62話「恋敵?」
俺は今、猛烈に困惑中である。
一緒に遊んでいたはずのしーちゃんの隣には、何故か若手イケメン俳優の白崎剣が座っており、そして今しーちゃんは、俺とではなくその白崎と楽しそうにお話し中なのである。
一緒に来たのは俺なんだから、普通に声をかけて割り込めばいい。
本来それでいいはずなのに、そんな光景を前にした俺の足は何故かそれ以上動かなかった。
楽しそうに語り合う美男美女の二人を見ていると、なんだか俺の方が除け者な気がしてならなかったのだ。
なんだこれ……。
さっきまであれだけ楽しかったのに、この感覚はなんなんだろう……。
――胸が苦しい
――きつい、帰りたい
気が付くと俺は、ここに居ることすら正直きつくなってしまっていた。
「あ、たっくん!」
しかし、そんな立ち竦んでしまっている俺に気が付いたしーちゃんが声をかけてくる。
片手をあげながら、さっきと変わらない様子で楽しそうに呼びかけてくるしーちゃん。
しかし俺は、そんなしーちゃんの事を真っすぐ見る事が出来なくて、何故か目を逸らしてしまった。
そして、隣に座る白崎もそんなしーちゃんに反応してこちらを振り向いてきた。
やはり白崎は、正面で見てみるとサングラスをしていても分かる程のイケメンだった。
だがそんな白崎はというと、俺を見て少し鼻で笑うように薄っすらと笑みを浮かべた事を俺は見逃さなかった。
それはまるで勝ち誇るような笑みで、途端に俺の中で一気に込み上げてくるものを感じた。
「たっくん?あっ!こ、こちらはね―――」
そんな俺の異変に気が付いたのであろうしーちゃんは、ようやくこの状況の不味さに気が付いたのか少し青ざめながら慌てて隣に座る白崎を俺に紹介しようとしてくれた。
しかし、白崎はそんなしーちゃんの事を片手でそっと制止すると、しーちゃんに向かって任せてとでも言うようにニッコリと笑みを向けた。
そして白崎は、俺の事を真っすぐ見ながら余裕たっぷりといった感じで口を開いた。
「そっか、君が例のたっくんだね」
「だ、だったらなんだよ」
彼は、どうやら俺の事を知っているようだった。
だが俺は『例の』と言われた事がとにかく気に食わなくて、初対面だが吐き捨てるように返事をしてしまった。
しかし白崎は、そんな俺に対しても変わらず余裕たっぷりな感じでやれやれと肩を竦めると、同じ笑みを浮かべたまま言葉を続けた。
「あれ?もしかして嫌われちゃったかな?とりあえず初めまして、僕の名前は白崎剣だ。一応俳優をやっててね、紫音ちゃんとはアイドル時代からの知り合いなんだ」
そう言うと、白崎はしーちゃんに向かって「ね?」と微笑んだ。
そんな白崎のイケメンスマイルを向けられたせいだろうか、あのしーちゃんがそんな彼を前にしてあわあわと困惑してしまっていた。
俺は、なんだかそれがとにかく悔しかった――。
そんな光景を見せられた俺は、しーちゃんを取られてしまったような感覚に陥ってしまったのだ。
……だがそれと同時に、やっぱりしーちゃんと同じステージにいる彼の方が、俺なんかといるよりも自然なんじゃないかと思えてきてしまっていた。
俺は一体何と張り合おうとしているんだと、途端にそんな自分がちっぽけで恥ずかしく感じてきてしまったのだ……。
――でも、ダメだ。
ここで逃げ出す事は簡単でも、逃げたらそれでおしまいなんだから。
どうせ同じおしまいだとしても、もう俺は逃げないって決めたじゃないか――。
そう思い直した俺は、勇気を出して少し震える口を開いた。
「そ、そうか。俺の名前は一条卓也だ。それで白崎くんは、なんでここに?」
ダメだ……言いたい事は言えたけど、やっぱり声で震えてしまう。
格好悪いな俺……チクショウ……。
だが、そんな俺の事をふ~ん?と面白そうに見てくる白崎。
そして白崎は、楽しそうに一度頷くと何故か「いいね」と呟いた。
今の何がいいねなんだ?と、そんな意味不明な白崎を前に俺が戸惑っていると……
「もうっ!!剣くんいい加減にしてっ!!」
もう我慢の限界といった感じで、ガバッと立ち上がったしーちゃんが白崎に向かってそう告げると、それから頬っぺたをこれでもかっていうぐらいぷっくりと膨らませていた。
その表情と頬っぺたから俺はすぐに察した。今のしーちゃんは結構怒っているのだと。
しかし、あれ?なんでここでしーちゃんが白崎に怒ってるんだ?と俺は訳が分からなくなって戸惑っていると、突然後ろから肩をポンと叩かれた。
突然の事に驚いた俺は、バッと後ろを振り返る。
するとそこには、思いもよらない人物の姿があった。
「で?わたしがトイレに行ってる間に、何やってんのよあんた達」
説明してくれる?とニッコリ微笑むYUIちゃんの姿が、そこにはあった。
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