第6話 魔法検査

 刻魔法タレントを調べるといって俺が連れてこられたのは、魔王城の外の広い平地(おそらく魔王城の庭)だった。

「調べてくれる人を呼ぶから、少し待っていてくれ」

 そう言い残して、ララリアは魔王城の中に戻っていった。このようにして生まれたのが、初対面のへルドラとリチアと取り残されるという、非常に気まずい空間だった。しかし、よく考えればララリアも初対面なのである。であるならばララリアが居ても居なくても変わらないハズだ!そう、別に全然気まずくなんかないのだッ!

「なあ、勇者様――――――――――――――――」

 そう思っていた時に話しかけてきてくれたのはへルドラだった。非常にありがたい。

「なんだ?へルドラ」

「俺と対戦しないか?」

「え?」

「対戦だよ。バトル」

 いや、言葉の意味はわかる。しかし何故?なぜ今なのだ⁉この男、まさか脳筋か?絶対今じゃなくていいよね。それに俺まだ全然自分の能力分かってないから即死もありえるでございますですよね⁉

「まあ、今はこれから検査だし、とりあえず終わってから考えようか」

 俺は極めて優しく断った。ま、まあしょうがないよね、これから検査なんだもん。


「いや、それは違うぜ」

「?」

「戦いの中でしか分からないものもあるッ!そう思うよなリチア?」

「あっ…はい…」

 リチアはこくんと頷いた。……かわいい。


 ……マジかよ。俺死ぬじゃん。



 へルドラが黒く光り輝いた。そして闇に包まれていく。

 見ているだけなら神秘的で非常に美しいが、これからあれと戦闘をするとなると話が変わってくる。

 俺はあの時の力をもう一度出せるだろうか。


 そうして。


 闇の中から出てきたのは。


 竜だった。黒い、黒い、竜。いわゆるドラゴンって感じの。

 死という名前を冠するに相応しいような、圧倒的絶望感の塊だった。


「いやまあ分かってたよ分かってましたよ。へルドラだとか死の獄の竜だとか聞いてなんとなく察しはついてましたよ⁉でもやっぱり予想通りそんなヤバそうな竜に変身するのね⁉」


 へルドラが、咆哮と共に口から闇を吐いた。


 ……闇を吐くってなんだよ。


「集中しろ。マジで。死ぬぞ」

 自分にそう言い聞かせ、集中する。

 さっきの力。それを出せばいいだけだ。

 命の危機という意味では変わらない。仮にさっきのが、刻魔法タレントでなくただの火事場の馬鹿力だったとしても、きっと今ならいけるはずだ。下手すりゃさっきより命の危機だもん。


 ああ。

 力が漲ってきた。


 闇の叩くべき場所がわかる。闇を叩くって、自分でも何言ってるかわからないけれど、そう感じるのだ。


 こちらに向かってくる闇を、殴った。


 闇が粉々に割れて消えた。吹き飛んだとかでなく、正真正銘割れた。


「グォォォォォォォォォォォォォォ‼」

 へルドラが、喜んでいるのか悔しがっているのか楽しんでるのかよくわからない雄たけびをあげた。


 この調子なら、今回も死なずにこの場を乗り越えられる。よっしゃ、やってやるぜ!


 上空に。へルドラの付近に魔法陣が現れた。

 そこから、巨大な拳が現れ、豪速でこちらに突っ込んできた。


「マジか」

 必死で左にダッシュして避けた。そして顔を上げるとへルドラがいない。


「どこだ」

 振り向くと、へルドラが空中で竜から人に戻り、拳を振りかぶって落ちてきていた。……あの人頭おかしいって。


「おらああああっ!」

 そう叫んで、落ちながら突っ込んでくる。竜の時と大して言っていること変わんないじゃん、と思いつつ、後ろに下がって避けた。

 ドオオオン、という爆音と共に、ヘルドラが地面に着地する。地面が落とした皿みたいにバラバラに割れた。


 そこでようやくララリアと検査員がやってきた。


「おい」


 何やら、ララリアが睨んできているが、俺のせいではない。と思う。


 ……でも怖いので、へルドラと一緒に謝った。



「私は魔術検査官のカナンです。よろしくお願いします。それでは早速、クロニスさんの刻魔法タレントを見ていきますね」

 頭に二本の角が生えた女性の検査官が丁寧にそう言った。身長は俺やララリアよりも少し低い。リチア位かな。そして、サラサラの黒髪が腰くらいまであってとても長い。

 彼女は、持ってきていた鞄から赤い粉の入った袋を取り出し、地面に撒き始めた。


 しばらく眺めていると、素人の俺にもわかるような図形が見えてきた。

「……魔法陣か」

「はい、刻魔法タレントを調べるためのものです。もうすぐ終わりますので少々お待ちください」

 そんなに話すこともないので、静かに魔法陣の完成を待った。



「これで完成です!」

 カナンは達成感ありげに言った。確かに、こんな複雑な陣を一人で描き終えたら、感じるものもあるだろう。

 わーー、と皆で言いながら拍手した。


「それでは、この上に仰向けに大の字になって寝てください」

「粉が動いちゃいそうだけど大丈夫なのか?」

「はい、それも含めてしっかりと作ってあるので。崩れることはありません」

「おお、すごいな」

 カナンがちょっと照れたのを俺は見過ごさなかった。

 そして俺は、魔法陣の上に仰向けに大の字になって寝た。


「それでは、始めます」

 そして、カナンは何やら魔法を唱えた。


「教えて、【刻魔鏡円環タレントリング】」


 すると、……。何も起きなかった。少なくとも俺としては何かされた感じはしなかった。

 しかし、顔をあげてみると、カナンは何かを感じているようだ。右手を顎のあたりに当てて、思案していた。

 そして、顔を上げてもう一つ気が付いた。俺の下に撒いてあったはずの赤い粉の魔法陣が消えていた。


 全員でカナンの顔を見つめる。

 そして、カナンは口を開く。


「この刻魔法タレントは、 ”相手が強ければ強いほど強くなり、相手が弱ければ弱いほど弱くなる”というものですね。名づけるなら、【逆転リバース】といったところでしょうか」


「そういうことだったのか」

「へぇ、面白い刻魔法だなァ!」

「それなら、あのカイナを倒したのも納得です」


 幹部たちが各々感想を述べているが、俺は死ぬほど驚いていた。もう、感想が声に出ないほどに。


 だって、そんな能力あるんなら冒険者やってたしうわー絶対その方が稼ぎよかったじゃんいやでも今の林業だって俺としては楽しくて選んでやってたわけで俺が育てた木々を見捨てたくないしでも今の貧困生活から抜け出せるかもしれないしそうだ冒険者として稼いで人雇うかいやなんか便利な道具とかで自分でやろうか最初にスライムと戦ったのが良くなかった世界を破壊する最強ドラゴンとかだったら自分の才能に気づいてたのかな…………。等々。

 驚き、そして後悔があふれ出るのであった。



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