13話「班分け」
「よーし、じゃあ今度の遠足の班決めるぞー」
教壇に立った担任の鈴木先生がそう告げると、その言葉に教室内の熱気は一気に高まった。
この高校では、毎年一年生は遠足へ出掛けるという恒例行事があるため、一年生である俺達は例に漏れず遠足へと出掛けなければならなかった。
内容としては、普通に近場の山にあるハイキングコースを歩いて、そこにある広場でお弁当を食べて終了という、本当にただの普通の遠足だった。
しかし、そんなただの遠足という行事にも関わらず、クラスは大盛り上がり状態なのである。
何故なら、それは勿論このクラスにはスーパーアイドルしおりんこと三枝さんがいるからに他ならない。
みんなは、しおりんと同じ班になろうと闘志を燃やしているのだ。
もっとも、このクラスには三枝さん以外にも美女がいるため、この盛り上がりは三枝さんだけに限った話では無いようだけど。
「じゃあ、男女それぞれペアを作って、あとはペア同士くっついて四人の班を作ってくれー」
鈴木先生がそう告げると同時に、教室内では誰とペアを組むかで一気に騒然とした。
「卓也、組もうぜ!」
「おう、宜しく」
だが、そんなクラスのざわつきなど俺には関係無く、例のごとく俺は孝之と早々にペアを組むことで、教室内で繰り広げられている”誰とペア組むか問題”は早々に解消したのであった。
こういう時、すぐにペアを組めるような友達がいるのは本当に助かる。
俺はともかく、孝之は他のクラスの皆とも仲が良いのに、真っ先に俺を選んでくれる所が本当にあったけぇ奴で、そういう所も男らしくてイケメンなんだよな。
俺が女なら、惚れてるね!!
◇
「三枝さん、良かったら一緒に組まない?」
ペア決めには全く無関心な様子でじっと自席で座っている三枝さんの所へ、クラスの女子達が集まってきた。
三枝さんとペアを組みたがる彼女達は、その席は一つしか無い事もありなんとか選ばれようと自己アピールに必死だった。
男子だけでなく、エンジェルガールズは女子人気も高い事もあり、そんな憧れのアイドルと一緒に遠足出来るチャンスが目の前にあるのだから、彼女達が必死になる気持ちは分からなくも無かった。
うん、まぁ、必死になるのはいいさ。
だがしかし、またしても頭の横に女の子のお尻があるこの状況だけは居たたまれないので、いい加減なんとかして頂きたいのだけどね……。
「みんな誘ってくれてありがとう!でもごめんね、私もう班は決まってるんだ」
集まってきた女子達に向かって、申し訳なさそうに断りを入れる三枝さん。
その声に、え?三枝さん誰と組むんだ?とクラスの男子達からも注目が集まる。
「清水さん、いいよね?」
三枝さんは、同じくペア決めに加わらず自席に座っていた清水さんに向かって、ニッコリと微笑みながら声をかけた。
すると清水さんは、あたふたしながらも「うん、宜しくね」と小声で返事した。
三枝さんと清水さんが話しているところは正直記憶に無いのだが、二人は出席番号順で前と後ろの関係なため、見えないところで絡みがあったのだろう。
こうして三枝さんのペアが決まってしまった事で、そっか残念と諦めた女子達は三枝さんの席から離れて行くと、居心地悪そうにした清水さんがトコトコと三枝さんの席へとやってきた。
清水さんと言えば、艶やかな黒髪を所謂姫カットで揃え、色白で小柄な可愛らしい女の子だ。
それこそ、三枝さんを除けばこの学校でもトップクラスの美人として実は有名で、主にオタク寄りな人達を中心に根強い人気を誇っている程だった。
そんな、クラスでもツートップの美女である三枝さんと清水さんがペアを組んだ事で、教室内の男子達の目の色が露骨に変わったのであった。
◇
「ペアはいいんだけど、班決めるのってどうしたらいいんだろうなぁ」
ペアは組んだものの、どのペアと組んだらいいのか困った様子の孝之が話しかけてくる。
それは俺も同じ気持ちで、これからどうしたものかと悩んでいた。
―――チラッ
「そうだな、皆もどうするか困ってるよな」
周りを見渡しても、まだ班が決定したところは一つ二つしか無い様子だった。
男女共に、誰がどこのペアとくっつくか様子を見合っているという感じだった。
―――チラッチラッ
「……あぁ、そうだよな」
―――チラチラチラッ
「……あぁ、そうなんだよ……」
……俺は、孝之と視線を交わす。
(……どうする?)
(……卓也、ここは頼む)
(……分かったよ)
孝之と目だけで無言の会話を交わすと、俺は一度深くため息をついた。
そして俺は、さっきからこちらをチラチラ見てくるお隣さんの方を振り向き、覚悟を決めて声をかけた。
「……あの、三枝さん?良かったら一緒に班組みませんか?」
そう俺が声をかけると、まるで一輪の花が咲いたようにパァッ!っと満面の笑顔を浮かべた三枝さんは、
「いいの!?宜しくね!!」
と、二つ返事で俺の誘いをオッケーしてくれた。
そんな三枝さんに倣って、「よ、宜しくお願いします!」と顔を真っ赤にした清水さんがこちらに向かって頭を下げてきた。
「おう、こちらこそ宜しく!よし、じゃあこの四人で班決定だな!」
ニカッと笑った孝之が大きめの声でそう言うと、こうして三枝さんと清水さんの班が決まってしまった事が教室内に知れ渡り、残されたクラスの男子達は露骨にガッカリとした様子だった。
――ごめんみんな、圧が凄かったんだよ……圧が……
こうして、俺は晴れて三枝さんと同じ班にさせら……じゃなくて、同じ班になったのであった。
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