第34話 勝手に時効にしないで下さい!
「・・・おーっす、調子はどうだあ?」
「静香お姉ちゃんの辞書には『遠慮』とか『配慮』という言葉は無いんですかあ?」
「はあ!?あたしが国語教師だからと言って辞書を持ち歩くと思ってるのかあ?」
「言葉通りの反論をされたら押し問答ですー」
「あたしは
静香姉ちゃんはそう言ってソファーに座ってテレビを見てる手毬姉ちゃんの肩を豪快に叩いてるけど、こういう性格だから独身のままだというのをいい加減に自覚して欲しいと思ってるのは僕だけではない筈です、はい。
日曜日は『
必要な材料は既に
生ものはクーラーボックスに入れて保冷剤もちゃあんと入れた。生地だって『夢見草』オリジナルの生地だ。フライ返しやフタもお店の物を使うし、ドンブリやソース、かき粉や青海苔もお店で使ってる物を持って行く。唯一、普段と違うとすれば『
僕と雅姉ちゃん、手毬姉ちゃんは静香姉ちゃんが運転するワゴン車で9時半頃に出発した。静香姉ちゃんが持っている軽自動車では荷物を乗せる事が出来ないから、我が家のワゴン車のサードシートを倒し、そこにビニルシートや古毛布を敷いてから材料を乗せたのだ。1つの鞄も一緒に・・・
当たり前だけど運転席は静香姉ちゃんだ。僕は助手席で、2列目に雅姉ちゃんと手毬姉ちゃんが乗っている。
「・・・そう言えば
静香姉ちゃんが運転しながらニヤニヤしてるから、僕は静香姉ちゃんが言いたい事の意味が分かって、思わず「はーー」とため息をついてしまった。
「・・・勘弁して下さいよお。あれは殆どイジメですー」
「母さんも爆笑してたぞー。あたしも母さんの秘蔵とも言うべき写真を見て、久しぶりに床で笑い転げてたからなあ」
「勘弁してよー」
「そう言えば、あの写真を見て気付いたけど、陽光ちゃんはえーと、名前はド忘れしたけど髪の長さは別として
「うわっ!マジで勘弁して下さい!!昨日も『眼鏡を外したら激似だ』とか男子に言い寄られて散々な目にあったんですからあ」
「女装して外へ行く趣味が出来て良かったんじゃあないのか?」
「二度とやりません!」
「勿体ない!
「冗談じゃあありません!絶対に櫻山46のパフォーマンスは拒否です」
「
「ぜーったいに学校で言わないでください!学校でなくても言わないで下さい!」
「ま、それは冗談だけど、ソフトボール部の連中に強制できないと先に断っておく」
「多分、言わないとは思うけど、何かの拍子にバレたらマジで恥ずかしいから勘弁して欲しいですー」
「そう言いつつも無抵抗で女装したのは誰だあ?」
「無抵抗は語弊がありますー。押し切られたんですよ、お・し・き・ら・れ・た」
「昔を思い出したんじゃあないのかあ?」
「当たり前です!というか、一番先に僕に女の子の服を着させて喜んでたのは、当時は女子高生だった静香姉ちゃんじゃあないですかあ?」
「ノンノン、一番最初にやった時は女子中学生だ!」
「たいして変わらないです!」
「そんな事はないぞー。あたしは誰かさんがオモラシした時にパンツを代えてやった事もあるんだぞー」
「はーー、それを言われたらオシマイですー」
「というか、子供は成長が早いから、そのたびに新しい服を買ってたらお金がいくらあっても足りない。男の子の服は無いけど女の子の服は腐る程あったのは、陽光ちゃんでも分かる筈だぞ」
「そりゃあ僕でも分かります」
「たしかパンツトレーニングを始めるまでは男の子の服を着てなかったはずだ。だから陽光ちゃんの服を手毬ちゃんの服に着せ替えてたのは中学生の時だぞー」
「昔の事を聞くようですけど、楽しかったですかあ?」
「そりゃあそうだ。あの頃の陽光ちゃんは髪の毛を切るのを相当嫌がってたから、腰の辺りまで伸ばしてたんだぞ。幼稚園に入れる直前に大泣きしながら髪の毛を切ったのは、今でもハッキリ覚えてるからなあ」
「そこまでは僕は覚えてないけど、何しろ、9人いる婆ちゃんの孫の中で男は僕だけで最年少ですから、男の子の服を買うのが勿体なかったというのは想像できますよ」
「断っておくけど、あたしは女子高生になってからは一切やってないぞー」
「静香姉ちゃんが、雅姉ちゃんと手毬姉ちゃんに変な遊びを教えたと言っても過言ではないです!」
「あれー、そうだったかなあ」
「惚けないで下さい!」
「まあまあ、既に時効だ」
「勝手に時効にしないで下さい!」
静香姉ちゃんはニヤニヤ顔で運転しつつ、時々僕の顔を見て揶揄ってるけど、たしかに婆ちゃんの血筋は娘4人と孫娘8人で、唯一の男の孫が僕だけの形になってるのは認めざるを得ない。静香姉ちゃんは婆ちゃんから見たら長女の長女だけど、実は一番上の孫ではない。次女の
そんな事を言ってる間に『
そんな暖簾が出てないお店の入り口の扉を、静香姉ちゃんはゆっくりと開けた。
「・・・おはようございますー」
「「「あー、おはようございますー、お待ちしておりましたー」」」
静香姉ちゃんはニコッと微笑みながら挨拶したけど、当たり前だけど営業スマイルというか教師としての顔だ。
店の中には5人の人物がいたけど、全員が普通に挨拶した。70歳前後と思われる男性と女性、これは恐らく菊枝垂さんのお爺ちゃん・お婆ちゃんだろう。僕の母さんと同じくらいの年齢と思われる女性は恐らく菊枝垂さんのお母さんだ。この3人は静香姉ちゃんと代わる代わる挨拶しているけど、担任と保護者だから形式的な物だ。
残った2人は間違いなく
菊枝垂さんは静香姉ちゃんに軽く頭を下げたけど、静香姉ちゃんの隣に立った僕と目があった瞬間『あれっ?』という表情をしたのが僕にも分かった。
「君はたしか、ソフトボール部の練習を見に来ていた・・・」
そう言いながら2、3歩、菊枝垂さんは前へ踏み出したけど、僕はニコッとしながら軽く右手を上げた。
「どもー」
「
「勘弁して下さいよお、僕が手毬姉ちゃんのカレシである訳がないでしょー」
「手毬姉ちゃん?」
その言葉で菊枝垂さんは足を止めてしまった。
そのまま2、3秒、首を傾げながら考え込んでたけど、その表情が驚きの物に変わった!
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
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