30話「そのパンケーキより甘く」
土曜日。
昼の一時過ぎ、俺は待ち合わせのため駅前へとやってきた。
「おまたせ!たっくん!」
そう言って手を振りながらやってきたのは、同じクラスの三枝さん。
彼女は、俺の隣の席で、元アイドルで、頭も良くて、挙動不審だけど明るくて面白くて、とにかく色々と凄い美少女だ。
昨晩のグループLimeで三枝さんからの提案により、今日も勉強会をしようという事になったのだ。
しかし、孝之も清水さんも今日はちょっと都合が悪いとの事で、その結果四人ではなく二人で行うことになってしまったのはちょっと誤算だった。
まぁ、先週の土曜日も三枝さんと二人で過ごしていたんだから今更過ぎる話かもしれないけど、それでもやっぱりこんな美少女と二人きりで共に過ごすのは緊張してしまうのだから仕方がない。
「それじゃ、行こっか!」
しかし、当の三枝さんはと言うと、二人きりになってしまったこんな状況に困る素振りなんか微塵も見せず、いつもと変わらず……いや、なんならいつもより少しテンション高いのでは?というノリで、今日もルンルンと楽しそうにしているのであった。
まぁ、三枝さんが楽しそうにしてるならいっかと、俺も気持ちを切り替えて今日は楽しむ……じゃなくて、勉強に集中しようと心に決めた。
◇
それから俺達は、駅からちょっと歩いたところにある県立の大きい図書館へとやってきた。
ここなら参考書なんかも充実しており、カフェやファミレスみたいなところで勉強するより静かで集中出来るだろうという事でやってきた。
周りを見渡すと、既に他校の学生と思われる人達で割と席が埋まっていた。
うちの高校だけじゃなく、他の学校でも同じく定期テスト前なのだろう。
とりあえず今日は俺達二人だけだから、二人掛けの席が空いていたのでそこで勉強する事にした。
俺は席に腰掛けると、何気なく隣に座る三枝さんへと目を向ける。
今日は白のブラウスに、黒のハイウエストの細身のパンツを合わせており、すらっと伸びた綺麗な足のラインが強調されたそのスタイルの良さに、男女関係なく周囲からの視線を集めてしまっているのであった。
そう、たった今隣に座っている三枝さんは、集合した時から思っていたけど今日もとにかく綺麗すぎるのであった。
そんな三枝さんはというと、少し頬を赤らめながらも悪戯っぽい笑みを浮かべて「こっち見られちゃってるね」と俺の耳元に小声で囁いてきた。
今日は縁の黒い伊達眼鏡をしている事もあり、女教師っぽい雰囲気というかなんというか、なんだか今日は大人っぽい三枝さんに顔を近付けられながらそんな事を言われてしまった俺は、恥ずかしさのあまりきっと今茹でダコのように顔が真っ赤になってしまっているのが分かった。
でも、こんなもんは俺じゃなくても皆こうなるだろうだから、全くもってこれは仕方の無い事だと俺は開き直った。
そんな俺の顔を見て楽しそうに笑う三枝さんは、満足したのか「じゃ、勉強始めよっか」と教科書を開いたのだった。
なんだか今日は三枝さんのペースに飲まれてるなぁと思いながら、俺もドキドキをなんとか堪えつつ教科書を開く。
集中しろ!俺!!
◇
それからは、今日も三枝さんが全教科一通り苦手なところをしっかりと教えてくれたため、かなり充実した勉強をする事が出来た。
やっぱり三枝さんの説明は本当に分かりやすくて、苦手だったところもなんとか自力で解くことが出来るまでになっていた。
「やっぱり凄いなしーちゃんは。学年一位も間違いないだろうね」
「そ、そんな事ないよ」
俺が素直に褒めると、三枝さんは恥ずかしそうに手を振りながら否定した。
「今日も色々教えて貰っちゃったから、この後お礼をしたいんだけどいいかな?」
「え?お礼っ!?い、いいよそんなの私も楽しかったから」
「いや、それじゃ俺の気が収まらないから、ね?」
「う、うん……じゃあ……」
最初は断ったけど、俺の押しに根負けした三枝さんはオッケーしてくれた。
頬を赤らめながら、恥ずかしそうに上目遣いで返事をする三枝さんは、正直世界一可愛いなと思った。
◇
それから俺達は図書館を出ると、駅前から少し外れにあるカフェへとやってきた。
ここは地元でも有名なパンケーキの有名なカフェで、三枝さんは前にコンビニで甘いものばかり買ってたぐらいだから、きっと気に入ってくれるだろうという事で連れてきた。
「わぁ、可愛いお店だね」
「うん、しーちゃんなら気に入ってくれるかなって」
内装を見渡して楽しそうに呟く三枝さんに、俺はそう返事をした。
すると三枝さんは、急に恥ずかしそうに下を向いてしまった。
それから俺達は、二人掛けのテーブル席へと案内され、ここの目玉であるパンケーキを二つ注文した。
「美味しそうだね!」
と、三枝さんはメニューにあるパンケーキの写真を見ながら、子供のようにその目をキラキラとさせていた。
――いや、可愛すぎかと。
それからしばらくして、俺達の元へとパンケーキが届けられた。
三枝さんは、「実はパンケーキも初めてなんだ」と嬉しそうに写真を何枚か撮ると、早速パンケーキを美味しそうに食べ出した。
パンケーキを口に運ぶ度、本当に幸せそうな顔を浮かべる三枝さんの姿は、正直ずっと見ていられる程可愛かった。
「たっくん、今日はこんな素敵なお店連れてきてくれてありがとね」
「いや、そんなに喜んで貰えたなら俺も嬉しいよ」
パンケーキを食べ終え、俺はコーヒー、三枝さんはロイヤルミルクティーを飲みながらちょっとゆっくりする事にした。
目の前に座る三枝さんは、俺の顔を見ながら「ンフフ♪」と楽しそうに微笑んでいた。
俺が「なに?」と聞くと、「なんでもないよー♪」とこれまた楽しそうに返事をする三枝さんは、とにかくご機嫌なようで良かった。
さっき食べたパンケーキを思い出すように「また来たいなぁ」と呟く三枝さんに、「そうだね、じゃあまた連れてくるよ」と答えると、三枝さんは顔を真っ赤にしながら「よ、宜しくお願いします!」とガバッと頭を下げた。
それから、あわあわと恥ずかしそうに両手で顔を覆いながらクネクネする三枝さんは、やっぱりちょっと挙動不審で周囲の視線を集めてしまっていた。
幸い、両手で顔を隠しているから彼女がしおりんだとはバレずに済んだのは良かったけど――。
◇
日も沈みかけてきたところで、俺達は朝集合した駅前へと戻ってきた。
「今日はありがとね!」
「うん、こちらこそ」
こうして別れの挨拶をすると、今日はここで解散する事になった。
「ねぇたっくん!今日は楽しかったよ!それからご馳走さま!」
駅へ向かって駆け出した三枝さんは、一度立ち止まりこっちを振り返ると、大きく手を振りながらそう声を上げた。
そんな仕草がなんだかとても愛おしく思えてしまった俺は、手を振り返しながら同じく声を上げる。
「俺も今日は楽しかったよ!また行こうね!」
俺の返事を聞いた三枝さんは、嬉しそうにその表情を思いっきりふやけさせると、再び駆け出して行った。
俺はそんな、最後まで色んな表情を見せてくれる三枝さんがやっぱり面白可愛くて、微笑みながらその背中が見えなくなるまで見送った。
――ピコン。
帰り道を一人歩いていると、Limeの通知音が鳴った。
確認するとそれは、三枝さんから画像が送られてきた通知だった。
なんだろうと思いながらその送られてきた画像を開くと、そこにはさっき食べたパンケーキと、それ越しに写る俺の姿があった。
――なんと三枝さんは、パンケーキと一緒に俺も撮っていたのだ。
――ピコン。
すぐにまた三枝さんからメッセージが届く。
『へへっ!隠し撮り成功!』
そしてそんな一文と一緒に、アニメ絵にデフォルメされたニヤニヤ顔のアイドルしおりんのスタンプが送られてきた。
「ぷ、なんだよこのスタンプ」
突然自分のスタンプを送信してくる三枝さん。
俺はそんな、本人が自分のスタンプを送ってくるシュールさと、アイドルが俺なんかを逆に隠し撮りしてどうするんだよという可笑しさに、帰り道一人で吹き出してしまったのであった――。
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