33話「誤解」

 青ざめる三枝さんと、焦った様子の清水さん――。


 そして、そんな二人と何故か向かい合って座る俺――。


 あれから、俺達に見付かってしまった三枝さんも相席する形となり、俺は今なんとも言えない表情を浮かべる絶世の美少女二人と向き合って座っているのであった。


 さっきまで恋愛相談を受けていたはずが、何故だか今は浮気がバレたあとの修羅場のような状況に陥ってしまっていた。


 もしこれが本当に浮気による三者面談なのだとしたら、こんな超絶美少女二人を手篭めにする俺は魔王かなんかに見えている事だろうなと、俺はハハハと乾いた笑みを浮かべた。


 しかしそう思った俺は、だったらこの状況不味くないか!?と慌てて周りを見渡すが、幸いこの状況に気付いている他のお客さんは居ないようでとりあえず一安心した。



「えーっと……二人は何を……」


 三枝さんが、探るように、でもどこか力無い様子で話を切り出した。

 俺と清水さんが何で二人で居るのかが気になったのだろう。


 しかし、清水さんの恋愛相談していたなんて事、俺の口からはとても言えなかったため返答に困ってしまった。


 そんな俺の様子に、三枝さんは何かを悟ったのか更に真っ青になって絶望の表情を浮かべていた。



「ち、違うの!私は一条くんにちょっと相談に乗って貰ってただけだよ!」


 そんな三枝さんの様子に、慌てて清水さんが弁解してくれた。



「……相談?」

「うん、私の……恋愛相談……」


 ちょっと泣きそうになりながら聞き返す三枝さんに、恥ずかしそうに顔を赤らめながら返事をする清水さん。


 しかしその返答に、またしても青ざめてしまう三枝さん。



「そ、そうだったんだね……でも私だって」


 青ざめながらも、そんな事を呟く三枝さんはどこか覚悟を決めたような表情を浮かべていた。



「あ、違うの!わ、わたし、山本くんの事が……」


 どうも話がすれ違っている事に気が付いた清水さんは、慌てて相手は孝之だと補足した。

 俺から見ても、三枝さんは清水さんと俺の仲を疑っていたように見えたから、その補足は助かった。


 それでようやく、自分の思い違いだった事に気が付いた三枝さんは、キョトンとした表情を浮かべながら俺達の事を交互に見ると、途端にその顔は真っ赤に染まっていった。



「あ、あわわ、わたし!か、勘違いを!!」

「ご、ごめんね紫音ちゃん!私も説明足りてなかった!知ってるから!全然知ってるからっ!」


 テンパる三枝さんに、これまたテンパるようにフォローする清水さん。

 全然知ってるってのは何の事か分からなかったけど、とりあえずこれで誤解が解けたようで良かった。



 それからの三枝さんは、水を得た魚のように完全復活をすると「私もさくちゃんの恋愛を応援する!」と高らかに宣言までしてくれていた。


 そんな三枝さんに、清水さんは「ありがとう」と嬉しそうに微笑んでいた。


 そうして微笑み合う三枝さんと清水さん二人の美少女の姿は、とても美しくて尊かった。




「それにしても、なんでしーちゃんはここに居たの?」


 俺は、別に何とはなしに思った事を口にした。

 そもそも、なんでここに三枝さんがいるのかと。


 すると三枝さんは、急にひきつった笑顔を浮かべながら、石のように固まってしまった。



「そ、そそそれはですね」

「うん、それは?」


「え、えーっと!た、たまたまなんです!」



 なんだ、たまたまかぁー。じゃあ仕方ないか。




 ってなるわけあるかぁーい!



 と、俺は心の中で盛大につっこんだ。


 さっきバイバイしていつも逆方向に帰っていくのに、たまたまこんな喫茶店で落ち合うなんて事はあるわけがなかった。



「あっ!そう!この喫茶店今女の子の間で実はちょっと人気になってて、それで紫音ちゃんもたまに来てるんだよねっ!?」


「え?そうなの!?有名なの!?」


 そんな無理のありすぎる三枝さんを咄嗟にフォローしようとする清水さんだが、天然の三枝さんはその事に気が付かず普通に驚いちゃっており、清水さんのフォローを見事に台無しにしてしまっていた。


 そんな、コントみたいな二人のやり取りを見せられた俺は、思わず吹き出してしまった。


 まぁ、なんでここに居るのかはよく分からないけど、今日も面白い三枝さんに免じてこれ以上は聞かないであげる事にした。


 そんな笑う俺を見て、なんだか分かってないけど一緒に嬉しそうな表情を浮かべる三枝さんと、同じく天然すぎる三枝さんに思わず吹き出してしまった清水さん。


 こうして、なんか色々あったけれど、最後は3人仲良く笑い合って、楽しい時間を過ごす事が出来たのであった――。





 ◇



 家に帰った俺は、自分の部屋のベッドで大の字に寝転んだ。


 そうか、あの清水さんが孝之のこと……改めて俺は、近いうちにビッグカップルが誕生するかもしれない事にちょっとワクワクしていた。


 そして、それと同時にやっぱり俺だってそろそろ彼女欲しいよなぁと、男としての欲が湧いてきてしまった。


 孝之ほど良い男にはなれないかもしれないけど、俺もやれる事から頑張らないと駄目だよなと気持ちを入れ換えた。




 ――ピコン。


 スマホから、Limeの通知音が鳴る。


 誰からだろう?と俺はすぐに届いたLimeを開くと、それは珍しく孝之から直接送られてきたLimeだった。



『今日はおつかれ!それから、明日は暇か?』


 明日はバイトも無いし特に予定もないから、俺は『こちらこそ!明日は暇だよ、どうした?』と返事を返した。


 するとすぐに、『じゃあ明日の昼、ちょっと会えるか?』と返ってきた。


 予定も無いし、なにより親友の頼みだ。


 俺はすぐに『いいよ!』と返事をすると、『じゃあ明日は午前中部活あるから、14時に駅前で頼む!』と返ってきた。



 こうして俺は、明日は一躍時の人となった孝之と会うことになった。


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