61話「遊園地」
孝之と別れた俺は、帰り道早速しーちゃんにLimeを送った。
『次の金曜日、予定空いてるかな?』
あれから、予め孝之達の空いてる日を聞かされている俺は、しーちゃんを遊園地へ誘うため思い切ってLimeを送ったのである。
すると、しーちゃんからすぐに返信が返ってきた。
『空いてるよ!どうかしたかな?』
そんな本文と一緒に、クエスチョンマークを頭に浮かべたしおりんスタンプも合わせて送ってきたしーちゃん。
俺はそんなスタンプを見ながら、「あぁ、やっぱり可愛いなぁ」と俺は思わずニヤついてしまった。
だが、本題はこれからだと再び覚悟を決めて、俺はまたLimeを送る。
『良かったら一緒に、遊園地に行かない?孝之と清水さんも一緒なんだけど』
――よし、送った。
やっぱり自分から女の子を誘うっていうのは慣れないものだなと思いながらも、一先ず誘いのLimeを送れた事で第一ステップはクリアした。
あとは、しーちゃんからなんと返事が来るかだが……
『遊園地?え、行きたい!』
すると、しーちゃんから二つ返事で行きたいと返信が来たことで、俺はかなりほっとした。
これだけ気が知れてる関係になっても、やっぱり断られる恐怖は拭い切れなかったのだ。
だがこれで、俺は今度の金曜日しーちゃんと遊園地デートが出来るのだと思うと、帰り道一人で歩いているにも関わらず俺の心はぴょんぴょんと躍らずにはいられなかった。
◇
そして、あっという間に約束の金曜日がやってきた。
俺はケンちゃんのところで買った新しい服に着替え、それからヒロちゃんに教えて貰ったヘアセット方法でしっかりと決め込んでから家を出た。
待ち合わせの駅前に到着すると、そこには既に他の三人の姿があった。
「おう!おはよう卓也!なんだ?今日は気合入ってんな!」
「おはようございます。本当だ一条くん、なんだか今日はすっごくイケメンだね!」
「お、おはようたっくん!」
俺の到着に気が付いた三人が、それぞれ俺に挨拶をしてくれた。
俺の姿に少し驚く孝之と清水さん、そしてちょっと恥ずかしそうに挨拶をしてくれるしーちゃん。
俺はそんな三人に、頑張った甲斐があったかな?と思いながら片手を挙げて「おはよう」と返事をした。
今日はバッチリ空も晴れてくれたし、絶好の遊園地日和だった。
よし、まずはしーちゃんととことん遊園地を楽しもう。
俺はそう自分に言い聞かせながら、早速俺達は遊園地へ向かうべく一緒に電車へと乗り込んだ。
「たっくん、遊園地楽しみだね!」
「そうだね、何か乗りたい乗り物とかある?」
「んー、わたし絶叫系はあんまり得意じゃないから、できればあんまり怖くないのがいいかな」
そう言って、困り顔を浮かべるしーちゃん。かわいい。
俺も絶叫系はあまり得意ではないから、正直丁度良かった。
孝之と清水さんはと言うと、二人とも絶叫系が大好きなようでパンフレットを広げて乗りたい乗り物を言い合って楽しんでいた。
孝之はともかく、清水さんがそういうの好きなのは正直ちょっと意外だった。
あとで聞いてみると、清水さんは自分が小さいから昔から高いところが大好きなのだと語ってくれた。
理由は、『いつも見下ろしてくるみんなを見下ろせるから』らしい。
中々尖った理由だなと思ったが、とにかく楽しそうに語る清水さんに俺はそれ以上何も言えなかった。
こうして暫く電車に揺られると、ようやく俺達は目的地である遊園地の最寄り駅へと到着した。
◇
「それじゃ、俺達は先に絶叫系回ってくるから、昼の12時にフードコートに集合ってことで!」
「おう、分かった」
遊園地の入場ゲートを潜ったところで、俺達は二手に分かれる事になった。
まぁ、こればっかりは同じ乗り物には乗れないのだから仕方がなかった。
去り際、孝之は小声で「頑張れよ」と俺の背中をバシッと叩いて去っていった。
俺はそんな、何から何まで気を使ってくれる孝之の背中に向かって笑みを向けながら「サンキューな」と呟いた。
「それじゃあ、わたし達も行こっか」
そして二人きりになったところで、しーちゃんは少し恥ずかしそうにしながら俺の隣へと並んで顔を見上げてきた。
俺は、いよいよ二人きりになったことと、やっぱりそんな今日のしーちゃんも可愛すぎることで一気に体温が上がってくるのを感じた。
今日のしーちゃんは、白のオフショルのトップスにタイト目なデニムにスニーカーという、カジュアルだけど中々に攻めた服装をしていた。
なにより、トップスから覗く白い肌をした肩のラインが本当に綺麗で、嫌でもそこへ視線が向いてしまうのだから仕方ない。
これは何の誇張も抜きに、本人は気が付いているのか分からないが駅に集合した時から周囲の男性からの視線をバッチリ集めてしまっており、今日も大きめのサングラスで変装はしているものの元トップアイドルの溢れ出る貫禄は隠しきれいていないといった感じだった。
ついでにそれは、清水さんという美少女の彼女がいる孝之までも、しーちゃんの事を横目でチラチラと見てしまっていたぐらい、今日のしーちゃんの服装の気合の入り具合は違っていたのであった。
それから俺は、そんなしーちゃんにいつも以上にドキドキしてしまいながらも、一緒にメリーゴーランドやコーヒーカップといったあまり激しくない乗り物をハシゴして遊園地をとことん楽しんだ。
しーちゃんはというと、始終楽しそうにずっと笑ってくれており、俺はそんな楽しそうにしてくれているしーちゃんと一緒に遊べている事で正直胸がいっぱいだった。
そして俺達は、気が付けばもう約束の時間に近づいていたため、孝之達と合流するためフードコートへと向かうことにした。
◇
フードコートに到着して辺りを見渡したが、どうやら孝之達はまだ来ていないようだった。
まぁ暫く二人を待とうという事で、俺達は外から見えやすい席に座って二人が来るのを待つことにした。
しかしそこで、俺はコーヒーカップで回り過ぎてしまったせいか、突如猛烈にトイレへと行きたくなってしまった。
「ご、ごめんしーちゃん!ちょっとトイレ行ってきていいかな?」
「ん?うんいいよ、いっトイレ~」
申し訳ないと思いながら俺が尋ねると、しーちゃんはまさかの親父ギャグを言いながら楽しそうにコロコロと笑った。
そんな楽しそうなしーちゃんに色々つっこみたい気持ちはあるものの、そろそろ我慢の限界だった俺はそそくさとトイレへと向かった。
そうして俺は急いでトイレを済ませると、あまりしーちゃんを一人で待たせるのは不味いかなと思って足早に席へと戻った。
――だが席へ戻るとそこには、しーちゃんの隣に何故か見知らぬ男が座っていた
最初は孝之かなと思ったのだが、明らかにタイプは違うし、それに座っていても分かる程その男は高身長でスタイルが良く、そしてとんでもないイケメンだった。
そう、それはまるで俺達一般人とは違う世界の……まさしく芸能人だった。
コンビニでバイトしているから、俺でも良く知っている。
その男は、最近よく雑誌の表紙とかに載っている今イケイケの若手俳優の
そんな現役の超有名人が、何故かここ遊園地で、しかも俺を待っていたはずのしーちゃんの隣に座り、何やら二人楽しそうにお喋りをしているのであった―――。
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