第19話 入部テストという名目で・・・
雅姉ちゃんが来た時、
「・・・頼むからやらせてくれ!」
「いくら何でも無理よ!部長の
「それでは、わたしの気持ちの整理が出来ない!」
「そこは私にも分かるけど、それって、明らかに私的な勝負事よ。校則違反でも何でもない!」
「それも分かっている!だけど、そこをお願い!」
「そんな事を言われてもー」
手毬姉ちゃんはため息混じりにボヤいてるけど、大芝山先輩だけでなく雅姉ちゃんも普賢象先輩も、手毬姉ちゃんと菊枝垂れさんの口論に割り込む事が出来ず、沈黙したままだ。いや、雅姉ちゃんは菊枝垂さんが大和錦さんだと気付いている以上、余計に割り込む事を
「・・・ちょっとー、何をこんなところで口論してるのか、詳しく説明しなさーい」
いきなり輪の外から甲高い声がしたから、僕だけでなく手毬姉ちゃんや菊枝垂さん、雅姉ちゃんたちも声がした方を見たけど・・・はあ!?あれは
大芝山先輩たちは早晩山先生に道を空けた恰好だけど、早晩山先生は腰に手を当てて「はーー」と短くため息をついた。
「・・・とーにーかーく、
早晩山先生は二人を宥めるようにして話し始めたから、仕方ない、といった感じで手毬姉ちゃんが話し始めた。
「・・・簡単に言えば、この場で勝負をしろ!って事ですよ」
「勝負?先生には意味がよく分からないから、もうちょっと詳しく説明して下さい」
「私がピッチャー、菊枝垂さんがバッターで、実戦さながらの勝負をしたいから認めて欲しいって事ですよ。それも1アウト満塁という局面でね」
「はあああーーー・・・先生は今の一言で全部理解できましたよ」
それだけ言うと早晩山先生は、右手を額に当てながら再び「はあああーーー」と長ーいため息をつながら俯いてしまったけど、僕にはこの態度で、早晩山先生は菊枝垂さんが大和錦さんだというのを知っていたけど黙っていた事に気付いた。恐らく雅姉ちゃんや手毬姉ちゃんも気付いたはずだ。
顔を上げた早晩山先生は菊枝垂さんの方を見たけど、その目は何かを語りかけるかのような目だと思ったのは僕だけだろうか・・・
「・・・菊枝垂さんは、それで納得できるの?」
「100%納得できるかどうかは分かりません。あれからバットを握ってないですから。でも、どうしても気持ちの整理が出来ないでいたのは事実です。それを無理矢理押し込めていたけど、今朝の一件で耐えられなくなった、というのが正しいです。お願いですから認めて下さい!」
そう言うと菊枝垂さんは早晩山先生に深々と頭を下げたけど、ハッキリ言って早晩山先生も迷惑顔だ。私的な勝負事は
早晩山先生は4度目のため息を「はあああーーー」とついたけど、『ウンウン』とばかりに首を2、3回、縦に振った。
「・・・そこまで言うなら、入部テストという名目で認めます」
「ホントですか!」
「ピッチャーは突羽根さん、キャッチャーは
「ありがとうございます!」
「それより菊枝垂さん、体育のジャージか何かあるの?」
「今日は体育の授業がなかったから持ってないです。体育の
「好きにしなさい」
「ありがとうございます!」
菊枝垂さんは歓喜の表情で校舎の方へ向かって走って行ったけど、その菊枝垂さんを見た早晩山先生は5度目の「はあああーーー」というため息をついた。
そのまま顔を上げたけど、その時の早晩山先生はさっきまでの眉間に皺を寄せた表情ではなかった。その表情をあえて言うならば・・・鬼だ。
「・・・とーにーかーく、これは入部テストです!だからと言って、ふざけた気持ちでやったら折角の入部希望者が逃げて行きます!やるからには本気を出せ!!そうでないなら今すぐソフトボール部を去れ!!!」
早晩山先生のあまりの豹変ぶりに、大芝山先輩たちも沈黙してしまった。強豪校、浜砂市立高校を率いていた『鬼の早晩山』の顔を見せたからだ・・・
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