Page.4 『秘密。それは——』
学校の知られざる『秘密』に迫っている三人はこのことを元凶だと思われる橋本に問い詰めることを決意した。
放課後、将吾は帰る前に図書室へ向かった。
「この本なんですけど、いろいろ訳があって返せないんです。すいません」
この本には自分たちの名前やいろんな教師の秘密が事細かに載っており、事をあまり大きくはしたくなかった。司書の野口は笑顔ですぐに承諾した。帰宅後、将吾はその本を押し入れの奥にしまった。
——翌日、決行日の放課後。三人は橋本が放課後必ず屋上に行くという情報を得たので、いくつか証拠を手にして屋上で張ることにした。
数分後、屋上へと続く階段を登ってくる足音がした。三人は物陰に身を潜め、様子を窺う。すると、橋本は屋上に来るとすぐに空を眺めながらスーツの上着の内側から煙草を取り出し吸いだした。油断してるうちに三人は橋本の元へ出た。
「学校でタバコとか吸うなよな!」
「なんだお前たちこんなところで。早く帰りなさい」
早速楓が切り込む。
「先生ってこの学校の『秘密』って知ってますか?」
「秘密? いいや、知らないな」
楓の質問に対して知らないと答える橋本。
「あんた、学校の気に入らないことは全部自分の思い通りにしてんだろ?」
「校長先生とも繋がってるんですよね」
渉と将吾は判明している情報を直接問いただす。
「何を言ってるのかさっぱりわからんな。勉強のしすぎで頭おかしくなったか? それともゲームのしすぎでバカにでもなったか?」
あくまでしらを切る橋本に対し、証拠を次々と提示していく。
「この書き込みに、あなたの噂などがたくさん書かれています。あなたがこの学校に転任して来たのは三年前、これらの書き込みは二〇十七年。これ、橋本先生のことですよね?」
微かに橋本は動揺している様子を見せる。
「いや…あのなぁ、で、デタラメばかり言ってるんじゃないぞ!好き勝手言いやがって!」
「校長先生に証言を貰いました」
そう言って、将吾は携帯で録音していた音声を流した。その音声を聴くと同時に橋本は汗を流し、歯を食いしばりながら、目が泳いでいた。動揺が隠せていない様だ。
「こ、子供如きに、何ができる?まあいい。お前たち三人は俺の権力で退学だ!」
そう言い放ってその場を立ち去ろうとした時、屋上の扉が開いた。
「そういうことだったんですね、橋本先生」
そこに立っていたのは教頭だった。
「彼らの言うとおりでした。ここ最近校長の様子がおかしく、なのに特に何も聞かされていないので怪しいと思っていましたが、そういう事でしたか」
教頭はこのことを学会で発表すると言い、三人に小さく会釈をして戻っていこうとした。その時。
「このことは、生徒には公表しないであげてください。お願いします」
将吾は教頭に頭を下げた。
「なんでだよ、橋本は悪いやつなんだぞ?」
渉が聞くと、将吾は答えた。
「十分な償いにはなるだろうし、反省するなら生徒たちに言わなくてもいいんじゃない?どうせ騒ぎになるだけだから」
「わかったよ」
教頭は優しく微笑みその場を立ち去った。その後橋本は口を開いた。
「情けなんていらないのに……」
しかしなぜ、橋本はこのようなことをしたのかと問うと、橋本は答えた。
「何をやっても上手くいかなくて、いろんな職に務めたが、全てクビにされた。もう諦めかけていたそんなときだ。ココの校長が金を借りたいって言ってきたんだ。元々知り合いだったからな。俺にとっては都合が良かった。俺は借すかわりに職に就きたいと言ったんだ。そして俺はコネを使って学年主任になった。そして今までの鬱憤を晴らしたくてこの学校を自分の思うようにしようとしていた。支配欲に満たされたかった。俺はいつの間にか悪魔のようになっていたんだ……」
「悪魔……!」
橋本は自分の過去により、どこに行っても上手くいかなかった。だから自分が支配できる場所や居場所が欲しかったのだ。
「俺はもう今度こそ終わりだ。なにもかも失った俺はもう……」
渉はため息をついて橋本に言った。
「もう一度やり直してみればいいだろ、認められるまで。居場所が欲しい、職が欲しいって思ってんなら努力すりゃいい。そしたらいつかは報われるんだ、絶対に。……俺は信じてるぜ」
「頑張るか諦めるかは、あなた次第ですよ」
三人の言葉に涙を浮かべながら橋本は口を開く。
「……っ、まさかお前たちにそんなこと言われるなんてな。わかった、もう一度やってみるよ。険しい道のりでも」
将吾にはその一瞬だけ橋本が輝いているように見えた。三人は屋上を後にするとそのまま帰宅した。
——あれから数日後、彼らは普段の学校生活を送っていた。あの出来事は公表されていない。そしてそれ以来、橋本と校長を学校で見かけることはなかった。
そのことについて生徒たちの間ではいろんな噂がたっていた。
果たしてどうなったかのはわからない。だが、学校に光が少し戻ったような気がした。
「終わったんだよな…」
この学校で密かに行われていた出来事を知る者は少ない。そして、この出来事を共に走り抜けた者たちの絆は永遠に途切れないことだろう。もう一度新たに正しい道を歩み始めた者もいる。前よりも高い地位に成り上がった者もいる。
「あの三人、よくやってくれた……」
中にはそう語る者もいる。
この出来事を通していろんな者たちが変われたのだ。
『秘密』。それは知るべきもの。知らぬべきもの。
この世界には数多の秘密が存在しており、その多くは眠っている。これらを知るべきかどうかは一度考える必要がある。そのことをしかと心に刻んでおくと良い——
日野将吾の部屋の押し入れの片隅。収納されている一冊の本の後ろのページに文字が追加されていた。
『日野将吾の秘密』・『三山渉の秘密』・『津賀楓の秘密』
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