第5話 魔王幹部会

「なんだ、お前、エロいことしたくないのか?」

 ララリアは、不思議そうにそう言った。いや、不思議そうにするなよ。

「最初はエロい目で見てたくせに」

「気づいてたの⁉…いや、それは礼儀作法というか、挨拶のようなものというか」

 ええ…どうしたのララリア、キャラ崩壊してない?大丈夫?

 しかしそうだな。魔族と言えども美人さんにこういう風に言って貰えるのは悪いものではない。いや、むしろいい。



 こうして俺はララリアに、約2時間弱もの間―――――――――説教をしていたのだった。



「お前ほんと何考えてんの?もっと自分を大切にしろよ。俺だから良かったものの、普通こんなことしたらお前襲われてるぞ」

「はい、すいません…」

 気が付くと二時間も経っていた。何をどうすれば二時間も説教できるのかは謎だが、自分を大切にしないララリアを見て、スイッチが入ってしまっていたらしい。

「あの、先生。ひとついいですか」

 いつの間にか先生呼びになっているララリアがそう言った。

「言いたまえ」


「私って、そんなに魅力ないですかね」


「――――――――――!!!!!!!」


 悲しそうに吐き捨てたその言葉は、俺にとって痛恨の一撃だった。ララリアのためを思って説教をしているつもりが、どうやら傷つけてしまっていたらしい。

「ごめんなさい、そんなことないんです、あなたは本当に美しい、とても魅力的です、魅力的だからこそ大事にして欲しいというか」

 気が付くと土下座をしていた。

「いや、別にいいんだ。気にしてないし。私は戦闘一筋だからな。ほら、もうすぐ会議始まるぞ」

 優しく微笑んでいるララリアを見て、俺はとても申し訳ない気分になった。




「これより、魔王幹部会を始めます」

 澄んだ声でそういったのはララリアだった。

 俺を含み四人で机を囲んでいた。俺の左側には紫色の短い髪の少女が、俺の右側にはララリアが、そして正面には大男が座っていた。

「まあ、幹部会と言うほどのものでもないけどなあ。むしろ今、我々がしたいのは、スカーレット魔王軍を救ってくださった勇者様との親睦会ではないか?」

 目の前の大男が、なんだか楽しそうにそう言った。

「はあ…へルドラ、お前には礼儀というものはないのか?」

「ならララリア、貴様はそれで勇者様をもてなせるというのか?」

「少なくとも、その勇者様の名前すら知らない誰かよりはできると思っているが」


 ララリアと、大男……へルドラというらしい、その二人の間で早速喧嘩が勃発していた。

 まさか!今なのか、あのセリフを言うタイミング‼

 俺は深呼吸するときよりも深く、思い切り息を吸った。

 すううぅっっ


「やめてええええっ!私のためにぃ、争わないでぇぇぇっ!」


「「「「…………………………………………」」」」

 部屋の中に深海のような静けさが駆け巡った。

「すいません。あの、本当、すいません」




「話を戻すぞ」

 ララリアが咳払いをし、仕切り直した。

「まずは、順番に自己紹介をしていこうか。では、私から」

 そう言ってララリアは続ける。

「私はララリア・スカーレットだ。刻魔法タレントは【紅煌炎スカーレットフレイム】。そして一応、カイナの前の魔王であるフレミア・スカーレットの娘だ。じゃあ次、へルドラ」


 ララリアが俺の正面の大男をゆびさした。

「俺はへルドラだ。刻魔法タレントも【死獄竜へルドラ】。ヨロシクな、勇者様!」

 へルドラが手を差し出してきた。握手…握り潰されそうで怖い…。が、断わるワケにもいかないので、右手を出してへルドラの手を握った。

「ああ、よろしくな、へルドラ」

 こうして、(おそらく)俺とヘルドラは仲を深めたのだった。


「はい次、リチア」

 俺の左側にいた紫色の短髪の少女はリチアという名前のようだった。

「リチアです…。えっと、ここは本来ヴィロウ様がいるべき場所なんですが、代理で私ということになっています…。ヴィロウ様の本来の力をもってすればカイナなど…。うぅ、申し訳ありません」

「リチアは刻魔法タレントは隠しておきたいのか?」

 ララリアが不思議そうに言った。

「わ、忘れてました!私の刻魔法タレントは【再入場リサイン】です」

 リチアは終始申し訳なさそうに自己紹介を終えた。なんだか見ていてこっちが申し訳なくなってきた。なんでだろう。


「最後にクロニス、頼む」

「俺はクロニスだ。みんなよろしく頼む。で、みんなが言ってる、たれんと?っていうのがよく分からないんだけど、どういうものなんだ?」

 ずっとくのを我慢していたことを訊いた。

「あー、そうか、そこからか。クロニスは、この世界の歴史は知っているか?」

「それはまあ、なんとなくは分かるよ」

「なら、分かるところまで話してくれないか」

 俺はララリアに言われるがまま、この世界の歴史について話すことにした。

「はるか昔、文明が発達していたころに、神があたらしい神に交代した。で、そのどさくさに紛れて、別の世界から来た神が勝手に何人かの人間に手を加え、魔法を使えるようにした。それが魔族。で、神様は別世界の神に関わった魔族を滅ぼすために、他の人々にも魔法を行使する力を与えて、魔族を討つ使命を与えたってやつ?」

「そうだな。だいたいそんな感じだ」

 俺の説明を聞いて、ララリアはこくりと頷いた。

「そして肝心の刻魔法タレントだが、これに関しては魔族だけでなく人間でも同じようなものがあるはずだが、聞いたこともないのか?」

「そういえば、聞いたことがあるような気もするけど…。俺って弱くて冒険に出てなかったからさ。あんまり知らないんだよね」

 はは、と俺は自嘲するようにそう言った。

刻魔法タレントとは生まれながらにして持つその者の固有の魔法、まあ簡単に言えば一種の才能だ。しかし今、そんなことはどうでもいいということに気が付いた!お前の刻魔法タレントを幹部皆で調べに行こう!あの戦闘、あの力……おそらく”持っている”側だろう」

「いいな!それ!俺も気になるぞ!あれほどの力があれば王直属で—―――いや、王にすらなれるかもしれぬというもの!」

「わ、私も少し、気になります」

 というわけで、ララリアの提案から、俺の刻魔法タレントとやらを調査することになったのだった。







 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る