54話「ファミレスと有名人」

 しーちゃんの言う通り、本当にファミレスに現れてしまったあかりんとYUIちゃん。


 現役の、しかも超が付くほどの有名人が二人同時に目の前に現れた事で、パニックになってしまうしーちゃん以外の俺達三人。



「ちょっと失礼するよー」


 だがそんな俺達にはお構いなしといった感じで、そう言いながら普通に孝之の隣に座るYUIちゃん。

 このボックス席自体、元々長椅子の六人用席だったこともあり、俺と孝之が向かい合う形で通路側に座っていたため、そのまま孝之の隣にYUIちゃんが座るという形になった。


 つまり孝之は現在、彼女である美少女清水さんと、元々大が付くほどのファンであるDDGのボーカルYUIちゃんに挟まれて座るという、とんでもない状況に陥っていた。


 当の孝之はというと、嬉しいような緊張しているような清水さんの様子を気にしているような、孝之とは本当に長い付き合いになるが、これまで一度も見せたことのないような絶妙な表情を浮かべていた。


 清水さんも、孝之がDDGのファンである事は恐らく知っているのだろう、まさか本物のYUIちゃんが自分の彼氏の隣に現れるなんて普通思いもしなかったため、驚きながらも警戒するような、これまた絶妙な表情を浮かべていた。


 だがYUIちゃんはというと、そんな自分の事をジロジロと見てくる清水さんに気が付くと「あっれー?よく見ると紫音ばりに可愛いね君!」と面白そうに清水さんの事をジロジロと見返していたのであった。


 そんな事をYUIちゃんから言われてしまった清水さんは、顔を赤くしながらあわあわと戸惑い、そして何よりそんな美女と美少女のやり取りに挟まれてしまった孝之は、やっぱり絶妙な表情を浮かべながらとりあえずハハハと合わせて笑っているのだった。



 ――なんだこれ、カオスすぎる。





 そしてカオスなのは、こちらも同じだった。



「隣、失礼するね」


 そう言って、俺の隣に座るあかりん。


 向かいの席にYUIちゃんが座ったのであれば、当然俺の方にはあかりんが座るわけで、俺は俺で現在エンジェルガールズのセンターとリーダーに挟まれて座るというカオスな状況に陥ってしまっているのであった。


 俺は孝之同様、きっと今までしたことないような絶妙な表情を浮かべているんだろうなと思いながら、とりあえずハハハと笑っておいた。



「フフ、しおりんと私に挟まれた気持ちはどう?」


 だが、そんな戸惑う俺に気が付いたあかりんが、したり顔をしながら肘で俺の事をツンツンと突きながら早速からかってきたのである。


 気持ちはどう?って言われても、そんなものなんて言っていいのか言葉に出来ないため返事に困った俺は、やっぱりハハハと笑って誤魔化す事しか出来なかった。



「あかりん、たっくんをからかわないで。YUIちゃんもだよ?」


 だが、そんなあかりんとYUIちゃん二人の様子を見ていたしーちゃんは、ニッコリ微笑みながら静かに二人に一言告げると、俺達をからかっていた二人はゴメンゴメンと苦笑いしながらすっと引いたのであった。


 そんなしーちゃんの圧に、素直に驚く俺達。

 現役芸能人すらも一言で引かせてしまうしーちゃん、マジぱねぇっす。



「……ふーん、でもそっか、君がたっくんだったか」


 だが引いたのも束の間、今度は俺の事を面白そうに見てくるあかりんとYUIちゃん。


 君がって事は、どうやら二人は俺の事を以前から知っているような口ぶりだった。

 なら当然、それはしーちゃんから俺の事を何か聞いているからに他ならないため、俺はどういう事?としーちゃんにヘルプの視線を送った。



 するとしーちゃんは、露骨に困った表情を浮かべていた。


 口をつむりながら冷や汗をかいている様子のしーちゃんは、俺の視線に気が付くとあわあわと慌てて手を振りながら『知らないよ?』というように誤魔化してきた。


 しかし残念ながら、俺はまだ何も言っていないんだよなぁ……。


 そしてしーちゃんは、二人に向かって今度は露骨に非難するような視線を向ける。


 余計な事は絶対言わないでよ……?と釘を刺すような、さっきとは比べ物にならないその視線の圧に、慌ててコクコクと頷くあかりんとYUIちゃん。


 でも、そんな三人のやり取りを見ていると、気が知れてるからこそというか本当に三人とも仲が良い事が伝わってきて、俺は何だかほっとしてしまった。


 この間まで第一線のアイドルとして活躍していたしーちゃんは、どうしてもクラスの中では特別な存在としてみんなとの距離があったのだが、同じ芸能人である二人とは普通の友達として接しているところを見れて、俺は安心というか良かったという気持ちになった。


 二人に平謝りされながら、「もうっ!」と不機嫌そうにそっぽ向いて膨れているしーちゃんだが、その顔はやっぱりどこか楽しそうだった。




 ◇



「え?たっくん映画観てくれたの?どうだった?」


 それから暫く、俺達はあかりんとYUIちゃんを交えて会話を楽しんだ。

 その中で、俺がぽろっとこの間あかりんの映画を観に行った事を伝えると、あかりんは満面の笑みで喜んでくれた。


 それは、先ほどまでの俺をからかうような仕草ではなく、純粋に女優として自分の出演した作品を観てくれた事が嬉しいといった感じだった。


 そして、どうだった?と聞かれた俺は、まさか主演女優本人に直接感想を言う機会が訪れるなんてなと思いながら素直に答えた。



「めちゃくちゃ面白かったです。正直、泣きそうになりました」

「そっか、てことは泣いてはくれなかったんだね?」


 そんな俺の感想に、やっぱりニヤリと笑みを浮かべながら痛いところを突いてくるあかりん。



「なんてね、嘘だよありがとう。あの作品は原作が本当に素敵だから、わたしはその良さを出来るだけみんなに伝えられるようにやれる限り頑張ったんだ。だから、そういう生の声を聞けるのはとても嬉しいわ」


 そう言って本当に嬉しそうに微笑むあかりんの姿は、映画の中で見た笑顔と同じようにとても美しかった。


 その微笑みに思わず見惚れてしまっていると、隣に座るしーちゃんが俺の事を肘でツンツンと突いてきた。


 それではっとした俺は慌てて振り向くと、しーちゃんは不満そうな顔をしながら頬っぺたをぷっくりと膨らませていた。



「あら、しおりん?もしかして、しっ――」


「 あ か り ん ? 」


 そんな膨れるしーちゃんの事をからかおうとするあかりんの言葉を、しーちゃんは最大級の圧をもって制する。


 その圧は有無を言わせない雰囲気を漂わせ、何かを言いかけていたあかりんだったが「ご、ごめんね?」とちょっと青ざめながらやっぱり平謝りをしていた。



 そして、そんな二人のやり取りに手を叩きながら爆笑していたYUIちゃんもまた、やっぱりしーちゃんの圧に黙らされたのであった。



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