第4話 ノンノン!別にいいでしょ?
僕の家は5人家族だ。
僕の母さんの母さんの
えっ?どうして昨日は僕がいた?どうして雅姉ちゃんがお好み焼きを焼いていた?おかしい?
あー、それはですねえ、僕は小遣い稼ぎで中学1年生の時から鉄板の前に立っているからです。今月1日からは小遣いからバイト代に昇格して、県の最低賃金と同額になったから余計に張り切っちゃいましたけどね。手毬姉ちゃんは一度も店に出た事はないけど、雅姉ちゃんは気が向いた時とか、ホントの意味で小遣いが欲しいときは店に出てる。けど、3年前から土曜日の大半は僕が『夢見草』のお好み焼きを焼いていると言っても過言ではないのだあ!
それはさておき・・・
新2年生、新3年生の始業式は昨日であり、今日は入学式だ。
当然だけど保護者として母さんは出席するから、今日の店番は婆ちゃんと
でも・・・我が家には新1年生が2人もいるのだ!
「おーい、いくわよー」
「「はーい」」
僕は母さんの声で顔を上げてリモコンでテレビを消した。
でも、僕も手毬姉ちゃんもテレビを見ていたのではない。僕はリビングにあるソファーで大胆にも横になってスマホを、手毬姉ちゃんは同じくリビングのテーブルに腰かけてMINTENDOのBUTTONをやってたからテレビを観てた訳ではない。その2人が母さんの声でムクッとばかりに顔を上げたのだ。
そう、我が家の新1年生とは僕と手毬姉ちゃんなのだ!
僕が着ているのは県立
手毬姉ちゃんは女子だからネイビーブルーのブレザーは僕とほぼ同じだけど細かい所は同じブレザーでも男女で違いがある。ただ、スカートは女子は薄いグレーだし、スクールシャツではなく薄い桜色のブラウスで、しかも胸元はネクタイと同じ配色のリボンである。実はブレザーと男子のネクタイのデザインは当初と変わったけど、女子のリボンだけは変わってない!
えっ?どうして知ってる?お前の母は別の高校だろ?
あー、それはですねえ、母さんたち四姉妹のうち、母さんと
そんな
まさに潮風と共に歩んだ
父さんが
「・・・よおー、オレは3組だぜー」
「オレは6組かあ」
「わたしは4組よ」
そんな声が僕の耳にも聞こえてくる中、頑張って探した結果が7組だった。
まさか7組だとは思ってなかったから、1組から見ていて結構頑張って探して見付けた格好で正直疲れた。手毬姉ちゃんがアッサリ1組に名前があったから僕が1組でないのは直ぐに気付いたけど、まさか7組だとは・・・
その7組の受付を担当していたのは緑リボン、つまり3年生の女子生徒だった。
でも・・・この3年生、僕は誰なのか知っている!というか、何故生徒会長なのに中途半端な位置の7組を担当してるんだあ!?とツッコミたかったけど、そこは黙っておこう。
一応、1組の手毬姉ちゃんが先に母さんと一緒に受付を済ませたけど、1組の担当は水色ネクタイ、つまり2年生の男子生徒だった。手毬姉ちゃんはアッサリ受付を済ませると一人でサッと階段を上って1年1組へ向かったけど、母さんは僕の受付があるから7組の列の最後方に並び直した恰好だ。
母さんも他人面してショルダーバッグの中から入学許可証が入った封筒と幾つかの書類が入った封筒の2つを3年生の女子生徒に渡したけど、その女子生徒はニコッと微笑むと
「おはようございます、浜砂舞姫高校に御入学おめでとうございます!」
とまあ、いつもとは別人の営業スマイル全開で封筒を開けて中身をチェックして、そのまま自分の足元にあった大きな茶封筒を両手で持った。
「1年7組は正面の階段を上がって奥から2番目の教室になります。入学式は体育館で行われますが、校内放送があるまでは体育館に入れないのでご注意下さい」
そう言って3年生の女子生徒は母さんに茶封筒を渡した。でも、その3年生は母さんが茶封筒を受け取った時に、僕に右手を軽く上げて手を振ったけどね。
その2階の廊下はというと、完全にママさんたちの無法地帯(!)になっていたけど、そこをかき分けるようにして7組に入った僕の視界に入ってきたのは、見知った顔が2つだった。というか、昨日も会っている2人だ。
「・・・勘弁してくれよなあ、またヨッコーと同じクラスとはさあ」
「・・・あたしは
そう、僕の左側の席、15番が
廊下の無法地帯(!)の騒めきは教室内にも響いていたけど、校内放送で体育館の入場が始まったというアナウンスと共に静かになったし、僕たち1年7組の生徒も、クラス担任である
当たり前だけど超がつく程退屈な時間を過ごしたのは間違いない。
ただ・・・僕は超がつく程に緊張した時間があった。それは・・・在校生代表挨拶、つまり生徒会長の挨拶だ。
その生徒会長は入学式の議事進行役である教頭先生の呼び出しの声に合わせて「はい!」という元気な声で先生方の座っている席の一番後ろから立ち上がった。そのまま背筋をピンと伸ばして体育館のステージに向かって歩いていったけど、その歩いている姿を見た1年生から感嘆とため息という相反する2つの反応があったのは僕にも分かった。いや、恐らく手毬姉ちゃんも絶対に気付いていた筈だ。
しかも、その生徒会長は代表挨拶をしている間、視線が僕の方をずうっと見ていたのは分かっていた。僕は意識して視線を外していたけど、チラッと視線を生徒会長に戻すと僕を見ている事が分かったから再び視線を外し、を何度繰り返した事か分からないくらいだった。絶対に意識していたとしか思えない!
入学式が終わって記念撮影を済ませた後は、再び1年7組の教室に戻って高砂先生のショートホームルームだけど、明日のスケジュールについての簡単な説明と、7組の後ろと窓際、壁際に立ち並ぶ(!)ママさんたちへの簡単な挨拶でアッサリ終った。
僕はショートホームルームを終えて7組を出たけど、想像つくと思うけど『令和〇年度 県立浜砂舞姫高等学校入学式』という体育館前に掲げられた看板には、大勢の生徒とママさんたちが列を作っていた。本来なら正門前に掲げられるのだろうけど、正門前の県道は片側1車線しかない上に歩道が狭いから、ここに置くとカメラの三脚を立てる場所が確保できず路上に立つ事になるのは僕にも分かるから、父さんの入学式の時も体育館前で撮った写真が残っているのは知っている。入学式前に済ませた人もいるけど、人数が半端なく多い事と開門時間の関係で入学式後という人の方が圧倒的に多い!
そんな僕と手毬姉ちゃん、それと母さんは体育館前で待っている。それは『どうしても一緒に写真を撮る!』と言い張る3年生が母さんの説得を押し切ったからだ。
その3年生とは・・・
「・・・ゴメンゴメーン、遅くなっちゃいましたあ」
「はーー、自分から指定しておいて待たせるとは姉失格じゃあないのー?」
「体育館の片付けをやってたんだから勘弁してよー」
「こういう時だけ自己弁護するのは勘弁してよー」
手毬姉ちゃんは両手を腰に当てながらブーブー言ってるけど、僕は笑うしか無かった。逆に3年生は右手を振りながらニコニコしている。
そう、3年生とは雅姉ちゃんの事だ!しかも体育館前で並んでいた1年生やその保護者は、雅姉ちゃんをどこで見たのかに気付いたとしか思えない反応だ!
騒めきと熱視線を浴びながらも雅姉ちゃんは堂々(?)してるのは立派の一言だ。そんな雅姉ちゃんは列に割り込む形になったけど僕たちは既に一度、列を並び直しているから、時間を無駄に使ったのと同じだ。でも、時間にして2分くらい来るのが遅かったら再び並び直しになるところだった。
僕たちの前にいたのは女子生徒とその母親だったけど、母さんがスマホを受け取って代理で母娘の写真を撮ってあげたから、次は僕たちの番だ。
でも、3人もいるから結構大変だ。
最初に手毬姉ちゃんが一人で撮って、その次に僕が一人で撮ったけど、その写真を撮り終わった直後、雅姉ちゃんがサッと僕の隣に並んだ。えっ?え、ええっ?
「ちょ、ちょっと雅姉ちゃん!あっち側じゃあないのかよ!?」
「ノンノン!別にいいでしょ?」
「でもさあ」
「文句言わなーい。お姉ちゃんの言う事は絶対よー」
「はいはい、分かりました、分かりましたよ」
はーーー、雅姉ちゃんは一度言ったら
母さんは自分のスマホを両手で持ってニコニコしながら
「・・・いくわよー、はいチーズ!」
母さんはそう言って右手でサッと画面にタッチしたけど、そのタッチする直前、雅姉ちゃんが僕の右腕をサッと左腕で組んで左肩を僕に押し付けてきたのはワザとですかあ?
でも、手毬姉ちゃんがコメカミをピクピクさせながら僕の方に向かってくるのは気のせいじゃあないと思うんだけどお・・・
その手毬姉ちゃんは雅姉ちゃんに「どきな!」と一言、言ったかと思ったら、雅姉ちゃんと同じく僕の隣に立った。えっ?え、ええっ?どういう事?
「あれっ?手毬姉ちゃんもここでいいの?」
「べっつにー。立て看板を挟んで立たなければならない、などという決まりはないわよ」
「そりゃあそうだけど・・・」
「なら、イチイチ文句を言わない!」
手毬姉ちゃんはちょっと怖い顔をしながら僕に言ってるから、僕も「はいはい、分かりましたよ」と言って普通に立った。手毬姉ちゃんは相変わらずだけどクールな目で母さんの方を見ている。
母さんは再び自分のスマホを両手で持ってニコニコしながら
「・・・いくわよー、はいチーズ!」
母さんはそう言って右手をサッと画面にタッチしたけど、そのタッチする直前、手毬姉ちゃんが雅姉ちゃんと同じく僕の右腕をサッと左腕で組んで左肩を僕に押し付けてきた!おい、マジかよ!?
僕は思わず手毬姉ちゃんの顔を見てしまったけど、その手毬姉ちゃんはツン!として顔を背けている。しかも雅姉ちゃんに「
でも、何を思ったのか雅姉ちゃんは僕の左に立って、そのまま僕の左腕を自分の右腕で組んだかと思ったら、そのまま左手を高々と上げながら母さんに向かって
「母さーん、早く撮ってー!」
そう言いつつ、僕を無理矢理自分の方へ引っ張るから、僕は左側に本当に倒れるかと思った程だ。でも、その僕の右腕をガシッ!と掴んだ人がいた。それは・・・手毬姉ちゃんだ!そのまま手毬姉ちゃんも僕の右腕を自分の左腕で掴むと、右手を高々と振りながら母さんに向かって「早く早く!」とか叫んでる。しかも手毬姉ちゃんも雅姉ちゃんもニコニコ顔だあ!
母さんも再び自分のスマホを両手で持ってニコニコしながらスマホの画面を何度かタッチしたけど、何を思ったのか母さんは後ろにいたママさんに自分のスマホを手渡すと、一目散に僕たちのところへ駆けてきて、そのまま僕の後ろに立ったかと思ったら僕の後ろから首に両手を回してでガシッ!とばかりに組んで、しかも僕の右肩の上から顔を出してニコニコしてるじゃあありませんかあ!
母さんのスマホを持ったママさんも笑いながらスマホの画面に何度もタッチしてるし、周囲にいた他の生徒やママさんたちからも笑われるし、ホント、この3人、何を考えてるのか全然わかりませーん!
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