第15話 50万分の1

 今日の僕たちの並びは昨日と違って、先頭がアーリーなのは変わらないけど、真ん中に手毬てまり姉ちゃんと青葉あおばさん、僕とみやび姉ちゃんは後ろだ。僕たち1年生4人は学校指定のスポーツバッグも持ってるけど、授業初日から体育の授業があるからだ。手毬姉ちゃんと青葉さんはもう1つのスポーツバッグも持てるけど、こっちにはソフトボール部の練習で使うジャージやシューズとかが入れてある。

 昨日との最大の違いは手毬姉ちゃんと青葉さん、アーリーの熱の入れようだ。

「・・・高台寺こうだいじは、大和錦やまとにしきさんイコール菊枝垂きくしだれさんだと確信してるのか?」

「当たり前よ!誰がなんと言っても、あれは大和錦 朱雀すざくよ!」

「俺は別人の方に賭けるけどなー」

「ほー、それじゃあ、何か賭ける?」

「別人だったら俺にセブンシックスのカフェを奢れ!」

「はあ!?お子ちゃまの福禄寿ふくろくじゅにはWcDワクドナルドのハピネスセットがお似合いよ!」

「誰がお子ちゃまだあ!WcDのコーヒーにスティックシュガーを5本とミルクを2個入れないと飲めない高台寺に言われたくない!」

「それは中2の時の話!今は4本だ!これこそ、あたしが大人になったという最大の証拠だあ!!」

「高台寺さあ、普通は4本も入れたら甘ったるくて飲めないというのを自覚しろ」

「へっ?」

 青葉さんは間抜けな返事をしたけど、僕だけでなく雅姉ちゃんも手毬姉ちゃんも笑いを堪えるのに必死だし、アーリーに至っては超真面目な顔で「はーー」とため息をついてるほどだ。

 青葉さんは顔を真っ赤にしながら「コホン」と空咳をして

「い、いいだろう。もし菊枝垂さんが別人だったら、ミルク1つとスティックシュガー1本で飲んでやる」

「本当かあ?」

「雅先輩の前で1本と言ったからには1本!女に二言はなーい!」

「はいはい、期待してますよ」

「その代わり、本当に大和錦だったら福禄寿が4本で飲め!」

「はあ!?それじゃあコーヒー牛乳だぞ!」

「ウルサイ!それなら賭けは無効だあ!」

「わーかった。本人だったら俺が4本、別人だったら高台寺が1本で飲む、それでいいな?」

「正確にはミルク2つとスティックシュガー4本だ!忘れるな!!」

「そっちこそ、別人だったらミルク1つとスティックシュガー1本で飲め!」

「結構だ!」

 青葉さんは口では相当強気な事を言ってるけど、明らかに肩を落としてショボンとなってるよなあ。反対にアーリーはニヤニヤしながら口笛を吹いてるくらいだ。

 まあ、たしかに二人の気持ちが分からない事もない。全国にいる高校1年生の数はおおよそ100万人だから女子は50万人くらい。青葉さんは50万分の1しか勝つ可能性がないのだ。しかも青葉さんは殆どムキになって本人説を主張している。手毬姉ちゃんは別人説のアーリーを支持しているし、僕だって50万分の1に賭けるようなアホな事はしません。


 そんな50万分の1の為に、コーヒーを飲むと大見えを切ったのだから・・・


「・・・と、とにかく、賭けウンヌンは別として、菊枝垂さんが大和錦かどうかを確認する必要があーるのであーります」

「まあ、そこは俺も止める気はないけど、仮に菊枝垂さんイコール大和錦さんだったとして、本当に高台寺はソフトボール部に入れるつもりなのかよ?」

「当たり前です。あたしが軽音楽部を諦めたというのに、大和錦がノホホンと他の部に入るのは絶対に阻止する!これは当然の権利よ」

「本人の意思に反して生徒を強引に加入させる行為は校則で禁止されている。これが発覚したらソフトボール部は最悪活動停止だぞ」

「うっ・・・」

「下手をしたら高台寺は停学処分だ。入学早々に停学処分を受けたいなら、俺は止めないぞ」

「そ、それは・・・」

 アーリーの鋭い指摘に、青葉さんはさっき以上に小さくなってしまったのは言うまでもなかった・・・

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