第二章
39話「クラスのアイドル」
俺のクラスには、学校一の美少女がいる。
彼女の名前は、三枝紫音。
国民的アイドルグループ『エンジェルガールズ』でセンターを務めていた彼女は、学校だけでなく全国的に広く知られ、そして引退しても尚人気は衰える事無く、今も尚みんなに愛されているスーパーアイドルだ。
その容姿は非常に美しく、美しさと可愛さを絶妙に併せ持つ彼女は、見る人の目を必ず惹き付けるような魅力に溢れている。
そんな彼女はというと、いつも明るく、友達想いで、そして誰とでも分け隔て無く接してくれるという、まるで天使のような存在として学校中のみんなから愛されている。
だけど彼女は、俺の前でだけは?挙動不審になる事が多く、恐らくみんなは知らないであろう彼女の色んな顔を知っていたりする。
時に可愛く、時に面白く、そして時に同い年とは思えないような大人っぽい一面を見せてくれたりする、知れば知るほど魅力に溢れる不思議な彼女。
――そして俺は、そんな彼女の事が大好きになってしまっていた。
そんな想いを自覚してから、今日が初めての登校になる。
早起きしてしまった俺は、家に居てもソワソワするだけなためいつもより早く登校する事にした。
何より、早く彼女に――三枝さんに会いたかった。
◇
教室の扉を開けると、俺より先に一人のクラスメイトが居た。
一体いつから教室に居るのか分からないが、そのクラスメイトとは俺の隣の席に座る三枝さんだった。
もう三枝さんとは普通にLimeをする程の仲になっているのだが、自分の想いを自覚してから初めて教室で会う事もあり、俺は何だか緊張してしまった。
「お、おはようしーちゃん!今日も早いね!」
「あわわわ!お、おはようたっくん!!」
俺はなんとか気持ちを落ち着けながら、いつも通りを装いながら先に座る三枝さんに挨拶をした。
すると彼女は、読んでいた本に集中していたのか教室へ入ってきたのが俺だとは気付いていなかったようで、挨拶をしたのが俺だと気付くと慌てて読んでいた本を閉じると、気まずそうに引きつった笑みを浮かべながら挨拶を返してくれた。
そんな、露骨に何かを慌てて隠す三枝さんは、今日も朝から挙動不審だった。
何だろうなぁと思った俺は、以前三枝さんが恋愛マニュアルを読んでいた事を思い出した。
本にはしっかりとカバーがされており、それが何の本かはよく分からなかったけど、その本のサイズやリアクションからして、恐らく今日も同じ本を読んでいたんだろうなと、俺は空気を読んでそっとしておく事にした。
「土曜日はお疲れ様」
「え?うん、楽しかったね!」
「そうだね」
楽しかったねとニッコリ微笑む三枝さんに、俺も微笑みながら言葉を返す。
そして俺は、そんな微笑む三枝さんを前にすると、あの日川沿いで一緒に手を繋いで帰った事を思い出してしまう。
練習しようという理由で手を繋いだわけだけど、理由はともかく手を繋いで一緒に帰ったあの時間は、思い出すだけで胸がドキドキしてきてしまう。
それはどうやら三枝さんも同じようで、お互いに顔を少し赤くすると、なんだか気まずくなってそっと視線を外してしまう。
「あ、そ、そうだ!孝之と清水さんにも、あの日以来会うのは初めてだね!」
「そ、そそそうだね!楽しみだね!」
気まずさを晴らすように俺が話題を変えると、三枝さんもぎこちない笑みを浮かべながら返事をしてくれた。
孝之と清水さんについては、あれからグループLimeで二人が付き合い出した事をちゃんと報告してくれた。
そんな二人の事を俺達が祝福すると、孝之から二人のツーショット写真が送られてきた。
その写真に写る孝之と清水さんは本当に幸せそうで、俺はほっこりとした気持ちでその写真を暫く眺めながら、せっかくだからと画像を保存しておいた。
そして、改めてやっぱり二人とも美男美女だよなぁと、そんなお似合い過ぎる二人の事がちょっと羨ましくなった。
あーあ、俺も早く彼女作りたいけど……好きな相手が三枝さんだなんて、やっぱり俺は高望みし過ぎなのだろうかと、止めたはずのネガティブな気持ちがつい湧き出してしまった。
だが、そんな事を思っていると三枝さんからLimeで画像が送られてきた。
なんだろう?と開くとそれは、土曜日の川沿いで三枝さんにいきなり撮られた二人のツーショット写真だった。
そして三枝さんは、合わせてドヤ顔をしたしおりんスタンプを送ってきた。
それはまるで、三枝さんがラブラブな二人に対抗しているかのようで、それに俺とのツーショット写真を使ってくれた事が、少し恥ずかしいのと同時にちょっと……いや、かなり嬉しかった。
そんなまさかのツーショット写真を送られてきた事に対して、孝之から『二人も付き合ってるみたいだな』と返事が送られてくると、清水さんも『たしかに』と続いた。
そして清水さんから、ニヤリ顔のしおりんスタンプが送られると、それに続いて孝之も頷くしおりんスタンプを送ってきた。
――そう、実は今俺達の間では、しおりんスタンプが絶賛流行中なのである。
二人からそんなリアクションをされた事に対して、俺は恥ずかしさと嬉しさで胸が一杯になりながら、送られてきたツーショット写真をとりあえず三回保存しておいたのであった。
◇
それから暫く、俺は三枝さんと他愛ない話をしていると、次第に登校してきたクラスメイト達で教室内の人も増えてきた。
それから、ほぼみんなが登校してきたところで、遅れて先程話題にしていた孝之も教室へと入ってきた。
そしてその隣には、清水さんがピッタリと並んでいた。
その様子に、教室内の視線が一斉に二人へと向けられる。
並んでいるだけなら、それ程注目はされなかっただろう。
じゃあ何故かというと、二人がその手を繋ぎ合っているからに他ならない。
こうして、手を繋ぎ合っている事で二人が付き合い出した事を完全に理解したクラスメイト達は、男子も女子もみんな一斉に驚いていた。
クラスでも人気の高い二人だから、こうなるのも仕方ないかと俺はそんなクラスの様子に苦笑いをしていると、そんな周りを気にする様子もなく俺達の元へとやってくる孝之と清水さん。
そして、二人はいつも通り朝の挨拶をしてくれたから、俺達もおはようと挨拶を返す。
「二人とも、凄く目立っちゃってるな」
「まぁ、
「私が
そう言って笑い合う二人は、とにかく幸せそうだった。
そして俺は、付き合い出した事で互いの呼び方が変わっている事に気付いた。
そんな二人を見ていたら、やっぱり付き合うっていいなって思ってしまう。
もし俺も、三枝さんと付き合う事が出来たら……と思ったけど、既にしーちゃんたっくん呼びしている事に気が付いた。
――あれれ?おっかしいなぁ?
そう思いながら三枝さんの方を向くと、三枝さんは清水さんの手を取りながら、無事二人が付き合えた事を満面の笑みを浮かべながらおめでとうと祝福していた。
「……尊いな」
「……あぁ、尊い」
そんな、手を取り合いながら微笑む美少女二人を眺めながら、俺と孝之は今日も朝から無事に成仏したのであった。
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