第7話 お騒がせな人たち

 みやび姉ちゃんが手毬てまり姉ちゃんを突き飛ばすようにして叩き起こしたから、最初は手毬姉ちゃんもブーブー言ってたけど、目覚まし時計を目の前に突き出されたから手毬姉ちゃんも飛び起きて、そのまま大慌てで朝ご飯を食べて身支度した。さすがに手毬姉ちゃんは雅姉ちゃんのように髪の手入れに時間がかかる事はなくアッサリ終わったから、7時半にはリビングでテレビを見ていた。

「・・・ったくー、よう君が起こさないのがいけないんだよー」

「勘弁して下さいよお、どうして僕が手毬姉ちゃんを起こさないといけないんですか?」

「だいたい、隣の部屋で目覚まし時計が鳴っていたら『あっ!』とか思わなーい?」

「僕は今日は目覚まし時計よりも早く起きました!」

「まじ!?明日は宇宙人の地球侵略?それとも核戦争勃発で人類滅亡?」

「そんなに僕が起きたのが事件なんですかあ!」

「うん!」

「アッサリ肯定する前に、自分が目覚まし時計で起きなかった事を反省して下さい!」

「はんせいします」

「全然感情が入ってないです!」

「とーにーかーく、明日は私が目覚まし時計で起きなかったら起こして頂戴!いいわね!!」

「その前に目覚まし時計で起きるクセを付けたら?」

「陽君、何か言った?」

「い、いえ、独り言です・・・」

 はあああーーー・・・ホント、雅姉ちゃんは僕を起こしたくて異常な程に早起きするし、手毬姉ちゃんは僕が起こさないと怒るし、この姉妹、僕を何だと思ってるんだあ?

 ま、そんな事を考えていても始まらない・・・


 時刻は7時半を少し過ぎた。


 MY中マイチューだったら既に家を出てないと間に合わない時刻ではあるが、MY高マイコーは距離だけで言えば半分にも満たないから、僕も手毬姉ちゃんもまだテレビを見ている。雅姉ちゃんは3年目だから別に何とも思ってない。

 でも、さすがにそろそろ出る時間だ。


♪ピンポーン♪


 そんな時、我が家の玄関の呼び鈴が鳴ったから、僕たち3人は思わず顔を見合わせてしまった。

「・・・あれっ?」

「朝からお客さん?」

「回覧板?」

「そうかも」

「陽君、悪いけど出てー」

「はいはい、というより僕が行くのが当たり前なんでしょ?」

「当然だよー。だってー、婆ちゃんも母さんも仕込み作業やってるからー」

「男なら文句を言わずに行きなさーい。もしかしたらお小遣いが貰えるかもね」

「僕は幼稚園児ですかあ?」

「陽ちゃんはお姉ちゃんから見たら永遠の幼稚園児だよー」

「私から見ても画才は今でも幼稚園児並みだよ」

 はーー、こういう時に弟は苦労します。ホント、姉というのは羨ましい立場ですー。

 

 僕は立ち上がってモニターを見たけど・・・はあ!?どうしてここにいるんだあ!


 僕は慌てて玄関の扉を開けたけど、そこにはMY高マイコーの制服を着て、胸元には赤色リボンのボーイッシュな女の子がニコニコ顔で立っていた!

「おっはよー!」

「というか青葉あおばさん!どうしてここにいるんですかあ?」

「ん?陽光ひかる君と登校したいから」

「はあ!?」

 おい!冗談だろ!!絶対夢に決まってる!!!

 僕は恐らく顔が真っ赤になってアタフタしてたと思うけど、そんな僕を見て青葉さんは爆笑しているし、後ろからは雅姉ちゃんと手毬姉ちゃんが大笑いしている声が聞こえる!!絶対に手毬姉ちゃんが青葉さんと示し合わせて仕掛けたイタズラとしか思えないぞ!!!

「青葉さーん、冗談キツイですー」

「あれー?もしかして陽光君は『あたしと二人きりで』と思ってたのお?」

「そ、それは・・・」


 僕は恐らく顔が真っ赤になってたと思うけど、言われなくても青葉さんがズバリ指摘した通り「青葉さんと二人きりで登校しよう」と誘われたと思い込んでいましたあ!

「・・・その顔はビンゴねー」

「はーーー・・・認めます」

「勘違いにも程があるわよー」

「正直に言うけど、僕は本気の本気でマジ告白かと思っちゃいましたあ」

「あたしもけど、あたしが本気だったら雅先輩に殺されますー」

「あー、たしかにー」

 僕はそう言って後ろを振り向いたし、青葉さんもそれに合わせて雅姉ちゃんに視線を移したけど、それでも雅姉ちゃんは手毬姉ちゃんと共に涙を流しながらお腹を抱えて笑い転げていた。

「・・・青葉さーん、舞姫まいひめ港の前からだから、絶対に自転車でしょ!?」

「あらー、陽光君の辞書には『自転車通学の子は学校へ直接行かなければならない』と書かれてるの?」

「そんな事はないですけどー、まさかと思うけど、ここに自転車を置いて歩いて行くつもりですかあ?」

「別にいいでしょ?ここなら絶対に自転車を取られる心配もないし」

「た、たしかにそうだけど・・・」

「ここから学校へは歩いてもタカが知れている。MY中マイチューの時は手毬ちゃんがあたしのうちへ来てたけど、その逆のパターンね」

「はいはい、だから手毬姉ちゃんがまだ学校へ行かなかったんだ」

「そーいう事。自転車通学登録は出しておくから、それで解決!」

 はーー、ホント、お騒がせな人たちですねえ、はい。


「「「「行ってきまーす」」」」


 僕と雅姉ちゃん、手毬姉ちゃん、それと青葉さんは揃って我が家の玄関を出たけど、僕と雅姉ちゃんが並んで歩き、その後ろを手毬姉ちゃんと青葉さんが並んで歩いている。

「・・・雅姉ちゃんも生徒会長なら早めの登校をしなくてもいいのかよ!?」

 僕は思わず隣でニコニコ顔で歩く雅姉ちゃんに悪態をついたけど、雅姉ちゃんは全然気にしてない。

「べっつにー。生徒会長だからといって、今朝のに加わらなければならない、という規則はありませーん」

「だからと言ってさあ」

「ノンノン!ウチは県立浜砂舞姫はますなまいひめ高校生徒会長よ!ウチの言ってる事に間違いはありませーん!」

「はいはい、分かりました、分かりましたよ」

 はーー、ホント、お気楽な生徒会長ですねえ。


“・・・おーい!”


 いきなり後ろから僕たちを呼び止める声がしたけど・・・あれっ?アーリー?

 そのアーリーは肩で息をしてゼーゼーしながら僕たちの前で止まったけど、青葉さんは腰に左手を当てて明らかに不満顔だ。

「ちょ、ちょっと勘弁してよー。まさかとは思うけど、福禄寿ふくろくじゅがあたしらと一緒に登校?絶対に何かの間違いでしょ?」

「それはこっちのセリフだぞー。俺がヨッコーのうちのベルを鳴らしたらお婆ちゃんが出てきて『さっき行ったよ』とか言うから、大慌てで追いかけてきただけだ!でもさあ、まさか高台寺こうだいじまでいるとは思わなかったぞ!」

「ははーん、あんたさあ、陽光君を口実に、ホントは手毬ちゃんと一緒に行く気だったんでしょ?」

「はあ!?それは高台寺の思い過ごしだあ!俺は単純に一直線に松並木を歩いてきたヨッコーのうちのベルを鳴らしただけだあ!」

「たしかに福禄寿が言ってる言葉に間違いはないけど、別に東海道を真っすぐ進む必要はなかったと思うけどー」

「別にいいだろ!どこを曲がるかは俺の自由だ!!」

「はいはい、そういう事に

 青葉さんは「はーー」とため息をついているけど、そんな青葉さんを見て僕も雅姉ちゃんも笑っているし、手毬姉ちゃんも青葉さんの肩をポンポンと叩きながら笑っているほどだ。

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