第39話 五重奏(クインテット)

 僕は菊枝垂きくしだれさんが使った材料の名前を聞いて、思わず店中に響き渡るような大声を上げてしまったほどだ!まさか、お好み焼きにタカアシガニを使っていたとは夢にも思ってなかったからだ・・・

「・・・この辺りではタカアシガニの事をヘイケガニとも呼ぶけど、誰もが知ってる、世界最大のカニね」

「それは僕でも知ってますけど、よく手に入りましたねえ」

「そこはお爺ちゃんの伝手で、ね」

「はーーー・・・僕は3、4年前に懸賞で当たったタカアシガニのお鍋セットを一度だけ食べた事があるだけですよー。ホント、羨ましいくらいです」

「もう1つ、カニを使ってるわよ」

「もう1つ?もしかしてスッポンなの?」

「ノンノン!浜名湾で獲れる、幻のカニと言えば・・・」


 菊枝垂さんは右手の人差し指を立てて左右に『チッチッチッ』と振りながら、得意げな表情になって僕を見てるけど、浜名湾で獲れる幻のカニといえば

「まさかと思いますけど・・・ドウマンですか?」

「ぴんぽーん!その通り!!」

「マジですかあ!?」

 僕は再び絶叫してしまったけど、まさか高級食材のカニを、しかもホントにホントの幻のカニをお好み焼きに使ってるとは夢にも思わなかったから、思わず目を丸くしているし、それは隣にいた手毬てまり姉ちゃんも同じで、箸を動かしていた右手を止めて絶句しているほどだあ!

「以前はホントに幻のカニとまで言われてたドウマンだけど、最近は資源が回復傾向にあるわね。ドウマンは浜名湾が日本での最北限とまで呼ばれている希少種なのは、突羽根君は知ってた?」

「さすがの僕でもドウマンくらいは知ってますよ。あの大きなハサミが特徴的なドウマンは高級食材として知られてるけど、申し訳ないけど僕は本物のドーマンを見た事が無いし、当たり前だけど食べた事は一度も無いですよ」

「これもお爺ちゃんの伝手を使って手に入れたんだけど、ドウマンのプリプリした身だけじゃあなくてドウマンのカニ味噌も使ったのよー」

「うわっ!まさに高級食材の五重奏クインテットとしか言いようが無い!!」

「うーん、たしかに突羽根つくばね君の言う通り、浜名湾と遠州灘の旬の高級食材を揃えた、シーフードの五重奏クインテットともいうべきお好み焼きね」

「はーー・・・僕、食べるのが勿体ないと思えてきましたよお」

「そう言わずに食べてみてよー。勝負を抜きにして味わってみてね」

 はあああーーー・・・、これが勝負でなければ喉を鳴らしてでも食いつくのに、さすがに勝負が掛かってるとなると旬の物を味わって食べる、などという気分にはなれないです、はい。


「・・・おーい、そろそろ判定を公表してもいいかあ?」

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お姉ちゃんのお好み焼き 黒猫ポチ @kuroneko-pochi

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