第28話 普通に考えれば・・・

 いきなり店中に響き渡るような絶叫を紅華こうかさんが上げたから、母さんやみやび姉ちゃん、手毬てまり姉ちゃんまで僕と紅華さんに視線を集中させたほどだ。しかも、全員が紅華さんが言ってる意味が分かって一斉に騒ぎ出した!一番驚いてるのは紅華さんなのは間違いないけど。

「ちょ、ちょっとー、それってマジなの?」

「うん、ホント」

「だってさあ、同じ学年の姉と弟なのに双子じゃあないなら、普通に考えれば4月と3月生まれじゃあないの!?」

「それが違うんだよー。手毬姉ちゃんは6月15日だから・・・」

「たしかに6月15日なら双子ふたご座だけど、姉が双子座ふたござで弟が牡羊おひつじ座だったらさあ・・・」

 紅華さんはチラッと手毬姉ちゃんの方を見たけど、紅華さんが言いたいけど躊躇ためらっている言葉は僕にもよーく分かっている。だから雅姉ちゃんも手毬姉ちゃんも「はーー」とため息をついてるし、僕も「はーー」とため息をついた。

 そんな中、青葉あおばさんが『コホン』と軽く咳をしたかと思ったら

「・・・あのさあ、あたしは幼稚園が手毬ちゃんや陽光ひかる君と同じだったから言っておくけど、ホントのホントで手毬ちゃんが6月で陽光君が3月なのは間違いない。幼稚園はお誕生日会の行事があるからね」

「えーっ、それなら、ますます義理って事に・・・」

「そうならないんだよー」

 青葉さんは両手を広げながら『やれやれー』と言わんばかりの表情をしてるけど、たしかに青葉さんでなくても説明が面倒なのは事実だ。

 僕は再び「はーー」とため息をついた。

「あのね、僕はのお腹の中には8か月しか入ってないんだよー」

「へっ?」

「いわゆる早産だから、生まれた時は2000グラムを切ってたんだよ」

「まじ!?」

「そう。だから本当なら1学年差になる筈のところが、ギリギリで同学年という訳」

「あらー、それだから今でも背が低いって事なの?」

「悪かったですね!」

「あー、ゴメンゴメン。わたしはてっきり・・・」

「まあ、事情を知らない人から見たら、そうなるのは仕方ないですよ」

「はいはーい、そういう事情なら双子ふたご座の週末の運勢を見ましょうねー」

 紅華さんは納得顔でスマホをクリックして双子ふたご座の週末の運勢を見たけど・・・はあ!?双子ふたご座と牡羊おひつじ座は全く逆だあ!!

 えーと、土曜日は『日頃の鬱憤を晴らすかのような楽しい1日になるでしょう!』とか書いてあって2位だ!でも日曜日は最下位で『踏んだり蹴ったりの1日です。勝負は不戦敗です。勝ったと思っても、それは最強のライバル出現を意味する、まさに試練の始まりの日になります』とか書かれてる!

 どうも手毬姉ちゃんにとっては、まさに試練の日曜日になりそうです、はい。


 そのまま紅華さんはスマホをテーブルの上に置くと

「どうせ占いなどというのは『当たるも八卦はっけ当たらぬも八卦はっけ』だもんねー」

「そうですね、気休めにはなるでしょうけど、占いの結果に一喜一憂してたらどうしようもないですから」

「突羽根さんは占いを信じる方なの?」

「僕は参考にはしますけど、気休め程度にしか考えてないです」

「そうよねー。しかもテレビやアプリの占いも、片方では最高とか言っておきながら片方では最悪ですとか言ってる時もザラにあるから、どれが正しいのか分からないね」

「そういう事です。自分にとって一番いい占いを信じるだけで十分だと思います」

「そういう所はわたしと同じね」

 そう言うと紅華さんはニコニコ顔のままスマホをサッと前へ突き出した。つまり、僕に「スマホを出しなさいよ」と言ったのだと理解したから、僕もレジの横に置いてあったスマホを左手で取った。

 そのスマホを紅華さんは左手で受け取ると、器用に自分で操作して通信はアッサリ終った。そのまま紅華さん自身のスマホはブレザーに戻したけど、僕のスマホを僕に手渡しながら

「・・・うちは女ばかり3人だから、弟に憧れてるんだよねー。君は可愛いくて背も低いし、典型的な弟タイプだからストライクだよ」

「悪かったですね、どうせ僕は典型的な弟系ですよ、フン!」

「そうやって拗ねる所が弟だよねー。お姉さん、キュンと来ちゃうなー」

「あのー、紅華さんは妹ですよねえ」

「妹だけど姉だよー」

「はあ!?」

「わたし、こう見えても次女ですからあ」

「あれっ?女ばかり3人という事は、下にもう一人いるんですかあ?」

「そうだよー。中学2年だよー」

「あらあらー、という事は2学年違いで三姉妹って事ですよねえ」

「そうだよー。三姉妹の真ん中だから妹であって同時に姉だよ」

「たしかに間違ってないですね」

「だからあ、突羽根さんは弟に決定!」

「勝手に弟にしないで下さいよお。僕にだって都合というのがありますからー」

「でもさあ、君に突羽根先輩のカレシは勿体ないです!」

「あのねえ、みんな勝手に僕を雅姉ちゃんのカレシに仕立て上げてるけど、本気の本気で揶揄ってませんか?」

「そう思ってるところが弟系だよー」

「意味不明ですー」

「お姉ちゃんが言ってたけど、突羽根先輩、入学してから男子にコクられた数だけで言ったら両手両足を使っても全然足りない位だけど、今まで一度もOKした事が無いって有名だったんだよ」

「マジ!?初耳だよ」

「そんな突羽根先輩がニコニコ顔をして男の隣で肩を寄せ合って歩いてるから、お姉ちゃんのクラスの男子の半分以上がガッカリしてたけど、弟だと分かった途端、俄然やる気を出したって言ってたよー。『あんな奴よりオレの方が上だあ!』ってね」

「やる気を出すんじゃあなくて、早く僕を楽にしてくださいよお。朝から夜まで、僕だって結構苦労してるんですー」

「うーん、わたしもけど、ライバルが強力過ぎるから諦めてるよー」

「ライバル?」

「そう、ライバル」

「それって、誰?」

「手毬さん」

「手毬姉ちゃんを雅姉ちゃんのライバルに仕立て上げたら、それこそ家の中が戦場になります!お願いだから冗談はその位にして下さい!」

「やっぱり弟よねー」

「へっ?」

「女の子に強く出れないというか、こうやってイジラレていても、絶対にお姉さんの事を悪く言わない。そこが弟系の真骨頂とでも言おうか、ますますお姉さん、キュンと来ちゃうよねー」

「勘弁して下さいよお。僕だって早くカノジョが欲しいですー」

「申し訳ないけど、わたしも結構自信あると自分では思ってるけど、突羽根姉妹に勝てる自信は全然ないですよ。ただー、お姉さんの方は今年でいなくなるから、手毬さん一人になる来年はチャンスがあるかもしれない。わたしもそれまで待っていようか、それとも先に動くべきか、正直迷うなー」

「それって、本気で言ってるんですかあ?」

「本気で言ってるのか、それともリップサービスなのかの判断は君に任せるね」

「上手く逃げましたね」

「そうとも言えますねー」

 僕はニコニコ顔のままレジの横にスマホを戻したけど、その紅華さんを押しのけるかのように水色リボンの先輩がやってきて「2年1組の金剛山こんごうざんよ、ヨロシク!」と言いながらブレザーの内ポケットからスマホをサッと差し出した。僕もその意味を理解してレジの横に置いてあったスマホを再び左手で取った。


 僕の所にはソフトボール部の子が代わる代わるやってきて、そのたびにスマホを差し出されたから、僕は結果的に姉の大芝山おおしばやま先輩を含めて全員のアドレスと番号をスマホのメモリーに入れた格好になった。一番長く喋っていたのは紅華さんなのは認めるけど、後半は姉の特権(?)で紅華さんと自分の席を入れ替えて、青葉さん以上の熱血ぶり(?)を発揮して僕を相手に半分絶叫しながら喋ってました。ハッキリ言って超がつく程に面白い姉妹だという印象を持ちました、はい。


 1時間くらい居座っていた恰好だけど、もう8時近い。早晩山いつかやま先生が「そろそろ帰りなさいよー」と帰宅を促したから青葉さんや紅華さんを含め、全員が自分の皿に取った分を食べ終わった時点で帰った。

 早晩山先生は最後まで店内にいた青葉さんが帰った後も、カウンターに座ったままだった・・・


「・・・静香しずかちゃーん、この代金、静香ちゃんに請求してもいい?」

「叔母さーん、それだけは勘弁してよー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る