34話「親友からの相談」

 次の日。


 俺は約束の時間に、駅前で孝之が来るのを待っていた。



「おう!卓也!わりぃな呼び出しちまって!」

「いや、暇だったしいいよ!どっか入るか?」


 部活終わりの孝之はまだ少し汗ばんでいて、男の俺から見てもちょっとセクシーだった。


 ――俺が女なら、惚れちゃうね!


 なんて、今の俺は清水さんの気持ちがちょっと分かってしまうのであった。



 こうして俺達は、近くにあったファミレスで話すことにした。


 ドリンクバーのジュースを片手に席についたところで、俺は「で、話ってなんだ?」と切り出した。


 すると孝之は、恥ずかしいのかちょっと言いづらそうにしながら口を開いた。



「いやな、俺もうダメなんだわ……」


 孝之の口から出たのは、珍しくも弱気な言葉だった。


 いや、珍しいどころじゃない、孝之が弱音を吐くなんて過去あったかどうかも怪しいレベルだ。



「な、なんだ?なんかあったのか!?」

「いや、それがな……」


 心配する俺に対して、相変わらず歯切れの悪い孝之。


 そして孝之は、意を決したように口を開いた。



「――俺、恋しちゃってるみたいなんだわ」


 恥ずかしそうに頭をかきながら笑う孝之は、予想の斜め上の一言を口にしたのだった――。




 ――ええええええええ!?




 と、大袈裟でも何でもなく俺は声を出して驚いてしまった。




 ◇



 あの中学以降誰とも付き合わなかった孝之が……恋!?え、誰に!?


 と、親友からの突然の恋バナに戸惑う俺。



「なんつーか、顔見てるだけでヤバイっていうか、帰ってもその人の事ばっか考えちゃうんだよなハハ」


 顔を赤くしながらそんな事を言う孝之は、ちょっと可愛かった。



「あ、相手は誰なんだ……?」


 俺は単刀直入に聞いた。


 昨日、俺は清水さんの恋愛を応援すると決めたばかりなのに、いきなりの大ピンチである。


 既に孝之が想いを寄せる相手がいるなら、清水さんは大分不利なスタートを切ることになってしまう。

 だから俺は、清水さんの事もあるし次の孝之の言葉をドキドキとしながら待った。



「お、おう……清水さん、だ……」

「ふぇ?」


 恥ずかしそうにそう答える孝之には悪いが、思わず俺は変な声が出てしまった。


 そして、すぐに状況を理解する。

 ――なんだお前ら、両想いじゃねーかと。


 俺は嬉しさと可笑しさから、思わずニヤついてしまった。


 そんな俺を見て、「わ、笑うんじゃねーよ!」と恥ずかしそうに怒る孝之は、完全に恋する男の子だった。


 全てを知る俺は、そんな孝之にそうかそうかと頷いた。


 そして、



「うん、清水さんなら付き合えるんじゃないか?」


 とあっさり答えた。



「か、簡単に言うんじゃねーよ!?相手はあの清水さんだぞ!?知ってるか?中学の頃は『孤高のお姫様』なんて呼ばれて、近寄る男を誰も寄せ付けなかったって言われてんだぞ!?」

「いや、でも俺達いつも一緒にいるじゃん」

「そ、それはそうだけどさ!」


 でもでもと無理な理由を並べる孝之だが、全てを知っている俺からしたら全部無駄な悩みでしかなかった。


 しかし、俺の口から『清水さんもお前の事好きなんだよ』なんて伝えるのは、流石にマナー違反な気がしたから言わないでおいた。

 そもそも、これなら俺がわざわざ言葉にしなくても、この二人なら時間の問題だった。



「ま、まぁそれでだ、お前に頼みがあるんだよ」

「ん?頼み?」

「あぁ、来週の土曜日総体の予選があって、俺は一年ながら試合に出れそうなんだ。だからその、みんな誘って応援にきてくれないか?」


 なんと孝之、一年にして大会の試合に出れる程部活では成果を残しているようだ。


 だったら俺は、恋愛云々抜きにしてもそんな頑張る孝之を応援しないわけにはいかなかった。



「おう、その日はバイト空けるし、そうと決まれば早速Limeで聞こう」

「え?いや、ありがたいけど、今?マ、マジ?」

「おう、マジだ」


 焦る孝之を無視して、俺はグループLimeにメッセージを送信する。



『来週の土曜日、総体の予選があるんだけど、みんなで孝之の応援に行かない?』


 よし、送った。


 孝之は俺の送ったメッセージを、緊張した様子で見つめていた。


 今か今かと返事を待っているようだが、流石にそんなすぐに返事は……



 ――ピコン



『行きますっ!!』


 きた。


 だがそれは、清水さんではなく三枝さんからの返信だった。


 三枝さんも孝之とはもう友達だし、清水さんを応援する同志でもあるわけだから、すぐに反応してくれたのは嬉しい。


 でもよくよく考えたら、三枝さんが大会の会場まで行っても大丈夫かな?という疑問が俺の中で浮かんだ。

 これひょっとして、パニック起きない?と心配になり、そのことに孝之も気が付いたようで嬉しそうにしながらも苦笑いを浮かべていた。


 だが、当の本人は行く気満々なようで、アニメ絵にデフォルメされたピースをするしおりんスタンプまで送られてきていた。



「プッ!なんだこのスタンプ!?」


 と、しおりんスタンプ初見の孝之は、本人から自分のスタンプが送られてきた事に思わず笑っていた。


 そんな三枝さんのスタンプのおかげで、孝之の緊張もちょっと和らいだようでグッジョブだったので、俺も合わせてグッジョブしおりんスタンプを押しておいた。


 すると俺の送ったスタンプを見て、「いや、お前も持ってんのかよ!」と孝之は更に笑い転げてしまっていた。



『私も行きますっ!頑張れ山本くんっ!』


 そんな俺と三枝さんの送ったしおりんスタンプに笑っていると、清水さんからLimeの返事が返ってきた。


 そのLimeを見て、よっしゃー!とガッツポーズをする孝之を見て、なんだか俺まで嬉しくなってしまった。



「良かったな孝之。俺もそろそろ彼女欲しいけどモテないからなぁ」


 そして、そんな恋する孝之が羨ましくなった俺は、思わず自虐を口にしてしまった。


 まぁ孝之と違ってモテない俺は、やれる事からコツコツと頑張るしかないか。



「いや、卓也お前……マジか」


 だが、孝之から返ってきた言葉は、全く予想しなかった言葉だった。

 信じられないものを見るような目で、俺の事を見てくる孝之。


「マ、マジかってなんだ?」

「……いや、なんでもない。とりあえず心配するな、俺が保証してやる、お前は大丈夫だ。それも、物凄い角度で大丈夫だ」


 物凄い角度ってなんだよと笑いながらも俺は、励ましてくれる孝之に「ありがとな」と伝えた。


 そんな俺に、孝之はヤレヤレと呆れるように笑っていた。





 ――ピコン。


 Limeの通知音が鳴り、俺は届いたメッセージを確認する。



『さくちゃんチャンスだね!私達でフォローしてあげよっ!』


 それは三枝さんからのLimeで、さっきのやり取りに関するものだった。


 俺は、『そうだね!隙を見て二人きりにさせてあげよう!』と送ると、三枝さんからは目がハートになったしおりんスタンプが送られてきた。



 え、なにこれ、超可愛いんですけど――。



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