良かった良かったと思っていると、突然しーちゃんの席から何やら引きずるような物音が聞こえてきた。
何だ?と思って隣を見ると、それはしーちゃんが座る椅子を引きずった音で、心なしかさっきよりしーちゃんとの距離が縮まっているように感じた。
――あれ?近づいてきた?
そう思ってしーちゃんの様子を伺うと、少し頬を赤らめながら二人の楽しかったトークをニコニコと聞いている様子だった。
まぁいいかと思い、俺はそろそろお昼時だった事を思い出してご飯どうするか聞いてみた。
「そうだな、前のプールみたいに二手に分かれるか……いや、前は卓也達が買ってきてくれたから、今回は俺と桜子で買ってくるよ。いいよな?」
「うん、行こっか!」
そう言って、孝之と清水さんは二人で仲良くハンバーガーを買いに行ってくれた。
こうしてなんだか色々あったけれど、ここへ来て初めて俺はしーちゃんと二人っきりになった。
もう済んだ話だが、それでもさっきのやり取りがあった事で、ちょっとだけ気まずさが残ってしまっていた。
「あ、あの、たっくん」
すると、ちょっと気まずそうにしながらしーちゃんの方から話しかけてきた。
「な、なに?」
「あ、あのね、今日はたっくんと遊びに来てるから、だからその、こ、これからは離れないようにずっと隣に居ても……いいかな?」
しーちゃんは、もじもじとしながらそう言うと、頬を赤らめながら俺の顔を上目遣いでそーっと見つめてきた。
いや、もうこれ……
「うん、隣に……いて下さい……」
俺は急激に顔が熱くなるのを感じながら、そう返事した。
俺の返事を聞いたしーちゃんは、下を俯きながらも嬉しそうに「はい」と小さく返事をしてくれた。
そして、
――ズズズッ
また、隣から椅子が引きずられる音が聞こえてきたのであった―――。
◇
それから俺達は、孝之達が買ってきてくれたハンバーガーを美味しく頂いた。
すっかり元のご機嫌な様子に戻ったしーちゃんは、やっぱりハンバーガーが好きなのか美味しそうにハンバーガーをちょっとずつ食べていた。
もうその、美味しそうにご飯を食べているしーちゃんを見ているだけで一気に空気が和んだ。
それは、決して俺だけではなく孝之も清水さんも同じで、気が付いたらニコニコと食事をするしーちゃんを俺達三人が優しく見守る会になっていた。
「それじゃ、次どこ行く?」
ハンバーガーを食べ終えたところで、孝之が聞いてきた。
次かぁ、と行きたい場所を考えていると、隣でしーちゃんがバッと元気よく手を挙げた。
「はい、三枝さん」
「はい!お化け屋敷がいいと思いますっ!」
孝之先生に当てられた三枝生徒は、元気よくお化け屋敷に行きたいと提案した。
お化け屋敷か。
しーちゃん、お化けとかは得意なのかな?と思ったけど、行きたがるぐらいだからホラー系は得意なんだろうな。
まあこれだけ行きたいと言う人がいるなら断る理由もないなという事で、次はお化け屋敷へ行こうという事になった。
しかし清水さんだけは、お化けが苦手なのか若干顔を引きつらせていたのだが、それに気が付いた孝之はちょっと悪戯っぽい表情を浮かべながら清水さんに有無を言わせなかった。
こうして俺達は、フードコートを出て次はお化け屋敷へと向かう事になった。
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