第Ⅱ世界 <夜ノ異>

2.0.0  SIИAЯЮ



 *――*――*――*――*




 ――ようこそ、ここWelcome to「ミッドナイトタウン」へ 'Midnighttown'


 ここは全てが集う大都市。物流の中心地にして人も同じく流れ込む街。

 酒類、金銭、老若男女。何でもござれ……と、言いたいところだが。生憎人手は用意出来ない。運命的に天から降ってくるのを祈るんだな。

 ちなみにまともじゃない奴達やつらだったらあちこちで蔓延っているさ。あのスクランブル大通りにだって、数多ある雑居ビルの中にだっている。見つけない方が難しいだろう。だが彼女はあまりオススメ出来ない。差別や侮蔑じゃない。あれはヒューマロイド、君に理解出来そうな言葉で云わば人型ロボットなのだ。


 ロボットとだけあって人とは異なる容姿を持っている。ひと目でヒューマロイドってわかるだろう。中でもよく見かけるのは「CitaWsシタゥーズ」だ。

 CitaWsシタゥーズはミッドナイトタウンを統治している大規模企業の本部組織で、大半のヒューマロイドはここから発現している。従属しているかどうかは胸元にあるロゴで判別可能だ。聡明な君のことだ、見てすぐに認識できるさ。


 おおっとooops、まさにひとりこちらに寄ってきたか。しーっshhh……。静かに。一旦身を潜めよう。


 …………。


 ……………………。


 ……もう平気だ。心配いらない。

 先に伝えた通り、彼女達はまともじゃない。CitaWsシタゥーズはこの街全体にいる。その全てがネットワークで繋がっているのだ。そして何より、随分と横暴なことに、危険分子を即行で排斥するようにプログラミングされている。


 そうya。察しの良い君ならばもう理解しただろう。何かの手違いか神の気紛れか、皮肉にも我々はその対象なのだよ。


 発見されるや否や、非常に高い確率で敵性反応とみなされ、搭載されている焼却光線発射装置が稼働する。真正面から喰らってしまえば骨も残してもらえない。

 このような始末……アーティフィシャル・インテリジェンスの暴走かヒューマロイドの謀反か。CitaWsシタゥーズ上層部が何を目的に実施したのかさえ知らされてない。未だ存命なら、聞き出せるかもな。聞き出す前にそいつ達が命を失われなければ良いが……。


 あぁ、脱線してすまない。

 CitaWsシタゥーズの非人道的な行いについてだったかな。街では対抗する人も少なからずはした。

 そう、「居た」のさ。

 でも今は息を潜めているのがほとんどだよ。無駄な抵抗だって諦めがついちまったのさ。その上、この街から逃げようものなら彼女達が全力で抹消しにかかってくる。排水溝を通ろうとするネズミ一匹すら取り逃さないらしい。外ではさぞ願いが叶う街なんて噂されていたかもしれないが、それこそCitaWsシタゥーズの、言い換えればヒューマロイドの策略だろう。外部からの救援なんて期待しないことだな。それを実行しようとしてやられてしまった人を幾度となく見てきた。


 ミッドナイトタウンはとっくの昔に幽閉されてしまった監獄なのさ。


 ……今し方、CitaWsシタゥーズがいつもとは異なる妙な動きを示していた。「いつも」がわからない? 大丈夫k k。この街に住んでいたらすぐに慣れるから問題ないね。

 まっ、大したことじゃない。大半のヒューマロイドは徘徊ルートが決まっている。実にロボット的な「いつも」の動きだ。だが標的を見つけた時は様相が変わる。すると、彼女達は頭部にある一つ目のようなレンズを赤くサイレンのように切り替える。そして素早くその獲物へと向かってひたすらに追いかけ回すのだ。今まさにそうだっただろう? 「いつも」じゃない、あれは云わば「ハント」モードだ。大方ネズミか烏か、はたまた呆けていた誰かが見つかっちまったと考えるのが妥当だ。己ではなかったことを幸運だと喜んでも良いさ。もし君が純粋無垢かつ善良な心の持ち主であり「あのネズミ一匹を助けに行きたい!」と喚いたとしても、こちらとしてはまずオススメしないね。それに余計に見つかってしまうリスクが高まる。巻き込まないようこちらのいないところでやるにせよ、折角案内してあげたんだ、命は無駄にしないでくれよ。


 ……と、ひとまず彼女達が危険なのは理解できただろうか。なぁに、怖がることは無いさ。緊張感ってのは大事だが、いくら何でもずっと気を張ってたら保たない。我々はロボットではないからね。そうだろう? それに、傷一つ無い完璧に見えてしまってもどこにだって「穴」はあるものさ。現に気楽に生きている奴が最低でも一人、ここにいるんだ。


 CitaWsシタゥーズの独裁社会。それ以外は不自由がない、結構解放的な街だよ。充分な物資は流れてくるし、生きる上で必要な衣食住は確保可能。どうせ街の外にも出れないし、かえって気に入って腰を据えている者だって多い。

 しかし、それはそれとして、だ。話を戻そう。ミッドナイトタウンには全てが揃っている――とは言ったものの一つだけ容認できないものがある。いいかい、冗談でも戯言でもない。これは警告だ。耳の穴をかっぽじってよーく聞くんだ。


 君にとっては当たり前のことかもしれないが、ここでは必ずしも常識ではないということをわかってくれ。



 ――日の光を浴びたい、とは決して口に出すな。



 これは事実であり、この街共通の暗黙のルールだ。


 なぜならばここミッドナイトタウンでは太陽が登ることは無い。



 一日たりとも日の目を拝むことの出来ない『夜』の街なのだから――。




 *――*――*――*――*



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る