003 出会い
川と木の実が たくさん自生しているエリアの 往復途中。
手にした果物を かじりながら 明智は歩いていた。
「なぜ俺はここにいるんだろう」
数日、森で生活して出た感想だ。
「聞けばよかったな……なんで 俺だけ特別 扱いなのか。」
不思議に思いながらも、川へと急、
「おっと、忘れてた。足が速くなる魔法をっと、」
体が淡い光に包まれる、初めは悶えるほど 興奮していた魔法も、今ではなれたものである。
「やっぱすげーなー魔法って」
速さはおおよそ 通常の10倍。あっという間に 川へとついた明智だが、いつも通り 水分補給をしようとした時、妙なものを見つけた。
河原に、元の世界では 見たこともないような 服装の人間が倒れていたのだ。
「だ、大丈夫ですか?!」
「……っ」
かすかに息がある。だが、全身擦り傷だらけで、顔にはドス黒いアザ がいくつも見受けられ、腕もあらぬ方向 に曲がっている。
医学に心得など なかった明智だが、本能的にまずい状態 であることはわかった。
すぐさま明智は、
「治れ!!」
と叫ぶ。
次の瞬間、女性の体が金色の光に包まれた。
「!?」
明智は一度 擦り傷を負った際に、こういった類の魔法を 使ったことがあったが、その時は 緑色の光で こんな神々しい光 は出なかった。
「な、なんだこれ?」
「あれ? さっきまで川で手を振ってる人が……」
「あ、目覚めましたか?」
光が消え去ると、すっかり傷も癒た様子。
その顔は若干幼く、濡れた桃色の髪が 妙に様になった 淑女であった。
「あぁ、痛みが全然ない。私は死んだのですね……あなたは、神様か何かですか?」
「いやいや、生きてますよ? とりあえず、これ食べます?」
小さくコクリと頷いて、明智の差し出した果物 を手に取ると、小さい口で 上品に 頬張りだした。
(河原で瀕死の女性と出会うなんて、なんてファンタジーなんだろう)
冷静になって 考えてみれば、明らかに どう考えてもおかしい出来事である。人が道端に倒れていて、しかもそれが 綺麗な女性で、さらに瀕死。
明智は この世界の治安に、若干の不安を覚えた。
「あの、よかったら なんでこんなところで 倒れていたのか 知りたいのですが……」
女神との対面で質問できなかった反省を活かし、明智はおどおどしながら 素直に聞いてみた。
「はい……」
女の名前はクリス。聖女だと言う。
聞けば、教会のプリーストに 濡れ衣を着せられ、国から追放されたこと。その道中、兵士に追われ、怪我をしたこと。そして、いく当てもなく 森に逃げ込んだが、川沿いを歩いていて 気を失ったこと。
など、聞けば聞くほど、明智の想像を絶するような話が、無数に出てきた。
(すごい話だ………でも、教会とか兵士とか が出てくるってことは、中世ヨーロッパ みたいな世界なのか? 俺も ここにきた経緯とか 話した方がいいかも しれないけど、多分 信じてもらえない から黙っておこう。)
と頷いて黙って聞いていると、話もひと段落したクリスは、パッと顔をあげた。
「ところで!! さっき使った魔法 はなんですか!? 一瞬にして瀕死の人間が 全開する魔法 なんて 聞いたことありませんよ!? しかも、その隠しきれていない魔力量、あなた何者ですか?!」
やけに 目を輝かせて言うクリスだが、
この世界にきて日も浅く、魔法のことなど「念じれば使える物」程度に 考えている明智には、困った質問だった。
だが、何か言うより先に、明智の背後から、心臓を貫くような咆哮が、二人の鼓膜を叩いた。
『グオオオオ!!!!!!』
黒い体毛、周囲の木々と同等の高さ、大木のように太い足、人の前腕ほどに伸びた鋭い爪。
巨大な『熊』が姿を表した。
「ファッドグリズリー?! 何故こんなとこに!?」
「なんですかそれは……?」
「知らないんですか!?」
明智が動物に出会ったのは これが初めてだ。
ファッドグリズリー。熊型の魔物 の最大種である。体長は 5メートル程度。鋭い爪に 長い牙 を持ち、1キロ先のコインの音 をも聞き取る聴力と、3キロ先の鉄の匂い すら嗅ぎ分ける嗅覚。そして、人間の5歳児程度 の知能を持った、特定危険魔獣 にも指定されている 魔物である。
「すいません、知らないです………こういう時は………と、とりあえず逃げましょう!」
明智は全力で走り出した。しかし、
「ま、待ってください!」
遠くから聞こえる声に 振り返ると、未だに 熊もクリスも同じ位置にいた。
いや、あまりにも明智が速すぎて、熊やクリスを置いてきてしまったのだ。
「どうして逃げないんですか!?」
「これでも 逃げてるつもり なんですが!?」
明智はきた道を引き返し、クリスと熊の間に割って入る。
「は、速っ………って、な、何をしてるのです!?」
熊は、手を振り下ろせば 届く距離 まで来ていた。もう明智が 攻撃する以外に、助かる選択肢はない。
しかし、勢いで出てきてしまったため、明智には特に策もなく、あまりの気迫に 腰も抜け 脚も震えていた。
(や、やばい……これがこの世界の『熊』!? 実際見るのは これが初めてだけど、何この迫力! このままじゃ 死んでしまう……!! いけるか? 動物には 火が有効だって 誰かが言ってた。火、火、いままで通り、念じるだけで 大丈夫なのか……?)
「火、火柱!!!」
覚悟を決め、明智は叫んだ。
「あ、あれ……?」
「あ、危ない!! 避けてください!!」
今までと同じように、しっかり念じた。しかし、その声が森に響くのみで、なんの変化もなかった。
目の前に、明智の体ほどの拳が迫る。
爪の先が、明智の鼻を 掠めようとした その瞬間!!
『ドゴオオオオオ!!!!!』
「「?!」」
巨大な火柱が、ファッドグリズリーを包み込んだ!
「「………え?」」
炎が収束した頃には、5メートル以上 もあった熊の体は、跡形もなく 消えていた。さらに驚くべきことに、熊を焼却するだけの熱量 を持ちながら、熊以外には 一切の影響 が及んでいないのである。
「アケチさん……」
低く、怯えたような声。明智は怖がられてしまったかと、恐る恐る 振り返った。
「い、いや、こ、これは………」
「私、プリーストに復讐しようと思ってるんです。」
「え?」
「決めました。あなたは今日から私の師匠です!」
「え?!」
「それと、住むところもないので、居候させてください!」
「あ、あぁ……はい。」
脳がついていかず、社畜時代の癖で、条件反射で 返事をしてしまった 明智だが、自分が家など 持っていなかったこと を思い出すのは、そう遅くはなかった。
テンセー社畜は聖女を拾う @サブまる @sabumaru
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