第24話 絶望的じゃあないのかあ?

「・・・おーいヨッコー、大丈夫なのかあ?」

手毬てまり姉ちゃんの歩き方を見れば、アーリーでも分かるんじゃあないのか?」

「俺としてはハズレて欲しかったんだけどー」

「ネコえもんの秘密道具『暗記トースト』が無いと無理だと思うよ」

「ヨッコー、『暗記トースト』はテスト対策で書いてある文字や数字を食べて覚える秘密道具だから、体現する物は覚えられないぞー」

「あれっ?そうだった?」

「そんな物よりも『もしかしたらボックス』で『手毬さんがお好み焼きの天才だったら』をお願いするか、『能力DVD』を使った方がいいんじゃあないのかあ?」

「あー、ナルホドナルホド」

「でもさあ、そういう話をするくらいだから『負けるかもレベル』じゃあなくて、ほとんど『絶望的レベル』じゃあないのかあ?」

「僕は半分以上、諦めてるよー」

「弟のくせに姉を見捨てるのかあ?」

「見捨てる気はないけど、手毬姉ちゃんの料理スキルが絶望的なくらいに無いんです!」

「まじ!?」

「こんな時に嘘を言ってどうするー?証拠が欲しければ普賢象ふげんぞう先輩に聞いてみれば?」

「いや、聞くと逆に悲しくなりそうだから・・・」

「その方がアーリーの為だ・・・」


 次の日の金曜日、つまり今朝、手毬姉ちゃんはみやび姉ちゃんに叩き起こされる形で何と5時!から頑張ったけど、全く上達する気配が見られない。材料は昨日の余り物を使ったけど、今朝の僕だけでなく婆ちゃんや母さん、雅姉ちゃんの朝ご飯は想像できると思うけど、大量の失敗作の、お好み焼き食べ放題(?)だ。

 焦げてない部分や、生焼けのお好み焼きの二度焼きだから、店でお客さんに提供したら「バカヤロー!」「ふざけるな!」と言って席を立って帰ってしまう程の味なのは誰もが分かるはずだ。それを今朝も、ついでに言えば昨夜も食べさせられた僕の気持ちも分かって下さーい!!

 当たり前だが、一番沢山食べた(食べさせられたの間違い?)は手毬姉ちゃんである・・・


 手毬姉ちゃんは一番後ろで青葉あおばさんと並んで歩いてるけど、青葉さんが心配するくらいにへこんでるから、青葉さんも笑って誤魔化すしかないほどだ。

 因みに青葉さんはKUMAのスポーツバッグを持ってるけど、手毬姉ちゃんは今日はかばん以外には持ってない。大芝山おおしばやま先輩がソフトボールよりもお好み焼きの練習をするよう厳命(?)しているから、スポーツバッグを持って行く必要が無いのだ。

「・・・ところでアーリー、昨日はセブンシックスでを飲んだのかあ?」

 僕はニヤニヤしながらアーリーに尋ねたけど、そのアーリーは首を横に振った。

「いんや、来週に延期」

「はあ!?」

「俺は昨日のうちに飲まされるのを覚悟してたけど、高台寺こうだいじの奴が『練習の邪魔だからサッサと帰れ!』とか言うから、ヨッコーが帰って10分くらいで追い出された」

「あらまあ」

「俺としては死刑執行の日を強制的に延期された気分だから、正直、真綿で首をゆっくり絞めつけられるように胃がキリキリしてる」

「僕はセブンシックスのの方がまだマシだぞー。昨夜も今朝も、焦げたお好み焼きか生焼きを二度焼きした物しか口にしてないぞー」

「俺は手毬さんの作ったお好み焼きなら、本気で全部食べてもいいから、お前にセブンシックスのを飲む権利を譲ってやる!」

「だ、そうですよー。青葉さんならどうするー?」

 僕もアーリーもニヤニヤしながら青葉さんに視線を合わせたけど、その青葉さんは「はーー」とため息をついている。

「・・・ホント、福禄寿ふくろくじゅ陽光ひかる君も呑気でいいねえ」

「そんな事は無いぞ!俺は本気の本気で手毬さんのお好み焼きを食べたいだけだあ!」

「あたしとしては大和錦やまとにしき、あー、いや菊枝垂きくしだれの長打力は魅力だから是非ともソフトボール部に入って欲しいのはヤマヤマだよー。多少のブランクはあるけど、中学生であれだけの長打力を持った人はいなかった筈だ。ある意味、ダイヤモンドの原石だけど、それをお好み焼きの調理人にしておくのは勿体ない。代われる物なら、あたしが手毬ちゃんの代わりにお好み焼きを焼きたいよー」

「高台寺が作ったお好み焼きは犬も食わないだろうな」

「フン!福禄寿に手毬ちゃんの作ったお好み焼きを食べさせるのは、マジで食料の無駄遣い以外の何物でもない。お前には道端の雑草で十分だ!」

「俺は山羊ヤギじゃあねえぞ!!」

「お前はキャベツの葉を食べまくるアオムシか、トマトの汁を吸いまくるカメムシと同レベルの存在だあ!」

「うっせー!小学3年の理科のテストで『アオムシ』を漢字で『緑虫』と書いた高台寺に言われたくねえ!」

「そ、それはトップシークレットという事で・・・」

「お前さあ、トップシークレットが10や20で済まないだろ?」

「そ、それもトップシークレットという事で・・・・」

「あのさあ、それ、俺以外のクラスメイトとかソフトボール部の子の前で堂々と言える?」

「さ、さあ。で、でもさあ、あたしは可愛いから許されると思ってるよー」

「へえー、可愛いって得だねえ」

「そ、そうだ!可愛い子の特権だ!」

「そう言ってる割に額に脂汗をかいてる理由を俺は知りたいなあ」

「そ、それは・・・」

 はーー、ホント、この二人、10年たっても全然変わってないぞ。青葉さんも平気で大ボケしてくれるから、話題の提供に事欠かないよなー。

 でも・・・僕も雅姉ちゃんも笑いを堪えるのに必死だけど・・・手毬姉ちゃんは『上の空』とでも言おうか、全く話を聞いてないとしか思えず「はーー」と何度目か分からないくらい、ため息をついてました・・・


 そんな手毬姉ちゃんのため息は昼休みになっても変わらなかった・・・


 手毬姉ちゃんは、今日も放課後は大芝山おおしばやま先輩の特別な計らい(?)でソフトボール部の練習は免除である。ショートホームルーム終了と同時に真っ直ぐ帰った。

 ただ・・・想像できると思うけど、雅姉ちゃんは生徒会長としての仕事がある。というより、相当サボっているとしか思えないぞ!

 そんな訳で、今日の手毬姉ちゃんの先生役は僕である。母さんでもいいんだろうけど、手毬姉ちゃんが母さんから教わるのを嫌がっているから、その役目が僕に回って来たんでしょうけど・・・


 僕はショートホームルームが終わったら真っ直ぐに帰りたかったのだが、少々足止めを喰らった格好だ。なぜなら、クラスの男子全員によるに無理矢理付き合わされたからだ。というか、隣の8組の男子も半分くらい混じってたから、青葉さんや神代じんだいさんといった女子の大半が白い目で僕たちを見てました・・・

 手毬姉ちゃんからは「早く帰って来い!」という催促メールが入ってきたけど、ようやくが終わって解放されたばかりだ。


 そんな僕は生徒用昇降口で大慌てで靴を履き替えたが・・・


「・・・あらっ?君はたしか昨日、ソフトボール部の・・・」

 履き替えた直後に左から声を掛けられたから、僕は左を向いたけど、そこに立っていたのは・・・菊枝垂さんだった。

「あー、どうも」

「君は今日もソフトボール部の練習を見に行くの?」

 菊枝垂さんはニコッと微笑みながら僕の横に並ぶ格好になったから、そのまま僕と菊枝垂さんは外に出た。

「・・・今日は行かないですよ」

「という事は、やっぱり女子テニス部?」

「それも違います!」

「ははーん、という事は早くもカノジョが出来たの?それって誰?ソフトボール部の子?それとも同じクラスの子?」


 勘弁して下さいよお、菊枝垂さんは何を考えてるんですかあ?

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