4. ふたつの月

 中3の頃。

 ガッツリ厨二病だったわたしはオカルトや陰謀論も大好物で、当時少年マガジンに掲載されていたMMRの愛読者だった。

 予言や人類滅亡のようなスケールの大きい話よりも、突然UFOに攫われて謎の傷痕が残るという話の方が、自分にとっては身近なものに思えて怖かったのを覚えている。


 ある夜の自室。

 寝ようとしていたわたしは、雨戸を閉めるのをすっかり忘れていた事を思い出した。

 だいぶ目が悪いので普段はメガネをかけているが、慣れた作業なので裸眼のまま窓へと向かう。


 最後に西側の窓を開け、雨戸が入っている戸袋に手をかけた。

 外はやけに明るく、隣の家々の間からまるくて大きな月がぼんやり見える。


 満月だったのか。ずいぶん大きいな。メガネかければ良かったかな。

 そう思った瞬間、西の空に見慣れた大きさの丸い光が見えた。


 あれ?

 あっちが月だな。

 じゃあ、この大きな光は何だ?


 よく見ると、光が浮かんでいるのは空ではない。

 隣の家の窓ガラスに反射している。

 うちの家と、隣の家の間。5メートルほどの空間に浮かんでいる。


 わたしは雨戸を乱暴に閉め、窓の鍵をかけて転げるように布団にもぐりこんだ。

 脳裏に浮かんだのは、先日読んだMMR。キャトル・ミューティレーションの話だった。

 UFOだったらどうしよう、わたしも攫われるかもしれない。

 恐怖のあまり声も出せず、そのまま一晩中震えていた。


 その窓はそのまま、十年以上後に引っ越すまで一度も開けることはなかった。

 あの時もしメガネをかけていたら、わたしは一体なにを見たのだろう。


―終―

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