第38話 あらー、良く気付いたわね

 僕は5枚目を焼き上げて、それを菊枝垂さんのお母さんに手渡した。6枚目は自分用だけど、それを手に取ったのは手毬姉ちゃんだ。もちろん、菊枝垂さんが焼いた5枚目を目の前に置いて、それを菊枝垂さんのお母さんと並んで食べながら、あーだこーだ言ってる。いくら審判員の資格がないとはいえ、関係者ともいうべき二人なのだから、互いの焼いたお好み焼きがどうなっているのかは気にならないと言えば嘘になる。本気で意見を述べあってるのは僕にも分かる。

 そんな僕も菊枝垂さんも6枚目を焼き終えたから、火を消してホッと一息ついて、お茶に手を伸ばした。今日の勝負では飲み物の差による味の変化を防ぐため、わざと『おーい、お茶だ』のペットボトルのお茶しか用意していないのだ。その『おーい、お茶だ』のお茶をコップに移し替えて一気に飲み干した僕は、最初に菊枝垂さんが作った6枚目に手を伸ばした。でも、菊枝垂さんは僕が作ったお好み焼きではなく自分が作ったお好み焼きに手を伸ばしている。


 僕は菊枝垂さんが焼いたお好み焼きに入ってた物のうち、1つは『生海苔』だというのは匂いで気付いていた。2つ目は見た瞬間に気付いたけど『シラス』だ。生シラスとは思えないから『でシラス』なのは確実だろうけど、恐らく生シラスを今朝で上げた物だから新鮮な物を使ってるのは間違いない!他にも何か入ってるのは間違いないけど、1つだけではないはず・・・

「あのー・・・」

「ん?突羽根つくばね君、何か用?」

「僕、菊枝垂さんが焼いたお好み焼きのトッピングが『生海苔』と『シラス』なのは気付いたけど、他にも使ってるよね」

「あらー、良く気付いたわね」

 菊枝垂さんはニコニコ顔でそう言いながら、自分が焼いた6枚目のお好み焼きを口に含んだけど、明らかに自信に満ちた表情だ。

「・・・あと2つ、使ってるわよ」

「2つ?」

「そう、2つ。でも、実際には3つになるかなー」

「3つ?でも、1つはカニですよねえ」

「そうよー。1つ目は舞姫まいひめ港に水揚げされた、遠州灘えんしゅうなだの『タカアシガニ』よー」

「タカアシガニ!!」

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