25話「次の日のコンビニにて」

 日曜日。


 昨日のとても濃かった一日が嘘のように、俺はまたいつも通りの日常へと戻っていた。


 いつも通りバイトへ出勤すると、今日も今日とてコンビニのレジ打ちに勤しんでいる。




 ピロリローン。

 コンビニの扉が開くメロディーが店内に流れる。


 俺はその音に反応して「いらっしゃいませ~」と声をあげ、そして入ってきたお客様の姿を確認する。


 そこには、やっぱりいつも通りの不審者スタイルをした三枝さんがいた。



 俺と目が合った三枝さんは、慌てて被ってるキャスケットのツバを摘まんで顔を隠すと、さささっと雑誌コーナーへと移動した。


 俺はそんな、昨日あれだけ距離が近付いたっていうのに、恥ずかしいのか何なのか、以前と変わらず挙動不審なままの三枝さんに思わずクスリと笑ってしまった。



 こうして今日も、俺はバイト中の密かな楽しみになっている『三枝さんウォッチング』が無事に出来そうな事に満足した。



 まず三枝さんは、ガバッと一つの雑誌を手にすると、ペラペラとページを捲り出した。


 そのページを捲る速度はとても早く、あの速度では恐らく何も内容が頭に入ってはいないだろう。


 そしてすぐに雑誌を読み終えてしまった三枝さんは、二つ目の雑誌に手を掛けると、また同じようにペラペラとページを捲り出した。


 何をしたいのか全く分からないが、とりあえず別に雑誌を読みたいわけでは無さそうだという事だけは分かった。


 しかし、三枝さんは突然ピタッと動きを止めたかと思うと、その顔が途端に真っ赤に染まっていくのが分かった。


 何事だ?と思い手に持った雑誌を良く見ると、そこには結構際どいグラビア写真がでかでかと載っていた。


 恥ずかしそうに両目を瞑りながら慌てて雑誌を棚に戻すと、気を取り直すように一度大きく深呼吸をする三枝さん。


 そんな恥ずかしがる三枝さんの仕草が面白可愛くて、俺は見ているだけでとても癒された。




 それから、気を取り直した三枝さんは買い物カゴを手にすると、カゴにプリンとカップケーキとタピオカミルクティーを入れ早歩きでレジへとやってきた。


 今日は全部甘いものデッキかぁと思いながらも、俺は平静を保ちつつピッピッと商品を集計していく。


 しかし、さっきの雑誌の事が恥ずかしいのか、集計をしている間もずっと俺の顔をガン見して様子を伺ってくる三枝さんが気になって仕方なかった。


 変装と言っても、三枝さんと会うのは昨日の今日だし、この距離なら普通に相手が三枝さんだって事は流石に丸分かりなんだけど、本人は変装して別人のつもりなのだろうから、バレバレだよ三枝さんという気持ちをぐっと堪えながら俺は気づかないフリを続けた。



「い、以上で532円になりま――」

「はい!!」


 俺が言い終える前に、案の定財布から千円札を一枚差し出してくる三枝さん。

 何が楽しいのか、その瞳はどこかキラキラとしているようだった。


 そして、やっぱり今日も小銭を出すつもりは無さそうなので、俺はその千円札を受けとるとそのまま会計を済ませてお釣りを手渡す。


 すると、これまたいつも通りお釣りを差し出す俺の手を、両手で包み込みながら大事そうにお釣りを受け取る三枝さん。



「あっ」


 そう小さく声をあげた三枝さんは、今日も俺がしおりんのリストバンドをしている事に気が付いた様子で、嬉しそうにじっとそのリストバンドを見つめてきた。



「あの、お客様?その、そろそろ手を……」


 その間もずっと手を包まれたままだった俺は、恥ずかしさを隠しつつ三枝さんに声をかけると、はっとした様子の三枝さんは慌ててお釣りを受け取り財布にしまうと、「ご、ごめんなさい!」と頭を下げてそのまま恥ずかしそうにコンビニから出て行ってしまった。


 俺はそんな、今日も安定して挙動不審だった三枝さんの背中を見送りつつ、思わず吹き出してしまった。


 昨日はあれだけ一緒に過ごしたっていうのに、良いのか悪いのか何も変わってない三枝さんに、どこかほっとしている自分がいた。



 どうやら、バイト中の楽しみはこれからも継続出来そうだ。


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