40話「羨ましくて」

 昼休み。


 俺と孝之、そして三枝さんと清水さんという、最早お馴染みになっている四人組みで今日も仲良く弁当を食べる事となった。


 さぁ弁当を食べようと俺は持参した弁当を開いていると、清水さんが孝之に「はい、どうぞ」と少し恥ずかしそうに弁当箱を一つ手渡していた。


 孝之はそれを「お、ありがとな」と嬉しそうに受け取る。


 そしてそんな二人に、俺と三枝さん、そしてその様子を見ていたクラスのみんなが一斉に驚いた。


 彼女が弁当作ってくれるとか、漫画やアニメの世界でだけだと思ってた俺は、たった今目の前で行われた光景にとても驚いた。


 そして、それと同時にマジかよいいなぁという思いで一杯になってしまった。


「孝之、お、お前それ……」

「ん?おう、桜子の手作り弁当だ、いいだろ?」


 震えながら俺が訊ねると、孝之はニカッと笑って清水さんに貰った弁当を自慢してきた。


 そんな孝之の様子に、顔を赤くしながらも嬉しそうにはにかむ清水さん。



 ――なにこれ?これなんてラブコメですか!?


 と、そんな二人の顔を交互に見ながら、俺はたった今現実に行われている二人のラブコメに胸を高鳴らせたのであった。


 そして清水さんは、恥ずかしそうに顔を赤くしながらも自分の弁当から唐揚げを一つ箸で摘まむと、それを孝之に向かって「はい、孝くんアーン」と差し出したのであった。


 清水さんって、こんな大胆な女の子でしたっけ!?と、俺はそのラブコメすぎる光景に困惑を通り越して混乱する。


 流石にそれは孝之も想定外だったようで、顔を真っ赤にしながら「お、おう」と小さく返事をすると、そのまま清水さんの差し出したその唐揚げをパクリと一口で食べた。


 それと同時に、教室内からは「おぉぉ……」と思わず漏れてしまったような男子達の落胆の声が聞こえてきた。


 学年二大美女と言われる程の、超絶美少女である清水さんからの夢のアーンなのだ、彼女に想いを寄せていた男子達への衝撃は計り知れないだろう……。



「ど、どうかな?」

「うん、うまい!よし、じゃあお返しに、ほら!」


 恥ずかしそうに上目遣いで聞く清水さんに、孝之は満面の笑みを浮かべながら美味しいと答えた。

 そして、今度は孝之が箸で唐揚げを一つ摘まむと、清水さんに向かって差し出したのだ。


 まさかそんなカウンター攻撃がくるなんて思いもしていなかった様子の清水さんは、一気に顔を真っ赤に染めていた。



「あ、あああの」

「いいから、ほら、アーンって口開けて」

「……う、うん、ア、アーン」


 顔を真っ赤にしながらも、言われた通りその小さくて可愛らしい口をアーンと開ける清水さんは、正直めちゃくちゃ可愛かった。


 そしてその口の中へと、唐揚げを入れる孝之。


 それと同時に、教室内からは「あぁ……」と思わず漏れてしまったような女子達の落胆の声が聞こえてきた。


 いつも明るくて、笑顔の眩しい爽やか体育会系イケメンの孝之に夢のアーンをして貰えるのだ、孝之に想いを寄せていた女子達への衝撃は計り知れないだろう……。



「作って貰った俺が言うのもなんだが、どうだ?」

「……おいひぃです」


 恥ずかしそうに笑いながら訊ねる孝之に、モグモグしながらも顔を赤くした清水さんは嬉しそうに答えた。


 そんな二人のアーン合戦を目の前で見ていた俺は、ラブラブな二人を見て微笑ましい気持ちになったのと同時に、羨ましさも湧き上がってきてしまった。


 いいなぁ……俺も三枝さんにアーンとかして貰えたらなぁ……と思ったけど、遠足の時三枝さんからミートボールを分けて貰えた事を思い出した。


 そんな事を思い出しながら三枝さんの様子を伺うと、三枝さんも目の前でイチャイチャする二人の事を少し羨ましそうな顔をしながらも、微笑みながら見守っていた。


 そして、自分の弁当からミートボールを一つ箸で摘まむと、頬を少し赤く染めながら俺の方を横目でチラチラと見てきた。


 ま、まさか……!?と思いながら、俺はそんな三枝さんの様子に一気にドキドキしてしまう。


 しかし俺と三枝さんは、孝之達と違って付き合っているわけでもないし、こんな教室で三枝さんからアーンなんてされたら、それこそさっきの騒ぎでは済まない事は容易に想像できる。


 そんな事を考えながら俺が色んな意味でドキドキしていると、三枝さんは俺を横目で見ながらも諦めたような顔をすると、一度タメ息をついた後そのミートボールをパクリと自分の口の中に運んだ。


 まぁそうだよねと、ちょっとガッカリしながらも無事何事も無く済んだ事に俺はほっとした。


 しかし三枝さんは、突然何かを閃いたように手を合わせながらパァッと笑みを浮かべると、そのまま箸を置いて鞄からスマホを取り出した。


 そして、そのまま何かを一生懸命入力したかと思うとバッとスマホを机に置き、少し顔を赤くしながら緊張した様子で前を向いて固まってしまう三枝さん。


 何事だ?と思っていると、机の上に置いていた俺のスマホの通知ランプが点滅している事に気が付いた。


 スマホを開くと、それは三枝さんからのLime通知だった。



『今日の放課後、時間ありますか?』



 さっき一生懸命入力してたのはこのLimeだったのかと、俺はスマホの画面から隣の三枝さんに視線を移すと、そこには前を向きながらもこちらの様子をチラチラと横目で伺っている三枝さんの姿があった。


 周りに聞かれたく無かったからだというのは分かるけど、それでもすぐ隣にいるのにLimeしてくる三枝さんが可愛くて、俺は思わずプッと吹き出してしまった。


 そしてすぐに、俺はLimeで『大丈夫だよ』と返事を返すと、ちょっと大袈裟に返信終わりましたよというように机にスマホを置いた。


 そんな俺の様子を横目で見ていた三枝さんは、ちょっと恥ずかしそうにしながらも自分のスマホを確認すると、途端にパァッと嬉しそうな顔つきになり、そしてそのままこっちを振り向くと、



「ありがとう!行ってみたいところがあるの!」


 と嬉しそうに直接話しかけてきた三枝さん。


 せっかく目立たないようにLimeでやり取りしてきたのに、嬉しさからその事をすっかり忘れてしまっている三枝さんは、今日もポンコツ可愛かった。


 そんないきなり訳の分からない事を口にする三枝さんに、孝之と清水さんも何事かとこちらを見てきている。


 だが、そんな事は全く気にする様子もなく嬉しそうな笑みを向けてくる三枝さんを見ていたら、俺も思わず笑みが溢れてしまう。



「じゃあ、そこ行こうか」

「うん!楽しみだなぁ!」


 そう俺が返事すると、両手を合わせながら嬉しそうに微笑む三枝さん。


 その姿は、今日も天使のようにただただ可愛かった。


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