第16話 神様は罰を与えた
そんな僕たちは
僕たちは正門から生徒用昇降口に向かっているけど、その時、自転車置き場から数人の女子生徒が固まって歩いてくるのが目に入った。特にグループとは思えない態度だからホントに偶然の集団だろうけど、唯一の1年生の顔を見た瞬間、僕たち5人の足はピタッと止まった。
「あれは・・・」
「
「まさかとは思うけど、高台寺はここでやるのかあ?」
「あったり前だ!『鉄は熱いうちに打て!』に決まってる」
「おー、格言を間違えなかったのは褒めてやる」
「あたしは誰かさんと問答している時間が惜しい!」
そう言うと
当たり前だけど、その1年生は青葉さんと手毬姉ちゃんがいきなり前に立った形だから、ビックリした表情で二人を見ている。いや、鞄とスポーツバッグを拾った僕だけでなく、雅姉ちゃんもアーリーも緊張した面持ちで3人を見ているし、周囲にいた他の生徒たちは「何があったんだあ?」と言わんばかりの表情で遠くから見てる。
「・・・あのー、わたしに何か用でしょうか?」
その1年生女子は恐る恐るといった表情で手毬姉ちゃんたちに尋ねたけど、何となくぎこちない口調に思えたのは僕だけだろうか・・・
手毬姉ちゃんは「やめようよー」と青葉さんに言ってるのが僕の所にも聞こえてくるけど、青葉さんは手毬姉ちゃんをあえて無視して
「・・・1年5組の
「そ、そうですけど、それで、何かか御用でしょうか?」
「単刀直入に聞く!
青葉さんは菊枝垂さんを真っ直ぐに見ているけど、手毬姉ちゃんは今でも青葉さんの腕を引っ張って「やめようよー」と言ってる。その菊枝垂さんだけど、ジッと青葉さんの目を見たまま沈黙している。
しばし、時間が止まったかのような静寂が3人の間を支配してたけど、菊枝垂さんが「はーー」と短くため息をついたかと思ったら、ゆっくりと唇を動かした。
「仮にわたしが大和錦朱雀さんだったとして、何を言いたいのですか?」
「あたしが言いたいのはただ1つ!一緒にソフトボールをやろう!」
それだけ言うと青葉さんは黙って右手を出した。手毬姉ちゃんは黙って菊枝垂さんを見ているし、僕たちも黙って菊枝垂さんを見ている。
やがて菊枝垂さんは「はーー」と軽くため息をついたかと思ったら歩き出した。
「正直に言いますが別人ですよ。たしかにわたしは大和錦さんと同じ名前で漢字も同じなのは認めますけど、わたしを
菊枝垂さんは顔を上げて歩いているが、明らかに視線は青葉さんや手毬姉ちゃんを見てない。いや、意識して視線を合わせないようにしていると思うのは僕だけだろうか・・・
菊枝垂さんが青葉さんの横を無視するかのように通り抜けようとした時、青葉さんは菊枝垂さんの右腕を右手でガシッ!とばかりに掴んだ!
「放して下さい!」
「・・・故意にやった、と言ったらどうする?」
「!!!!!」
青葉さんは冷たい目のまま菊枝垂さんに言ったが、その一言で菊枝垂さんが固まった。いや、僕の目には動揺しているようにしか見えない!
青葉さんは菊枝垂さんをジッと見てるが、菊枝垂さんは視線を合わせる事なく前を見たままだ。
「・・・全国中学校ソフトボール大会の県予選準決勝、
青葉さんは怒鳴るかのように菊枝垂さんに言ってるが、それでも菊枝垂さんは青葉さんに視線を合わせない。いや、明らかにブルブルと震えているのが僕の目からもハッキリ分かるほどだ。
「あたしのサインに手毬ちゃんは4度も首を横に振った。そりゃあそうだ、あたしは初球にブラッシュボールを要求したからだ。下手をしたら
青葉さんはそこまで言うと菊枝垂さんの手を放してジッと見ているし、手毬姉ちゃんも菊枝垂さんを見つめている。僕たちも黙って菊枝垂さんを見ている。
菊枝垂さんはブルブルと体を震わせているが、それでも青葉さんや手毬姉ちゃんに視線を合わせようとしない。そんな菊枝垂さんが、ゆっくりと震える唇を動かし始めた。
「・・・大和錦さんは怒ってなかったですよ」
「・・・どうして分かるんですか?」
「・・・そりゃあそうでしょ?だって、鷲の尾中学は5番の
「「「「「 ・・・・・ 」」」」」
「7回表もアッサリ3番、4番が凡退し、ランナー無しで突羽根さんの第3打席の時、1球目から舞姫中学だけでなく周りの観客からもブーイングが起きた。3打席連続のストレートの
「右手首の具合はどうなんですか?」
「大丈夫ですよ、1か月ほどでギブスを外しましたから。もっとも、あの第3打席が中学で最後の打席になりましたけどね」
「そうですか・・・」
「大和錦さんは突羽根さんが故意にぶつけたとは思ってないですよ。あの直後、突羽根さんは顔を真っ青にして茫然としていたし、誠心誠意、謝っていたのは本人が一番分かってましたから」
「あの件に関しては、サインを出した
「大和錦さんは舞姫中学のバッテリーを恨んでないです。卑怯な勝負を吹っ掛けたのは鷲の尾中学の方ですから。大和錦さんはあの時以来、勝つ事を強いられるのが嫌になったと口癖のように言ってたのは知ってます。もっとも、大和錦さんは家庭の事情でソフトボールをする気はないみたいですよ」
それだけ言うと菊枝垂さんは黙って歩き出した。顔は正面を見据えたまま、決して青葉さんや手毬姉ちゃんを見る事なく・・・
青葉さんは菊枝垂さんを止める事もなく黙って見ていた。手毬姉ちゃんは最後まで一言も喋る事なく菊枝垂さんを黙って見ていた・・・
この菊枝垂さんの態度で、僕も菊枝垂さん
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