29話「テスト勉強」
金曜日。
俺と三枝さんによる、しーちゃんたっくん呼びにざわついていた教室内も、金曜日になればその熱も次第に冷め、今では以前と変わらない感じにまで戻っていた。
ただ、一つ変わった事と言えば、三枝さんの周りには以前より女子生徒がよく集まるようになっていた。
これまで、仲良くなりたいけど高嶺の花だと思って距離を置いてしまっていた人達が、俺達と普通に接している三枝さんを見てるうちに、どうやらそれは自分達が勝手に距離を置いていただけの思い違いであった事に気付いたようで、クラスの女子達はこうして三枝さんの元を訪れては楽しそうにお喋りをする事が多くなっていた。
それは三枝さんだけではなく、同じく一人で居ることが多かった清水さんも同じで、クラスのみんなと徐々に打ち解けているのであった。
俺も孝之も、二人がクラスのみんなと仲良くなれている事が嬉しくて、二人で居るときはそんな話題で盛り上がる事もあった。
ただし、三枝さんも清水さんも、男子相手には以前と変わらずしっかりと壁を作っているようで、クラスの男子達からは依然俺達への嫉妬の眼差しは無くなってはいないのだけど――。
◇
「今日から定期テストに向けて部活は休止期間に入る。いいかー、だからって遊ぶのではなく、赤点取らないようにしっかりと勉強しろよー」
帰りのホームルームで、担任の先生が最後にそう告げた。
そう、早いものでもう定期テストの時期がやってきてしまったのである。
これまで俺は、バイトをするなら勉学を怠ってはいけないとせっせと勉強にも取り組んできた。
だからその成果をいよいよ試す時がやってきたのだ。
この高校に入って、初めてのテストがやってくる事にクラス内からは不満の声が漏れ出していた。
だが俺は、クラスのみんなとは真逆で、必ず上位に入ってやると内心闘志を燃やしていた。
帰宅部の意地を見せる時がやってきたのだ!
ふと隣から視線を感じて振り向くと、そこにはそんな俺の事を何か企んだような顔付きで「うっへっへ」と変な笑い声と共に眺めてくる三枝さんがいた。
そんな、まだホームルーム中にも関わらず挙動不審が漏れ出してしまっている三枝さんは、よく分からないけど今日もなんだか楽しそうだった。
◇
――キーンコーンカーンコーン
今日の終業のチャイムが鳴る。
その音に合わせて、帰りのホームルームは終了となった。
よし、バイトのシフトも減らしてるし、帰って今日から集中して勉強しようと心に誓っている俺に声がかけられる。
「たっくん!!」
そしてその声は、案の定三枝さんだった。
でもごめん三枝さん、俺は今日から勉強しないといけないから、ハンバーガーとかには付き合えないよという申し訳ない気持ちで振り向くと、そこには案の定何かに期待したようにニコニコと笑みを浮かべた三枝さんの姿があった。
あぁ、これからこんな楽しそうにしている三枝さんの誘いを断らないといけないのかと、やっぱり申し訳ない気持ちで一杯になりながら俺は三枝さんの次の言葉を待った。
「このあと勉強会しましょ!!」
「ごめ……え?勉強会?」
遊びではなく、勉強会?
そんな予想外の言葉に、俺は用意していた返答を奪われてしまい思わずキョトンとしてしまった。
「そう!これからテストに向けての勉強会!これもやってみたかったの!!」
どうやら、テスト前の勉強会も三枝さんのやってみたいことリストの一つだったようだ。
確かに漫画とか読んでると勉強会ってよくあるけど、実際は勉強会なんてやった事が無かったし、ましてや女の子と一緒になんて集中出来るかどうかも正直怪しい――。
……けど、勉強会を本当にやってみたい様子の三枝さんに、こんなキラキラワクワクとした表情で見つめられてしまっては、もう断るわけにはいかなかった。
「まぁ、勉強会ならいいよ」
「ほんと?やった!」
そう俺が返事をすると、三枝さんは本当に嬉しそうに微笑んだ。
その天使のような可憐な笑みを前に、俺は思わず顔が赤くなっていくのを感じた。
――多分この笑顔には、一生慣れることなんて無いんだろうなと俺は悟ったのであった。
◇
三枝さん提案の勉強会を行うため、放課後俺達は図書室へとやってきた。
孝之と清水さんも誘ったため、もはやお馴染みの面子である。
他にも勉強しに来ている生徒はちらほらいたが、集団で勉強会をしようというのはどうやら俺達だけだった。
あんまり煩くしてもいけないからと、俺達は一番奥の四人掛けの席に座り、早速各々教科書を広げて勉強会を開始する事になった。
皆それぞれやりたい教科の復習をしようということで、とりあえず俺は苦手な数学の復習から始める事にした。
すると、隣に座った三枝さんも慌てて鞄から数学の教科書を取り出すと、鼻息をフンスと鳴らしながら同じく復習を始めていた。
その思った以上にやる気満々な三枝さんの姿勢に、俺も負けてられないなと勉強に集中する事が出来た。
実際、たまにある小テストなんかでも、三枝さんは本当に優秀で、いつも満点に近い点数を取っているのだ。
俺も決して成績は悪い方では無いはずだけど、それでもここまで学力に差があるというのは、正直三枝さんはうちの高校に来るレベルでは無かったのでは?とすら思える程だった。
今も隣で、スラスラと問題を解いていく三枝さん。
チラチラと俺の問題を覗き込みながら、恐らく同じ問題を我先に解いているようだった。
ちなみに、前に座る孝之と清水さんは、お互いに話し合いながら国語の勉強をしていた。
そんな二人を見て、成る程そうやって分からない所は誰かに聞けば良いのかと、ようやく勉強会のメリットに気が付いた俺は、隣で恐らく同じ問題を解いている三枝さんに話しかけた。
「あの、しーちゃん、ここなんだけどさ」
「ど、どれ?あ、これね!こ、ここはこの公式使うんだよっ!!」
すると三枝さんは、待ってました!とばかりにすぐに求め方を教えてくれた。
その説明は的確で分かりやすく、俺はそんな三枝さんに素直に感嘆した。
「ありがとう!すごく分かりやすかったよ!」
「う、うううん!よ、良かった!!」
俺がお礼を告げると、三枝さんは顔を赤くしながらあわあわと顔の前で手を振っていた。
それから小さく「よっしゃ!」と呟きながらガッツポーズをしていたのは謎だったけれど、難しい問題だったから本当に教えて貰えて助かった。
それから俺達は、互いに分からない所を補い合いながら、二時間みっちりと勉強する事が出来た。
三枝さんが居てくれたおかげで、全教科満遍なく分かりやすく教えて貰えた事は本当に助かった。
孝之と清水さんも、自分達より全然勉強が出来る三枝さんに素直に感嘆していた。
当の三枝さんはというと、やりきったとばかりに満足そうな笑みを浮かべていた。
正直、教えて貰うばかりで悪かったかなと思っていたけど、楽しそうにしてくれていて良かった。
だから帰り道、俺は改めて色々と教えてくれた三枝さんにお礼をする事にした。
「今日はありがとう。しーちゃんが居てくれて本当に良かったよ」
「ふぇ!?う、うん、私もだよっ!!」
ん?私もだよって?と思ったけど、嬉しそうにはにかみながら歩く三枝さんを見ていたら、まぁ何でもいいかと自然と俺も笑みが溢れたのであった。
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