第12話 あーん
そんなこんなで、僕が強引に(?)連れて来られたのが、
因みに『
この『挿頭草』は結構ネットでも上位に食い込んでるし、地元の雑誌で何度も『穴場の店』として紹介されてる程だから、知名度だけで言えば『
この店では全席掘り
その唯一の私服を着ている人物の蝦夷錦先輩が、僕の目の前で両手にフライ返しを持って焼いている。この店ではお好み焼きを焼くときに、フタを被せない。浜砂のお好み焼きは、お好み焼きを焼く時にフタを被せる・被せないについての決まり事はないから、この店では被せないというだけだ。その場合、熱を使って表面を蒸す事は出来ないけど、水気が飛ぶからカリカリになる。フタを被せないから焼くのに多少時間がかかるけど、こういう所は個人の好みであり同時に店の考えなのだから、いい・悪いを僕の視点で判断するのはやめておきます、はい。
「・・・はあい、お待たせー」
蝦夷錦先輩はお好み焼きを皿に移すと、テーブルに備え付けの缶からトングで刻み海苔をパラパラとかけて僕の前にサッと置いた。その様子は、まるで海苔がダンスしているというか、踊っているようにも見える。お好み焼きから上がる蒸気に煽られる形で海苔が揺れてるのだが、こういうのを真剣に見ていると逆に笑えてくる。
これぞお好み焼きの醍醐味!
「
「ちょ、ちょっと
「ノンノン!折角お姉ちゃんが食べさせてあげるって言ってるのに、拒否は認めませーん!」
「勘弁してよー」
僕は右側に座った雅姉ちゃんが強引に食べさせようとするから頑張って抵抗してるけど、蝦夷錦先輩だけでなく小彼岸先輩も白普賢先輩もゲラゲラ笑ってる。僕は真面目に困ってるけど、ふざけているようにしか見られてないのか、それとも微笑ましい(?)1コマに見られてるか、そこは全然分からないけど恥ずかしいの極みです!雅姉ちゃんは恥ずかしくないのかよ!!
それにさあ、調子に乗ってるのか白普賢先輩も僕の左側から箸を出してくるし、対面の小彼岸先輩まで右手を伸ばしているから、恥ずかしい事この上ないです!しかも蝦夷錦先輩まで「あのさあ、折角女の子が食べさせてあげるって言ってるんだから、素直に従うべきだよー」とか言ってニコニコ笑ってるから、僕は不承不承だけど雅姉ちゃんたちの好きにさせた。蝦夷錦先輩は2枚目を焼いてるけど、焼いてる合間に右手のフライ返しを箸に持ち替えてお好み焼きを突き出してくるから、殆ど代わる代わる食べさせてもらってるに等しいです。通路からは丸見えだから、他のお客さんたちが僕たちの事を白い目で見てるのが丸分かりです!雅姉ちゃんも先輩たちも何を考えてるんですかあ!!!
蝦夷錦先輩が焼いた2枚目は、店のメニュー表には書かれていない浜名湾の
結局、僕が解放されたのは午後6時過ぎ。なんだかんだで2時間以上も『
帰り道では約束通り(?)雅姉ちゃんが無理矢理僕をセブンシックスに連れていっただけでなく、レジの横にあるカフェの前で右手をサッと差し出した。雅姉ちゃんは当然の如くニコニコ顔だったから、雅姉ちゃんの御機嫌を損ねるのは良くないと思って、僕は黙ってカフェを2つ買って、そのうちの1つを手渡した。
「サンクス!」
結局、雅姉ちゃんがセブンシックスで声を発したのは、たったこれだけで、最初から最後までニコニコ顔のまま店を出ました、はい。僕は雅姉ちゃんが楽しんでるのを邪魔するのは良くないと思って、最後までニコニコ顔のまま通しましたけど、内心では超がつく程に長ーいため息をついてました・・・
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