55話「一日の終わりとLime」

「それじゃ、そろそろ行こっか」


 ふぅと一息つくと、残っていたドリンクを飲み干したあかりんは立ち上がった。


 そんなあかりんに合わせて、「そうだね」と一緒に立ち上がるYUIちゃん。


 あ、もうこの二人行っちゃうんだと、せっかく超が付くほどの有名人と仲良くお喋りできた時間が終わってしまう事に、正直残念な気持ちになってしまう俺達。


 特に孝之はYUIちゃんの大ファンのため、その落胆ぶりは分かりやすかった。

 隣の清水さんがちょっと不満そうにしているのだが、その事にも気づかない程それは大変ガッカリしていた。


 だが、そんな孝之に気が付いたYUIちゃんは面白そうに微笑むと、



「次のライブチケット、紫音経由で二人にあげるから遊びにおいでよ!」


 と孝之の肩をポンと叩いて笑ったのであった。


 その言葉に、露骨に元気になった孝之は「マジ!?絶対行くよ!なぁ桜子!!」と興奮して清水さんの方を振り向いた。


 そんな孝之に若干引きつつも、清水さんとしても今日せっかく仲良くなったYUIちゃんのライブなら行きたいかなと最終的には嬉しそうに微笑んでいた。



「てことで、しおりん行くよ」


 え?しーちゃんも?

 そう思って俺が隣を見ると、仕方ないなという顔をしたしーちゃんも一緒に立ち上がった。



「ごめんね、この二人これからわたしの家に泊まるの」


 マジですか……。

 まさかこの地方の街に、エンジェルガールズのあかりんとしおりん、そしてDDGのYUIちゃんが一緒にお泊り会をしているなんて誰も思いもしないだろうな。


 というか、何そのお泊り会!?気になりすぎる!!というのが正直な感想だった。


 そして、これからしーちゃん家に泊まるって、一気に二人も急に泊まって親御さん含め諸々大丈夫なんだろうかという純粋な疑問も浮かんできた。



「あれ?聞いてない?しおりん今一人暮らししてるんだよ?」


「「「えっ?」」」


 平然と衝撃の事実を口にしたあかりん。

 なんとなく、元アイドルな事もあって家の事とか聞いてこなかった自分達も悪いのだが、まだ高校一年生なのに一人暮らしをしているしーちゃんに俺達は全員驚いた。


 聞くと、元々家は裕福な事は知っていたが、両親は仕事で忙しい事もあり家にほとんど居ないため、おばあちゃんのいるこの街ならとなんとか一人暮らしを許可して貰えたとの事だった。


 元々アイドル時代に稼いだ貯金もあるため、家賃と学費等々はそこから切り崩しながら遣り繰りしているみたいで、だからしーちゃんは度々コンビニに現れていたんだなと納得した。


 家はちゃんとセキュリティーのしっかりとしたマンションの広い一室を借りており、仕事が休みの日はよく両親も行き来しているとの事なので、実質家に居る時とあまり変わらないのだそうだ。


 まぁ、エンジェルガールズとして活躍していたしーちゃんなら、それでも余裕な程貯蓄あるんだろうなぁと思いながら、やっぱり別世界な話に俺はただただ関心した。



 まぁそんなこんなで、先にファミレスを出て行った三人を俺達は見送ると、残された一般人のみの感想会を開催した。



「いやぁ、いきなりYUIちゃんとあかりんだもんな、本当驚いたわ」

「だな!でも良かったな孝之、憧れのYUIちゃんとお話しできてよ」

「あぁ!本当だぜ!……ってあー、まぁファンではあるけど、異性として見てるわけではないっていうか、俺が好きなのは桜子だけっていうかハハハ」


 盛り上がる俺達の事を冷めた目つきで見ていた清水さんに気が付いた孝之は、途端に顔を青ざめながら変な言い訳をしだした。


 そんなたじたじな孝之が可笑しくて、俺も清水さんも思わず笑ってしまった。



「ごめん孝くん冗談だよ。怒ってないよ」

「よ、良かったぁ……」


 笑いながら謝る清水さんに、心底ほっとした様子の孝之であった。




 ◇



 それから俺達は小一時間会話を楽しみ、この日はそのまま解散となった。


 家に帰った俺はさっさとシャワーを浴び、それから自分の部屋のベッドに大の字に寝転んだ。


 ふぅー、今日は本当に色々ありすぎたなと、今日あった出来事を思い出して俺は思わずニヤついてしまう。


 その思い出のどれもにしーちゃんの姿があり、時に可愛く、そして時に挙動不審で面白いしーちゃんの事が俺は益々好きになっていた。


 もう一緒に行動するようになって暫く経つけど、そんなしーちゃんの事はまだまだ未知数な部分が多々あり、これからも当分は今日みたいに驚かされ続けるんだろうなと、俺はそんなしーちゃんとのこれからにワクワクしていた。




 ――ピコン



 すると、枕元に放り投げていたスマホからLimeの通知音が聞こえてきた。


 すぐに俺はスマホを手にすると、それはたった今考えていたしーちゃんからのLimeだった。


 しかもそれは、メッセージではなく画像だった。


 今日はあかりんとYUIちゃんとでお泊り会をしている事を思い出した俺は、もしかしてと思いちょっと期待しながらその画像を開いた。



 そして、スマホの画面に表示されたその画像を見て、俺は思わずプッと笑ってしまった。


 そこには、パジャマに着替えたしーちゃんが幸せそうな顔を浮かべながら眠っている姿が写っており、そんなしーちゃんを笑うあかりんとYUIちゃんが両サイドでピースをしているという、何とも可愛くも楽しそうな自撮り写真だった。


 どうやら、二人が勝手に寝ているしーちゃんのスマホを使って写真を送ってきたようだ。


 イタズラにしてもちょっとやりすぎじゃないか?と思いながらも、ついついそんなしーちゃんが可愛すぎてニヤついてしまう自分がいた。


 今日は一日中本当にずっと遊んでいたから疲れて寝ちゃったんだろうなと思うと、そんなしーちゃんがやっぱりめちゃくちゃ可愛かった。


 それに、プライベートのあかりんとYUIちゃんの写った画像というのも、正直嬉しかった。



 でも、言う事はちゃんと言っておかないと不味いので、俺はメッセージを返した。



『大変可愛らしいですが、人のスマホを勝手に扱うのは不味いですよ!でも画像は本当にありがとう!家宝にします!』


 日に日に増えていく、家宝という名のしーちゃんシリーズ。

 そろそろ専用フォルダを作ったほうがいいかなと思っていると、すぐにLimeの返信が返ってきた。



『たっくんへのサービスショットだよ!こんなしおりんだけど、これからもどうかよろしくね!』



 その返信に、俺は思わず笑みが零れてしまった。


 確かに二人とも現役の有名人かもしれないけど、しーちゃんにとっては大事な友達なんだなと思えて、俺はそれが嬉しかった。



 いい友達もったね、しーちゃん。


 俺はそんな事を思いながらも、今日一日遊び尽くした疲労が一気に押し寄せてきてそのまま眠りについた。



 そして次の日朝目覚めると、



『おはようたっくん!昨晩送られた画像見た!?恥ずかしいから絶対消してね!?』


 と、しーちゃんからのLimeが届いていた。


 俺は寝起きの目をこすりながらも、そんな慌てた様子のしーちゃんが可愛くて思わず笑ってしまいながら、削除されずに表示されたままになっている画像を開いてしっかり愛でたあと、しっかり三回保存しておいた。


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