第11話 女神様の御神託よお

「・・・以上で部・同好会合同説明会を終わりまーす」


 みやび姉ちゃんが高らかに部・同好会合同説明会の終了を宣言したけど、僕とアーリー、手毬てまり姉ちゃん、青葉あおばさんの4人は説明会をやった体育館の後ろでまだコソコソと喋っていた。既に多くの1年生が立ち上がったし、生徒会執行部の人やバレー部、バスケ部の先輩たちが椅子やシートの片付けをしているから騒々しくなっていて、誰も僕たちの事を気にしていない。

「・・・菊枝垂きくしだれ 朱雀すざくかあ」

「でも、湾西わんさい市立わし中学出身だよ。苗字は違うけど名前の漢字が同じで読みも同じ・・・」

「湾西から浜砂の高校へ通ってる子はそれなりにいるけど、MY高マイコーのような中途半端な学校へ進学する子は殆どいないと言っても過言じゃないわよー」

「親が再婚したから苗字が変わったとか・・・」

「その線はゼロじゃあないけど、ラブコメ小説にありがちなパターンがリアルであると思う?」

「誰かわし中学出身の子がいないかなあ」

 青葉さんと手毬姉ちゃんはそう言って僕とアーリーの顔を見たけど、僕は即座に横に振ったし、アーリーは肩を窄めながら両手を軽く開いた。

「・・・無理だと思うぞー。わし中学は殆ど愛知県との県境だし湾西市でも一番北だ。バスと東海道線の電車を乗り継いでMY高マイコーまで来る物好きはバカ以外の何者でもないぞー。しかも関東や関西の有名私立高校からスカウトが来てた程の子なんだろ?普通に考えたら絶対に別人だ。親の都合で西区あたりに引っ越した、湾西市立わし中学出身の菊枝垂さんという女の子だと考えるのが自然だぜ」

「蚤の脳みその半分の福禄寿ふくろくじゅでも分かってるんだから、やっぱり同じ中学出身の別人なのかなあ」

「フン!俺が蚤の脳みその半分だったら、高台寺こうだいじはアメーバだ」

「あたしの頭脳には過去に対戦した全ての学校の選手がインプットされている!誰かさんとは大違いだと言っておく!」

「社会と英語で3年間追試を受けまくった高台寺に言われると片腹痛いぞー」

「そ、それはトップシークレットという事で出来れば忘れて欲し・・・」


「・・・あー、いたいた!」


 僕たち4人は後ろからドデカイ声がしたから話を中断して振り向いたけど、そこには雅姉ちゃんが立っていた!しかも同じく緑リボンの3年生と水色リボンの2年生2人と一緒だあ!3年生は赤いフレームの眼鏡をかけている先輩で、2年生の一人は背が低くて少し脱色気味の髪をポニーテールにしている先輩で、もう一人は黒縁の眼鏡をかけた先輩だ。でも初対面だから名前は全然分からないですー。

「み、みやび姉ちゃん!片付けはしなくてもいいのかよ!?」

「大丈夫だよー。もう殆ど終わってるからあ」

「どこがですか!まだ半分くらいの椅子が出てます!」

「だーかーら、ここから先はバスケ部とバレー部の仕事でーす」

「はあ!?」

「それよりようちゃん!約束通り、愛好会のメンバーを全員連れてきたわよ!」

「へっ?」

 僕は雅姉ちゃんの言ってる意味が全然分からないし、それは手毬姉ちゃんや青葉さん、アーリーも同じだから一斉に首を傾げてしまった。

 でも・・・その3人の先輩たち、目が輝いてるとしか思えないぞ!

「ズバリ!陽ちゃんは『B級グルメ愛好会』5人目のメンバーです!」

「「「「はあ!?」」」」

 雅姉ちゃんが高らかに宣言したけど、マジで言ってる意味が分かりませーん!手毬姉ちゃんたちも僕と一斉にハモッてしまったくらいだ!

「・・・陽ちゃんさあ、何も考え込む事はないんだよー」

「だってさあ、全然意味不明だからー」

「大丈夫大丈夫!毬ちゃんは早晩山いつかやま先生と大芝山おおしばやまさんが押さえてるから、お姉ちゃんが免責特権を与えました」

「免責特権の意味が全然分かりませーん!だいたい、手毬姉ちゃんだって首を傾げてるぞ!」

「だーかーら、毬ちゃんとウチ、それに蝦夷錦えぞにしきさんと小彼岸こひがんさん、白普賢しろふげんさんの5人は共通点がありまーす!」

「「「「共通点?」」」」

 僕たちは再びハモッてしまったけど、雅姉ちゃんが言ってる意味がマジで分からないから4人の顔を見合わせてしまった。

 でも、アーリーが両手を『ポン!』と叩いて納得顔になった。

「・・・あくまで俺の想像だけど、愛好会の名前が『B級グルメ愛好会』で、手毬さんと雅先輩の家は『夢見草ゆめみぐさ』。つまり、この人たちの共通点は『家がお好み屋』ですよね」

 アーリーが自信満々に言った瞬間、雅姉ちゃんが「せいかーい」と言ってアーリーの頭をナデナデしたけど、アーリーの奴、幼稚園児並みに喜んでるのはアホじゃあないか?青葉さんが軽蔑のまなこで見てたのに気付いてないのかよー。

 そのアーリーを無視する形で緑リボンの先輩は僕に右手をサッと差し出した。

「は、はじめまして、3年1組の蝦夷錦です」

 そう言うとニコッとしたから、僕も右手をサッと差し出して互いの手を握ったけど、その蝦夷錦先輩を払いのけるようにしてポニーテールの先輩が右手をサッと差し出した。

「2年1組の小彼岸です!これからもヨロシクね!!」

 小彼岸先輩は鼻息も荒く右手を差し出したから、僕も思わず笑いそうになったくらいだ。さすがに失礼だと思って普通に右手を差し出したけど、その小彼岸先輩を突き飛ばすようにして黒縁眼鏡の先輩が右手を差し出した!

「わ、わたしが2年6組の白普賢です!ほ、本当に突羽根つくばね先輩の弟さんですよね!!」

「そ、そうですけど・・・」

「ひゃっほーーー!!!」

 白普賢先輩は握手もそこそこに両手を突き上げてガッツポーズしているから、僕は思わず『ぽかーん』と口を開けてしまったし、それは手毬姉ちゃんたちも同じだった。でも、よーく見たら蝦夷錦先輩と小彼岸先輩は両手を合わせてニコニコしているし、白普賢先輩は殆ど絶叫マシーンのようになって「やったー!」とか言ってるし、何を考えてるのか全然分かりませーん!

「・・・という訳だから、陽ちゃんはB級グルメ愛好会の特別会員として認定するからねー」

 雅姉ちゃんはそれだけ言うと僕の右腕を両手で掴んで、そのまま僕を引っ張っていくぞ。あれっ?あれあれっ?

「ちょ、ちょっと雅姉ちゃん!僕をどうするつもりですかあ!!」

「ん?この後は『挿頭草かざしぐさ』に行くからあ」

「はあ!?」

「だーかーら、蝦夷錦さんの店で陽ちゃんの歓迎お好み焼きパーティだよー」

「僕は何も聞いてないです!」

「だってー、今日になって決まったばかりだからあ」

「だいたい、蝦夷錦先輩の店ってどこにあるんですかあ?電車で浜砂まで行くとか言ったら僕はマジで拒否です!」

「大丈夫大丈夫!陽春ようしゅん小学校のすぐ近くよー、橋を渡ったらアッサリ着くからあ」

「勘弁して下さい!」

「ノンノン!お姉ちゃんは県立浜砂舞姫まいひめ高校生徒会長!お姉ちゃんの言葉は女神様の御神託よお」

「まさかとは思うけど、説明会が終わった後に4人だけで相談して決めたんですかあ?」

「ノンノン!昼休みに決めました」

「だいたい、雅姉ちゃんは生徒会長の仕事があるでしょ!こんな事をしていてもいいんですかあ!?」

「大丈夫大丈夫!この先にある仕事の大半はMY高祭マイコーさいの事だから、後は実行委員長の副会長、麒麟きりん君の出番よお」

「生徒会長が副会長に丸投げですかあ?」

「丸投げじゃあないわよー、ちゃあんと麒麟君のOKは貰ってるからあ」

「それってパワハラです!いや、典型的な丸投げそのものです」

「ノンノン!お姉ちゃんは県立浜砂舞姫高校生徒会長!お姉ちゃんの言葉は女神様の御神託よお」

「同じ事を2回も言わない下さい」

「2回も神託を与えるなんて、これこそ女神様の奇跡です!」

「超わがままな女神様の御神託ですー」

「陽ちゃん、何か言った?」

「い、いえ、単なる寝言ですー」

「なら決まりね」

 雅姉ちゃんは僕を抱えてズルズルと引きずるようにして引っ張って行くし、蝦夷錦先輩と小彼岸先輩、白普賢先輩も僕の背中を押していくから、僕は殆ど抵抗できないまま体育館から連れ出されてしまった。

 手毬姉ちゃんたちがコメカミをピクピクさせながら無理矢理笑顔を作って僕に手を振ってたのがアリアリと分かったくらいなのに、雅姉ちゃんはニコニコ顔で完全に無視してました・・・

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