Если завтра война
良心とは子供のようなものだ。
甘やかせば生意気につけあがる。
だから厳しくしつけねばならない。
私の良心は現在、実に大人しくしている。
厳しくしすぎて、死んでしまったのかもしれない。
だが子供は死んだら困るが、良心は死んでいるくらいがちょうどいい。
-マーク・トウェイン-
日米の最初の戦いは、東京から開始された。
友好団名義で乗り込んだ工作員は浸透して横須賀軍港などに対して攻撃を開始、警戒中の海軍基地警備隊や特警と交戦に入った。
さらに都内各所の施設へ破壊工作とテロ攻撃が始まり、陸上自衛隊は帝国軍と警察と合同の"防衛出動"を開始する。
しかしながらここでアメリカ合衆国は致命的失策を行なってしまった。
第一攻撃目標を軍事関連のみならず工業関連に拡大しなかったのである。
横須賀軍港の戦力や港湾目標に気を取られて、京浜工業地域の爆砕という容易くしかも効果的な標的を逃したのだ。
更に、皇居に襲撃を仕掛けたために民心が完全に激昂してしまった。
すなわち、合衆国は手打ちにする手段を自分から失ったのだ。
何故なら、大日本帝国はどう足掻こうと結局のところ民衆の意思を無視できる国家であった事は、一度もないのである。
古今日本の政治指導者は、この割と血気盛んな国民に常に振り回されてきたのである。
ー
12月8日、ハワイ軍港
それは、"親善訪問艦隊"と侵入した工作員による
レーダーサイトが破壊されブラックアウトし、要塞指揮系統へ特殊部隊の襲撃を受けた事でハワイ要塞司令部が大混乱に陥るも、各部署は即座に確認作業を開始していた。
しかし間髪いれずに、米軍は予定通り攻撃を開始する。
第一撃は二つの目標、すなわち軍港と飛行場へ襲撃を仕掛けるB-17の90機と太平洋艦隊艦載機ドーントレス280機の同時一斉攻撃である。
《ホワイトコメートより全機!作戦予定通り!Japの目は開いてない!
バベル!バベル!バベル!》
《バベル了解!》
傘型の編隊を構築した攻撃編隊は一斉に突撃を開始する!
今更に警報が鳴り始めた日本軍施設では明らかに友軍ではない--ハワイに日本空母はそうそう居ない--艦載機に、慌てて対空戦闘の命令が出される。
《反応が遅い!》
第一次攻撃隊は停泊艦艇の大物、即ち旗艦<陸奥>と<長門>を真っ先に狙って直角ほぼ90度で突撃する。
急降下爆撃機は死狂ひなり、正気にてSBDは操れない。
鍛えに鍛えた合衆国海軍の意地と誇りを見せつけんとSBDドーントレスは突入を開始する。
「気を使ってる場合か!艦長だろうと全員起こして来い馬鹿野郎!」
「まずい、来るぞ!」
「出航用意!急げ!コレじゃ的だ!」
「対空ゥー戦闘ォーよォーい!!!急げェッ!!」
「訓練ではない!これは訓練ではない!」
艦内に残っていた<陸奥>乗員が、急いで戦闘用意を整えようとするが彼らの視界にはほぼドーナツ状の1000ポンド爆弾の火の玉が見えていた。
高度450mで切り離され自由落下に入った対艦徹甲爆弾は、ほぼ反撃を受けずに目標へ進んでいく。
狙うは<陸奥>、第四及び第二主砲塔と艦橋基部、煙突!
その徹甲爆弾は、砲塔直上と甲板に複数着弾した。
直撃から一拍おいて吹き上がる爆轟と衝撃波が、甲板にいた者や耐衝撃姿勢を取ってなかった乗員を吹き飛ばす。
瞬く間の事であった、投下された八機の攻撃編隊の爆弾は狙い通りほぼ全てが命中したのである。
「損害報告!応急措置班を編成しろ!」
「火災発生!」
「大丈夫だ着底するだけで沈みやせん!!今は対空戦闘に集中しろ!」
「どこから侵入されたんだ!」
「<陸奥>に複数着弾!」
今更聞こえる防空ラッパの輪唱に「遅いんだよ見りゃ分かるだろ!」と憤慨する分隊長や、うめく負傷者達の中乗員の大半が上陸で降りていた<陸奥>の被害は拡大していく。
だが彼らを1番震えさせ、恐怖を感じたのは電動機を用いて強引な緊急出航を試みた姉妹艦<長門>の顛末だった。
ドーントレス攻撃隊は曲芸スレスレの交差攻撃--皮肉にもそれは<加賀>の艦爆隊の戦法を参考にした--を以て、あまりに足りてない対空射撃を掻い潜り、突撃を成功させた。
「あっ」
<陸奥>艦橋から、それはよく見えた。
<長門>の第一主砲塔が、爆炎とともに空を飛んでいる。
弾薬庫誘爆だ。
《<長門>が爆沈したって?!夢じゃ、そんな、何かの夢じゃ無いのか!?》
《夢は夢でも悪夢だよバカヤロウ!!》
「なんてこった、なんてこった。」
2次爆発の誘爆の衝撃波と飛び散る破片で白波が巻き上がり、爆煙が包む。
捲れ飛んで痛々しくなった前部の業火とともに、被害を抑えきれなくなって<長門>は沈んでいく。
無線機からは司令部が状況を把握しようとして、現実を受け止めれない声が聞こえてくる。
しかしながら小型艦艇はディーゼル発動機を駆動させ、対空戦闘の用意を完了させてきた。
<陸奥>も予備のディーゼル発動機が動いた事で砲塔に電流が入り、僚艦の様子が聞こえてきた。
《<最上>。各部、対空、よォーいよし!》
《緊急出航!!発動機を動かせ!!》
《これは訓練にあらず!!現在敵襲を受けている!!》
そんな中戦闘艦橋に、小林艦長が漸く間に合った。
上半身の上着は羽織っているだけで、彼が急いで来たことがわかる。
「動けん連中は対空に集中するよう言っておけ!
《用意終わりました!》
「当てていけよ!」
《了解!》
小林艦長は声を荒げて叫ぶ。
「例え着底して浮き砲台になっても戦うぞ!
日本海軍の戦艦が対空戦闘も出来るって事を見せてやれ!」
「25mmが空いてるぞ!手空きの要員は空いてる25mmにつけ!」
その指示に若い水兵は恐怖を滲ませて尋ねた。
「で、でもぼくたち対空戦闘の砲術なんか受けてませんよ?」
「じゃあ撃ちながら祈れ!」
分隊長の言葉にその若い初年兵は「なんてこった」とだけ呟いて、言われた通りする事にした。
《避けろたって湾内で避けれる場所があるかよ!》と駆逐艦の叫びが聞こえる中、<陸奥>上空を何機かの白い翼に日の丸を輝かせた航空機が飛び込む。
「友軍機だァッ!!助けが来たぞ!」
デッキの観測員が空を何度も指差して歓声を上げる。
しかしながら小林艦長はこんなすぐに来れる部隊が居たか首を傾げ、すぐに思い当たった。
「ありゃあ練習の99式艦爆隊だ!殻付きのひよこなんだぞ!?」
即座に無線でどういうつもりだと尋ねると、若々しい若人の義憤に溢れた声が帰ってきた。
《7.7mm演習弾でも狙えばパイロットくらいはやれます!陸さんの戦闘機が上がるまで時間を稼ぐ!》
「くそっ・・・、すまん!頼むぞ!」
99式艦爆隊が必死に掻き回しにかかろうとするが、新しい敵機が現れた。
腹に2発のどでかく、長い何かを抱えている。
それは連装両用砲を5基を積んだ4500トン型防空型巡洋艦<遠賀>へ真っ直ぐ突入していく。
しかし魚雷の高度でも爆弾の高度でもなかった、ゆっくりとした緩降下だ。
《敵機本艦に真っ直ぐ近づく!》
《敵機があんまりにも近すぎる!殴り合いだぞ!》
当て舵をしながら対魚雷戦の回避をしようとする<遠賀>は連装両用砲を連続射撃し、25mmの集中射撃で突っ込んできた敵機を一機撃墜した。
しかし距離を詰めたF6Fヘルキャットは吊り下げていた大型対艦噴進弾、タイニーティムを射撃開始した。
ペーネミュンデのドイツ人技術者たちの支援を受けて急速に進化した合衆国の技術が産んだ対艦噴進弾は三機から6発放たれる。
真っ直ぐと白煙を靡かせて駆け抜ける姿は後世の対艦誘導弾と見紛う光景だった。
《噴進弾!?》
《機関銃撃ちまくれ!!》
慌てた対空機銃の火線が噴進弾を追っていくが、人力で落とせる確率は極めて低い。
まして今日突然見た新兵器だ、対策のしようもない。
技術的未発達から多少安定を欠いた対艦噴進弾は2発が逸れたが、2発が至近弾、そして残る2発が直撃した。
艦中央部と前部に突き刺さった噴進弾は<遠賀>を大きく揺さぶり、大火災に包み込む。
《<遠賀>2発被弾!復元可能傾斜を超えます!》
《<遠賀>応答せよ!》
《アイツの弾幕を突っ込んだのか?!何のための防空巡洋艦だ馬鹿らしいッ!!》
《敵の大型対艦噴進弾です!手も足も出ません!》
錯綜する情報の豪雨の中で、南雲提督の声が聞こえ始めた。
かなり慌てているが、無いよりは良い。
各艦が独自に慌てて動いているよりは統制が取れる。
《動ける艦艇は湾外に退避しろ!動けない艦艇は対空戦闘に集中!鎖に繋がれたまま沈むな!一隻でも良いから生き残る事を考えろ!》
それと同時に、空を見慣れた陸軍機の塗装が飛び始めた。
破壊された滑走路ではなく誘導路の一部と大通りを臨時の代替滑走路にして飛び出した一部の奴らだ!
《海軍さんの連中が稼いだ機会を逃すな!》
「友軍の戦闘機が飛び出した!」
「敵機が陣形を立て直しました、後退するようです!助かったぁ」
だがそれが事態の解決では無いのは明白だった。
何故なら、すぐに敵の第二次攻撃隊が、即座に飛んでくるに違いないだろうからである。
今や真珠湾は叩けば叩くだけ特典の出る玩具箱だ、叩かぬ理由はないし、米軍の狙いは明らかだ。
真珠湾の占領。
そこが落ちればトラックの中部太平洋のそこそこの港湾、水無月島のちょっとした飛行場、大宮島の民間港湾、そして。
硫黄島と、小笠原諸島、本土だ。
無論それを黙って見るわけないだろうから、日米は両海軍を有りったけ投入して泥沼の戦いをするだろう。
先の大戦はユトランド海戦以降、ドイツ海軍の組織的水兵反乱で事実上ドイツ海軍が崩壊したので大海戦が起こらなかった。
だがこの広大に過ぎる太平洋の制海権を手に入れることなど誰にも出来ない。
故にこの戦いは、本当に不毛なものになる。
その果てにあるのは日米の摩耗と崩壊ではないのだろうか?
合衆国はそれをどう認識してるのだろうか。
ー
1940年12月8日、合衆国は日本及びアメリカ連合国に宣戦を布告した。
当初はカナダ侵攻とニューファンドランド侵攻もする予定だったが、対英直接宣戦をする事をドイツの軍事顧問が制止したのだ。
それに遠征軍としてさらに6個師団を欧州に派兵しろと要求された合衆国は、現状侵攻兵力を抽出する事は出来なかった。
さらに、攻めることはできないが守るには問題ない兵力ではあった。
当然、歪な再軍備中のイギリスにこれを食い破れる兵力はない。
「70年もの長きあいだ!一握りの奴隷主とその取り巻き達がこの合衆国を搾取してきた!
だがその屈辱の歴史も今ここに終わる!
腐敗した連合政府を完全かつ最終的な解決のため、我々は世界秩序に宣戦を布告する!」
世界に公然と叩きつけられた宣戦布告。
それは合衆国が世界の全てに復讐を開始した言葉であった。
開戦から数秒の真珠湾奇襲攻撃と合わせて、合衆国は連合国を一撃で粉砕する秘密作戦を発動する。
ブリティッシュ作戦、カルネアデス計画の発動だ。
大量の高性能爆薬を満載した大型輸送船CBM03<カルネアデス号>は、予定通りのコースを進むようセットされた。
そして、その大型船の突入と自爆を以ってリッチモンドの連合国政府を粉砕するのである!
この狂気の大量破壊と大量殺戮は合衆国のそれまで溜めてきた憎悪と屈辱が全て形となったかのようだった。
陽動作戦として合衆国海軍機動艦隊は予備の自爆艦を伴い、作戦成功を祈っていた。
が、この無人艦は海流の調査ミスにより針路がズレた事でリッチモンドよりやや北にズレてしまった。
連合国近海、特に沿岸部の海流や海底条件は調査が難しかったことが原因だった。
それでも効果は著しく、リッチモンドの市街北部沿岸部の惨憺たる光景は凄惨を極め、軽傷含めて2万8000人の人的損失を被った連合国の被害は著しかった。
だが古今戦略爆撃などの戦略攻撃が民心を圧し折る事を叶えた例は乏しい。
さらにこの行為により
根拠地にする予定の南米国家が契約の全面見直しを要求し、北からの侵略者の脅威は急速に南米のナショナリズムと統合意識を高め始めたのだ。
しかし合衆国はブリティッシュ作戦の予備弾突入を決定、無人輸送艦爆弾第二波突入を以って連合国の一掃を狙う。
対する連合国は、警戒待機中の第一艦隊の超弩級戦艦<インディペンデンス>、高速戦艦<アラバマ>などを含む艦隊を邀撃に投入。
ブリティッシュ作戦に対する復讐心に燃える連合国海軍と、世界が合衆国に化した牢獄からの解放に燃える合衆国海軍は、12月10日に再び宿命の戦いを開始することとなった。
未だに陸戦がされてないのにである。
ー
1940年12月10日午後14時28分、連合国海軍第一艦隊旗艦<インディペンデンス>
<インディペンデンス>は落ち着いた英国式の艦橋構造をしつつも九龍城砦のような違法建築感と、前部三連装主砲塔二基が特徴的な戦艦だった。
艦橋がこうなった原因はと言うとあれこれと勝手に付け足したからで、主砲塔は古めかしい14インチだったが自動装填式だった。
船の数が万年満足いかぬ連合国海軍は苦労が多く、多少威力が劣っても概ね四十秒で一斉射撃をぶちかませる自動装填式を彼らは愛した。
戦闘速力16ノットの連合国艦隊は、予定通り三列縦隊を構築しながら敵艦隊の情報を確認する。
《索敵艦<
《電波管制解除!敵艦隊識別。
超弩級戦艦エーギル級1、コロラド改級3、巡洋艦6、駆逐艦22!》
「出てきたな
大艦隊だ、紛れもなく。
エドワード・キンメル提督は歯噛みして不愉快さに耐えた。
連合国艦隊は超弩級戦艦(ただし改装された旧式艦)が1、高速戦艦1を主軸にしている。
砲打撃戦能力で倍近く差がついている。
それに、<インディペンデンス>の連装主砲4基は40口径14インチ砲で、あっちはコロラド改級は50口径40センチ、エーギル級はそれもしくは・・・それ以上。
<アラバマ>は長砲身45口径14インチ。
戦艦の砲撃戦がどれだけ面に弾を集中して降らせる面制圧のものであるかを考慮するとコレは実に困った。
幸い、投射する鉄量の総量と連合国艦艇はデッキベルト15インチ、メインベルト9インチという分厚さがある。
それに、レイヴン級駆逐艦が突入出来るかで事態が決まるな。
「艦隊針路を変更。
敵の頭を抑える、砲撃戦用意!」
「ラジャラジャ!」
大丈夫、こっちとあっちの射程距離を考慮すると最悪だけど、ドン底じゃない。
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