Gesamt Europäische Union

わが北軍に黒人兵を迎え入れるだって? 

俺はごめんだ。

俺たち白人は、黒人と並んで戦うには、あまりにも優秀な人種としてつくられている。

-フェリクス・ブラニガン-


日ソ武力衝突が終了し、フィンランドかカレリヤを失い、ポーランドがサナツィア主義のツケを払った結果が一段落ついた頃。

世界はさらに危険度を高めていった。

38年ナチスドイツは紆余曲折とバルカンの紛争調停者としてのパプスブルグという神聖ローマ帝国の残骸に成り下がったドナウ連邦や、イタリアなどを巻き込んで新たな連合体に発展解消した。

Gesamt Europäische Union、汎欧州連合を自称するこの連合は、事実上の経済的軍事的なドイツの優位性を確かなものにする物であった。


日本はソ連との紛争に敗戦し、事実上朝鮮半島や台湾の総督府を段階的に解体するしかなくなった。

既に現地人たちからは彼らが自分たちを守ってくれないと思われているし、実際そうだった。

朝鮮総督府が解体され、大韓帝国が独立準備政府となっていった。

大韓帝国軍は朝鮮で軍官学校をしていた牛島将軍が代表を務める軍事顧問たちで構成され、装備品は日本軍の物を今は使っていくことが決定された。


台湾独立準備政府は林献堂を中心とする民主主義グループを中心とし、武力蜂起から穏健独立路線が採用された。

それでも台湾の抗日運動は32年暴動などに代表される様に一筋縄ではいかないが、38年12月に帝国議会を通過した台湾独立法で1948年までに独立政府を完全なものとし、彼の地に自立可能な政府を創設するという公言はテロルを辞める理由にちょうどよかった。


日本は艦隊拡張計画、マル4を計画立案し大分県大神村に巨大軍港を造成する計画をスタートさせた。

海軍の近代化を図りつつ、外地からの帰還者に職を与える公共事業的色合いが強い物であったが、思ったより時間が掛からなかったために1941年7月には殆どの機能を完成させていた。

また、前回の戦訓から船団護衛任務艦、即ち護衛駆逐艦(DE)と呼称するべき海防艦以上巡洋艦未満の艦種を制定し、広大な自国シーレーンの防衛体制を確立する事を決定した。

艦隊の防空に関しては、ボフォースの技術を参考にしつつソ連空軍との戦闘で得られた35mm以上12.7サンチ未満を埋める砲火力を埋める事を念頭に置くことを決定。

両用砲として長砲身10サンチ連装砲をそれに充てる事を決定した。

また、既存艦艇防空改装を続けていくこととなる。

更に、日本軍は既存のハルシオン級と捕鯨船の設計を流用した対潜哨戒艦二種類を英国と共同で開発する。

いわゆるフラワー級大型コルベット--日本海軍では占守型と呼称--を生産する事を決定した。


1938年11月、アメリカ連合国ニューオーリンズ軍港


アメリカ連合国海軍の"呉"や"スカパフロー"、"キール"や"ロストック"にあたるニューオーリンズは常夏の雰囲気が薄いところである。

アメリカ連合国海軍総司令部が存在するニューオーリンズと、ジャクソンビル及びマイアミの港湾地帯はアメリカ連合国の玄関口であり、日英通商貿易の中継港として栄えている。

そして、ニューオーリンズ軍港は造船所やドライドックが立ち並び、モスボールされた予備役艦艇の保管や潜水艦戦隊、そして教練がある。


「で、なんだね。

 新型艦はどうするのかな」


そのニューオーリンズの士官向けクラブで、トーマス・J・ライアン大尉が興味半分に口を開いた。

駆逐艦乗りである彼は、アメリカ連合国海軍の新型駆逐艦がどう言うものか気になるのだ。

となりの席に座るアーレイ・バーグ大尉は、それ以外の新型艦も気になっていた。

急速な合衆国海軍の軍拡により戦艦3隻で安穏と過ごせた連合国海軍は軍拡をするしかなくなったのである。


「イギリスからまた高速戦艦を買うって話だ、巡洋艦もそっちになるだろうな」

「駆逐艦は日本から技師呼んだって話だが、合うのか?うちの環境に」

「あっちの技師さんが武装色々詰めるから相当に張り切ってるってさ、日本海の波が荒いのはお前がよく知ってるだろ?」


バーグ大尉はスコッチを片手に、彼の胸元の徽章を指さした。

ライアン大尉は20年代に日本に派遣された際、関東大震災で救助に従事した際に勲章を授与された。


「ともかく、"スペシャルデストロイヤー"特型駆逐艦は既存のジャイアントキリング路線を継続するって事は確実だろう」

「それしか出来んからな」


ライアン大尉はやれやれと呟いた。

船団護衛任務の海防艦やフリゲートを作りながら艦隊型駆逐艦を作る日英などがおかしいのだ。

連合国海軍は贅沢を言っても大西洋の一部海域に進出すると言うささやかな野心しか持てない現実主義の悲しさを背負っている。

ラリったように太平洋や大西洋を疾駆する野望をギラつかせている北部人たちと付き合うつもりが、まるでなかった。


「しかし戦艦って言っても何買うんだ?まさかフッドを売ってくれる訳ないだろ?」

「旧式のタイガー級とかはISAF海軍が購入したしなあ・・・」

「・・・本音言うとインコンパラガルとかG3だよなぁ」

「男の夢だもんなあ・・・大艦巨砲。」


貧乏は辛いよな、夢も見れん。

そうため息をつきながら、二人の大尉は飲むことにした。

辛い時は飲んで寝るくらいしか手段が思いつかなかったからである。

数日後、連合国政府はレナウン級巡洋戦艦を二隻ライセンス国内生産する事と、戦時に際して空母改修する事を視野に入れた大型商業船舶建造をスタートさせた。

アメリカ連合国議員のカール・ヴィンソンが提案した艦隊計画は、以後星1号計画と命名され、爾後情勢変化により継ぎ足され星4号にまで伸びるのだがそれは別の話である。


38年12月、公試運転を終えたレイヴン級駆逐艦はアメリカ連合国海軍に正式に編入された。

排水量二千トン、全長118mの大型駆逐艦はカリブ海から魔のトライアングルまでを走り回る。

必殺の4連魚雷発射管2基を懐に仕込みながら。

彼女らは将来の血と栄光を確約され、この世に生を受けたのである。


1939年1月15日、スタンレイ牧場


そろそろクリスマスの出し物も片付けるかと思い始めた時期、スタンレイは最近就職希望に来た若者の事を不思議に感じていた。

彼がどう言う人種か、すぐに分かった。

ユダヤ人だ。

不思議だったのはユダヤ人なのにあんなに切羽詰まった様子をしていた事だった。

聖書の時代から印象が悪いかの人種はそれ故身内の繋がりが色濃くなる、つまり地縁血縁がしっかりしているわけだ。

それに頼れてない若者とすると、何処か遠くから来てこっちの繋がりをよく分かってないのだろう。

・・・だがユダヤ人がそんな事をする理由があるのか?

スタンレイはそのユダヤ人が若干のドイツ訛りである事に気づいていなかった。


「なあミナツキ」

「はいはい?どうしました?」

「あの就職希望の若者、少し話を聞いてみようと思うんだ。

 ウチで無理でも野垂れて死んじゃいかんだろうし」

「・・・たしかにそうですねぇ、そういや日本でも最近凄く増えてるらしいんですよ、ユダヤ人の移民者。

 なんでもユーラシアからどんどん逃げてるって話を年賀状の手紙にありましたよ」


スタンレイは唖然とした。

一体あの旧大陸は何がどうなってんだ、魔女狩りでもしてんのか?

彼は五芒星を信じる人々が収容所の煙になってるなんて話が、本当にそうだと思えるほど事態を悲観していなかった。

ほとんど全ての人がそうだった。


《続いては国際情勢のニュース。まずはドイツで以前から過熱化した予算争いによりシャハト大臣が辞職届を提出しました。

 ナチ党発足以来のスポンサーの離脱は事態をどう変化させるのか分かりません。》


ラジオが何処か他人事のように--実際他人事だが--報道する中、彼は会ってみるかと思った。


1939年1月30日、メーコン市内


メーコンの市内は更に広がり、より混雑しつつあるようだった。

アトランタから伸びてきた無秩序的な都市の乱雑さに飲み込まれつつあるこの街は最近地下鉄建設を拡張している。

そのため道路が普段の倍混雑していたので、スタンレイはバスより歩く事を即断した。


「あぁ、スタンレイさん!」


その若者が住んでいる安アパートはコンクリートの無機質な出来だった。

彼はスタンレイをみると嬉しげな顔をした、スタンレイの予想通り、彼にも恋人がいた。


「現状1人雇うのは可能なんだが、幾つか聞きたい事がある」

「はい?」

「君は多分私の予想通りならユダヤ人系の移民者だと思うが、コミュニティの方との連絡はあるのかな?知り合いがいるからツテにはなると思う」


すると、その若者は苦々しそうに言った。


「それが・・・」

「どうか、したかな」

「・・・最近旧大陸でユダヤ人狩り運動が激烈化したんですが、それ以前に既に逃げ出した富裕層連中と私みたいな慌てて逃げた人間で対立が」


人種間闘争の渦中で階級間闘争までしてんのか、暇なんだろうね、ユダヤ人の方って。

スタンレイは呆れた様な顔をした、若者曰く既にイギリスに逃げたユダヤ人の大半が富裕層と移民に職を奪われたくないイギリス人に追い出されたという。

フランスはナチス以前からの反ユダヤ急先鋒だから論外、バルカンも同様、スペインは現在も内戦中でソ連は全人種を虐待している。

そんな中で国家を持ってない人種同士が醜い階級間闘争までしている。


「なるほどなぁ・・・、将来の計画とかあるのかい?」

「金を貯めて、日本あたりに行こうかと」

「こりゃまた遠い旅になるね」

「彼処かここくらいしか市民権を得られませんよ・・・」


皮肉屋の笑みを浮かべて、その若者は言った。


「それに僕、学者だったんです。

 あっちならイギリスの技術も入るだろうし」

「学者だったの?!」


スタンレイは驚いて言った、全くそうは見えなかった。

若者は照れ臭げに笑って、写真を手に取ってスタンレイに見せた。

白衣を着た男たちが一堂に介しており、この若者もいる。


「原子物理学と核反応動力ってヤツを専攻してたんです、ハイゼンベルグ先生と」


スタンレイはこの若者を雇う事にした、彼は1940年9月には資金を貯めて、日本へ向かう船に乗って行った。

彼が次にスタンレイの事を知る時、この若者は"二号研究"の最中だった。

スタンレイはあの若者が去る事に少しの寂寥感を感じただけで、彼が具体的に何をしてるか全く分かってなかった。

専門分野になった学者の言葉を理解出来る人間はそう多くない。

スタンレイには「100キロぐらいの核物質の核反応よる反応動力で都市を一つ賄えるくらいの新エネルギー」はあまりに理解の外だった。


1939年4月19日、メーコン郊外の公園


連合国から白い雪景色がしっとりと消えて、桜が咲く季節が訪れた。

日本と連合国修好条約以来持ち込まれ、静かに広がる桜の木々はアメリカ連合国の自然に静かに馴染んでいる。

暖かくなったのもあって、スタンレイは妻と子供とゆっくり過ごす時間を作る事にしている。


「妻と子を連れてゆっくりお出かけか。平和ですね」


そんな様子を、呆れた様な感心した様な顔をした若い女性が言う。

顔は南米の血が入った褐色で、連合国でもそこそこ見ない類の人種だった。

彼女と、その同行者たる少し太った中年の白人男性は公務員だがただの公務員じゃなかった。

二人はCIA連合国情報庁のエージェントだ。


「平和で結構だ、我々くらいしか血を流さんで済む時代のが良い。

 制服の軍人さんに舞台の主役が移ると色々困る」


相方の男性エージェントの言葉に呆れた顔をして、女性エージェントは尋ねた。


「何で現役将軍じゃないのに監視対象なんです?」

「政治だよ政治、彼は望む望まぬを問わずして英雄になった、国家はそう言う献身な人間を守る義務があるのさ」

「つまり暗殺とかされると我々や政治家の方々に非難が及ぶので不審火に気をつけるって話です?」

「物分かりが良くなったな」


このクソデブ覚えてろよ。

女性エージェントが心にそう思う中で、男性エージェントはしみじみ呟いた。


「ここ3年は合衆国が動いていない、エージェントも静かだ、願わくば世界最後の日までこうあって欲しいね」

「世界最後の日まで分断国家として恥晒すのはそれもそれでダメだと思うんですけどねぇ」

「どっちも統一したところでろくな事にならんからこうなったんだろ」


そりゃそうだけど身も蓋もなさ過ぎるんじゃないですか?

そう思いながら、二人は仕事に取り組む事にした。


1939年4月22日、ギアナ高地ロライマ山


ISAF、即ち独立南米連邦は諸列強の干渉に屈しないことを目的としている。

そしてGEUの創設とソ連の拡張姿勢、日米の軍拡とイギリスの軍備再編は彼らの恐怖心を呼び起こすに、あまりに大きかった。

ISAFは軍部の強引とも言える統一を開始する、アルゼンチン・ブラジル・チリによるABC条約加盟国含め各国家軍を統合し統一司令部を組織化し出した。

さらにISAFは列強諸国の武力侵攻の恐怖に駆られ、絶望の砦を構築しようとしていた。


ギアナ高地ロライマ山地下鍾乳洞などを用いて要塞化、通常の砲爆撃で絶対に屈しない強度を誇る要塞。

所謂ジャブロー地下司令部、もしくはイントレランスと呼ばれる要塞の建設の開始である。

建設拡張工事完了が1979年に漸く完了したこの要塞は、ISAFの象徴として1978年建艦の戦略原潜<ドラゴネット>と並んで世界に認識される事となる。



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