36話「中学の同級生」

 清水さんの作ってきてくれたサンドイッチを美味しく頂いた俺達は、暫く他愛ない話をしながらマッタリしていた。

 そして、そろそろ次の試合の準備があるという孝之の言葉で、再び体育館へと向かう事になった。



「清水さんのサンドイッチのおかげで、次の試合も頑張れるよありがとなっ!」

「な、なら良かった、頑張ってねっ!」


 歩きながらそんな会話をする孝之と清水さんは、とても雰囲気が良い感じだった。

 だから、俺と三枝さんは目だけで示しを合わせると、邪魔しないようにそっと二人の後ろを歩いていた。


 こうして後ろから楽しそうな二人の姿を眺めていると、やっぱりいいなぁと思ってしまう。


 そんな事を思いながら隣を見ると、三枝さんも同じ事を思ってるのか、やっぱり少し羨ましそうな様子だった。


 俺はそんな三枝さんを見て、またしても胸にチクリと痛みを感じてしまったのであった――。




 ◇




「あれ?清水さん?」


 体育館の入り口付近で、突然知らない男に清水さんは話しかけられていた。


 その男は、孝之と同じぐらい身長があり、そして何より色白で髪を茶色に染めた誰が見ても普通にイケメンな男だった。


 孝之とはタイプが違うが、男性アイドルにいそうなそのイケメンくんは、どうやら清水さんの知り合いのようだった。



「あ、こちら同じ中学だった渡辺くん……です」

「どうも、清水さんと同じ中学だった渡辺です。あ、そうか次の試合、清水さんの高校と当たるんだったね宜しく」


 渡辺くんは、孝之の着ているジャージを見て次の対戦相手であることに気が付いたようだった。


 対して渡辺くんが着ているジャージは、この地区だとベスト4常連校の強豪私立高校のジャージを着ていた。


 成る程、孝之と同じぐらい身長のある彼なら、推薦で私立高校へ進学するのも頷けた。


 だが気にくわないのが、さっきから渡辺くんは孝之に向かって少し見下すような視線を向けている事だ。


 確かにうちはただの公立高校だが、中学時代ほぼ一人の活躍で地区大会を突破していた孝之は別だ。

 それに先輩方だって、これまでずっと頑張って部活に取り組んできただけあって、さっきのプレーを見ても決してこんな風に蔑まれる程弱いわけではないのだ。


 彼もこの地区でバスケをしていたなら、当然孝之の事ぐらい知っているのだろう。

 だからこそ、彼がこういう態度に出ているのがなんとなく分かった。



「それで?渡辺くんは俺達に何か用なのかな?」

「ん?いや、用っていうか、久々に再会した清水さんと少し話したいなって思っただけだよ」


 真顔で質問する孝之に、渡辺くんはちょっとヘラヘラと笑いながら清水さんと話したいだけだと答えた。



「だから清水さん、次の試合勝ったらちょっと話をしようよ」

「――ッ!!わ、私は!!」


 すぐ隣に孝之が居るにも関わらず、自信満々な様子の渡辺くんはあろうことか清水さんを誘ってきたのであった。


 突然渡辺くんに誘われてしまった清水さんは慌てて声を発しようとしたが、大丈夫だよと言うように孝之に優しく肩をポンと叩かれると、清水さんは戸惑いながらも孝之に従うようにぎゅっとその口をつぐんで黙った。


 だが、そんなあまりにも土足な渡辺くんには、流石に俺も苛ついてしまった。

 何より苛ついたのが、次の試合終わったらではなく、と言った事だ。


 要するに渡辺くんは、うちの高校なんかに負けるはずがないと、そんな言葉で挑発してきたのである。


 うちの高校を、そして大事な親友を馬鹿にされた事が頭にきた俺が割って入ろうとすると、孝之はニコッと笑って俺の事も手で制止すると、それからフゥと一度ため息をつき渡辺くんに一言だけ告げた。



「そうか、じゃあうちも負けるつもりは無いから、その話は無しだな」

「ふーん、そう。楽しみにしてるよ。じゃあまた試合で」


 そんな孝之の一言に、渡辺くんの眉は一瞬ピクッとしたが、変わらず笑みを浮かべながら清水さんに「またあとでね」と伝えると、そのまま去って行った。



「悪いな、せっかく楽しかったのに空気悪くさせちまった」

「そ、そんな!渡辺くんが私と同じ中学だったせいで山本くんに!わ、わたし渡辺くんとなんて話すつもりないよ!?」


 謝る孝之に、慌てて清水さんは頭を下げながら思いを伝えた。

 当たり前だ、清水さんがあんな奴と仲良くするわけがない。


 だが孝之は、そんな清水さんの頭を優しく撫でると、



「大丈夫、絶対負けないから見ててくれ」


 と優しく、そして力強く微笑んだ。


 そんなイケメンすぎる孝之に、さっきまで腹を立てていた俺の気持ちはどこかへ消え去り、代わりにそんな最高の親友の事を全力で応援したい気持ちで一杯になっていた。


 頭を撫でられた清水さんはというと、その顔は恥ずかしさと嬉しさで真っ赤に染まっていた。


 そして、これまでの一連のやり取りを黙って見ていた三枝さんは、少しだけ笑みを浮かべており、一見すると普通なのだがその雰囲気には珍しく怒りのようなものが感じられたのであった。


 そんなわけで、試合前に一悶着あったのだが、孝之は両手で頬っぺたを一度パシリと叩いて気合いを入れ直すと、「よし、じゃあ行ってくるわ」とそのまま試合に備えるチームメイトの元へと向かって行った。



 ――頑張れ!!孝之!!



 去っていく孝之に向かって、俺達はそれぞれエールを送った。

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