3話「昼休み」
昼休み。
俺は前の席の孝之と二人で弁当を食べることにした。
隣では、三枝さんの元へと昼を共にするためやってきた複数の男女で若干ごった返していた。
そのせいもあって、俺の頭の真横にあるのが例え女子のお尻であったとしても、今弁当を食べている俺としては正直邪魔でしかなかった。
「……次からは外出て飯食うか?」
「……そうだな、ちょっとこれだとね」
そんな俺の様子に気が付いた孝之が、今度から別の場所で食べようと提案してくれた。
こうやって、周りの様子にしっかりと目が届いてる孝之は、やっぱり中身もイケメンだよなぁと俺は感心した。
俺が女なら、惚れちゃうね!
「ご、ごめんねみんな!私お弁当食べたいから、お話は食べてからにしてもらってもいいかな?」
口々に向けられる質問を遮るように、ちょっと大きめな声でそう言葉を発した三枝さん。
すると周りの人達は、口々に気が付かなくてゴメンと謝罪をしながら、そそくさと三枝さんの席から去って行った。
「せっかくこの席になったのに、移動されたら困るんだから……」
と、人を移動させておいて訳の分からない事を呟いた三枝さんは、やっと弁当を食べれると思ったのか安堵の表情を浮かべながら自分のお弁当を開いていた。
「ま、まぁこれなら移動する必要もないか」
「うん、まぁそうだね」
俺と孝之は、たった一言で綺麗に人が居なくなった事に少し呆気にとられていた。
これが所謂、カリスマってやつなんだろうね。
◇
「あ、そうそう卓也、昨日のSラボ見た?」
「ん?あーごめん、その時間バイトしてたから見てないわ」
孝之の言うSラボとは、今若者に大人気な音楽番組だ。
有名歌手から今話題の若手歌手まで、芸人さんとトークをしつつ新曲を披露するこの番組が、常に若者のトレンドの中心となっているのだ。
当然、今隣で美味しそうにパクパクと弁当を食べている三枝さんもこの番組に出ていた。
なんと言っても、当時中学生の俺はこのSラボを見て三枝さんの存在を覚えたのだから。
なんかテレビに可愛い子が出てるなぁ……へぇ、エンジェルガールズの三枝ちゃんって言うのか、可愛いな可愛いな可愛いなぁ……と、あの時受けた衝撃を俺は未だに覚えている。
だから、あの日テレビで見た超絶美少女が、何故か今隣で一人美味しそうにパクパクと弁当を食べてるこの状況は、やっぱり意味が分からなかった。
「マジかよ、昨日DDG出てたんだぞ?」
「ん?DDGってなに?」
「え?知らないのか?今話題の新人ガールズバンドだよ。皆可愛いんだけど、中でもボーカルのYUIちゃんがもの凄い美人なんだよ」
へぇー、とだけ返事をする俺に、孝之はスマホでそのDDGというバンドの写真を見せてきた。
そこには、黒髪ロングの大人っぽい綺麗な女性を中心にした5人組のガールズバンドの姿があった。
「あ、本当だ美人だね」
ガタッ!
俺が素直に感想を述べると、それに合わせるように隣から崩れるような音がした。
その音に反応して隣を振り向くと、それはどうやら三枝さんの肘が机から滑り落ちる音だったようだ。
大丈夫か?と思いつつも、俺達は気を取り直して会話を続けた。
「だろ?で、この子実は俺達と同い年なんだよ!全然見えないだろ?」
「マジか、確かに女子大生って言われても違和感ない大人っぽさだな」
「それがいいんだよ、曲もめちゃくちゃいいから聞いてみろよ」
そう言うと今度は、孝之は動画サイトからDDGのPVを流して、イヤホンの片方を差し出してきた。
俺はそのイヤホンを片耳に差し込み、DDGの曲を初めて聞いた。
それは、ガールズバンドとは思えない程カッコイイ曲で、流れるPVの雰囲気も相まって、なんていうかとても美しかった。
「いいな、これ」
「だろ?」
「うん、孝之がYUIちゃんオススメした理由分かったわ。生で見たら惚れちゃいそうだな」
ドタッ!!
俺が素直に感想を述べると、それに合わせてさっきよりも大きい音が隣から聞こえてきた。
俺と孝之はイヤホンを外して、その音の発生源である三枝さんの方を振り向くと、そこには何故か椅子から落ちそうになっている三枝さんの姿があった。
――え?本当なに?
俺と孝之は、お互いの顔を見合わせながら何事だと視線を交わしてみたが、やっぱりお互い訳が分からなかった。
そんなこんなで、三枝さんの挙動不審はやっぱり今日も健在だった。
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