28話「Limeと画像」

 その日の夜。


 俺は自分の部屋のベッドに横になりながら、今日もスマホをいじっている。

 昨日はゲームをやり過ぎて寝坊したため、今日はゲームは程ほどにしようと心に誓っている。



 ――ピコン。


 そう思いつつも、ついついまたゲームのアイコンをタップしそうになっていたその時、突然スマホの通知音が鳴った。


 表示されたのは、もはやお馴染みになっている孝之、清水さん、そして三枝さんとのLimeグループの通知だった。


 ちなみに、現在このグループのアイコン画像は、今日三枝さんが送ってきた少しブレたハンバーガーの写真になっている。


 あれからも暫くツボに入ってしまっていた孝之が、面白がって変更したのだ。



『今日はありがとう!とっても楽しかった!』


 Limeは三枝さんからのものだった。


 確かに、ハンバーガーを食べてる時もずっと楽しそうだった三枝さんの姿を思い出し、俺は部屋で一人クスリと思い出し笑いをしてしまった。


 なんていうか、最近は三枝さんが一人いるだけでとにかく楽しい。

 それはきっと俺だけではなく、孝之や清水さんもきっと同じ気持ちだと思う。


 この間までテレビで見ていたスーパーアイドルだけど、実は天然で挙動不審で、それからいつも明るくて楽しそうな三枝さんが居てくれるだけで、何でもない事まで楽しくなってしまうのだ。


 それはきっと、三枝さんの人としての魅力なんだと思う。


 トップアイドルとして有名になったのも、それは可愛いからとか、歌が上手いからだけじゃない。


 三枝紫音という存在が、人を惹き付けて止まないのだ。



 そんな三枝さんに、孝之も清水さんもすぐに楽しかったよとLimeで返事をしていた。


 だから今日は、俺も寝落ちせずに楽しかったよとLimeを送っておいた。


 三枝さんが行きたいなら、いつでもまたハンバーガーを食べに行こうという一言を添えて――。




 ◇



 ――ピコン。


 Limeで返事を送ってからちょっと間を空けて、再びLimeの通知音が鳴った。


 今度は何だろうと思いスマホを開くと、それは三枝さんからの個人Limeだった。


 俺だけ?なんだろう?と思いながら、俺はすぐにそのLimeを開く。




『あの、今からちょっと通話してもいいかな?』


 え?通話?と思ったけど、よくよく考えるとこの間も通話した事があったし、まぁ今暇だから『大丈夫だよ』と返事をした。


 すると、返事して数秒後、すぐに三枝さんからの通話がかかってきた。



「も、もしもし?」

「あ、たっくん!こんな時間にごめんね!」


 慌てて通話に出ると、三枝さんの声は少し上擦っていた。


「いや、大丈夫だけど、何かあった?」

「あぅ……その……」


 その?なんだ?



「何も無いけど……ダメかな?」


 何も無いけど?


 ん?つまりどういう事だ?

 文字通り、何も無いけど通話してきたという事だろうか。


 あの三枝さんが?


 ……と思ったけど、俺と三枝さんは今日だって遊んでたわけだし、この前の土曜日には二人で映画だって一緒に観た仲なのだから、もう別に何も不自然な事など無いことに気が付いた。


 客観的に見ても、俺達は既に他愛ない話をするぐらいの仲には成れているはずだ。


 未だに信じられないけど、事実は事実として受け入れるべきだし、何より俺だって本音は三枝さんと話したい――。



「だ、大丈夫だよ?ただちょっと緊張しちゃってさハハ」

「き、緊張!?なんで!?」


 照れ隠しにそう答えると、三枝さんは俺の『緊張』という言葉にとても驚いていた。



「あぁ、いや、やっぱりさえぐ……じゃなくて、しーちゃんはエンジェルガールズのしおりんだからっていうか、それ以前に俺なんかとは釣り合わないぐらい可愛いからっていうかなんていうか……って、ごめん俺何言ってんだろ」


 ヤバイ、本当何言ってるんだ俺……。

 テンパって思わず訳の分からない事を口にしてしまった。



「……」



 流石に不審に思われてしまったのだろうか、それから三枝さんからの返事は無く暫く沈黙が続いた――。


 しかし、この沈黙に耐えきれなくなった俺は、再び恐る恐る声をかけてみる。



「……あ、あの?しーちゃん?」

「……ないよ」

「な、ないよ?」


 ないよ?ないよってなんだ?

 その前にも何か言っていたけど、イマイチ上手く聞き取る事が出来なかった俺は聞き返す。


 すると、



「たっくんが私と釣り合ってないなんて事ないよ!!」


 思いきって話すように、今度はそうハッキリと話してくれた。

 俺が三枝さんと不釣り合いな事なんか無いと、キッパリと否定してくれたのである。



「そ、そうかな?」

「そうだよ!だって!!」

「だって?」


 ――だって、なんだろう?

 俺は恐る恐る次の言葉を待った――。



「あ、あわわわ!な、何でもないでしゅ!!おやすみなさいっ!!」



 ――そのまま、通話は切られてしまった。


 なんだったんだろうと思ったが、最後の三枝さんの言葉は明らかに照れ隠しによるものだった事ぐらい俺にも分かった。


 じゃあ、何であの三枝さんがそんな照れてるんだ?という話になる。


 それってまさか……いやいや、調子に乗るな俺。

 一つのご都合主義な考えが頭を過ったが、ラノベ主人公かよと直ぐ様その考えを否定した。




 ――ピコン。


 そんな悶々とした気持ちでいると、またLimeの通知音が鳴った。



「ん?画像?」


 それは、三枝さんからグループLimeに送られてきた画像だった。


 その画像を開くと、それは今日ハンバーガーを食べながら四人で撮った一枚の写真だった。


 自撮りはアイドル時代から慣れてるとの事で、三枝さんが手に持つスマホに、他の三人もちょっとおどけながら写り込む形で撮影された一枚。


 この画像の中の俺達は本当に楽しそうで、自分で見てもめちゃくちゃ良い写真だった。


 俺は、今日の楽しかった事を思い出しながら、その画像を暫く楽しく眺めたあと保存した。


 笑顔で写真に写る三枝さんがとにかく可愛くて、俺は暫く見惚れてしまった。

 そして、そんな三枝さんのすぐ隣に自分が写っていることが、とにかく嬉しかった――。




 ――ピコン。


 すると、またまたLimeの通知音が鳴る。


 今度は、三枝さんから俺個人宛のLimeだった。


 そしてそれは、またしても画像だった。


 俺は送られてきた画像を開いた。

 するとそれは、先程グループLimeに送られてきたものと同じ写真だった。


 だが、その画像には落書きがされており、三枝さんと隣に写る俺の顔には手書きで猫の髭が書かれており、そんな二人の顔をピンク色の線で書いたハートマークで囲ってあったのだ。



 そして、その下には『一緒だよ♪』と可愛らしい手書きの文字が書かれているのであった。


 それは、さっきの俺の言葉に対する三枝さんなりの返答なのだろう。


 俺はそんな三枝さんの気持ちがとにかく嬉しかった。

 嬉しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、俺はその画像を三回保存したのであった。


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