第4話 魔王、倒したんだが。

 炎で眉間を貫かれて無事でいるはずもなく、魔王はその場に倒れこんだ。

 そして、周りにいる魔族は、魔王が殺されたのを見て、ぴたりと動きが止まった。


 …さて、完全に魔王を倒すことに夢中になっていて忘れていたけれど、俺の周りには数えきれないほどの魔族がいて、そういえば魔王って、こいつらの王だった。

 つまり何を意味するかといえば、魔王を殺したところで、たいして状況が改善する訳でもなく、むしろヒートアップさせてしまう可能性すらあるということだった。

 俺は再び身構える。そして、魔族の気配を感じて…あれ?


 さっきまで感じていた感覚が、きれいさっぱり無くなった。魔族の気配を感じることができない。

 やばいやばいやばい、どうしよう。魔王が死んで、火事場の馬鹿力が出なくなったのか?まだ全然火事ですけど⁉煌々と燃え盛ってますけど⁉

 そんなふうにして焦っていると、魔族が一人(一魔?)、動き出した。

 こつん、こつん…と、足音を部屋に響かせて歩いてきたのは――――――ララリアだった。


 そうして出てきて何をするのかと思えば彼女は、深く、まるでお手本のようなお辞儀をして見せた。

 俺がどういうことか分からず戸惑っていると、それに追い打ちをかけるように、ほかの魔族たちも一斉に、頭を下げた。

「ララリア…?」

 我慢できずに、俺はついに声を出した。すると。

「本当に、有難う御座います‼」

「▆▆▊▊▇▄▇▊▏▏▄▄▇▇▇▊!!」

 何故か、感謝された。

「えっと、どういうこと…?」

 本当に。

「貴方は我々を救って下さったのです。感謝の言葉以外に何が言えましょう」

「ララリア、ちょっと待って、落ち着いて」

「しかし…」

「ララリア、頼むから」

 真剣に、そう言った。

「わ、分かった…。では、順を追って説明していく」

「うん、ありがとう」

 そうして俺は、説明をしてもらうことになった。


「昔、私の父上は魔王だった」

 最初の一言からかなり衝撃だった。というか、まだよくわからない。

「父上の下には幹部が四人居た。娘である私と、へルドラ、ヴィロウ、そしてカイナ」

 …魔族の呼び方、にんで良かったらしい。

「しかし、カイナは裏切った。カイナは戦闘能力こそ他の幹部に劣っていたものの、  洗脳魔法だけは異常に優れていた。そしてカイナは、魔王を除く、その他全ての魔族をその手中に収め、魔王を…父上を、襲撃した。だが、もちろん父上なら、全員を粉々にしてしまうことなど容易かっただろう。でも、たとえ洗脳されていても、仲間を攻撃するなんてことは、優しい父上にはできなかった。もしかしたら父上は、魔王に向いていなかったのかもしれないな」

 はは、とララリアは自嘲するように笑った。しかし俺はそれに対して、何か反応を返すことはできなかった。

「洗脳されていても記憶は残っているんだな。幹部三人で父上を捕まえて、カイナが殺したよ。さっきの、【蒼炎】で」

 もしかしたらさっきの技は、彼女達を傷つけてしまっていたのかもしれなかった。

「そうして洗脳され続けて今があるってことだ。だから、その苦しみ……いや、もはや苦しみも感じることは出来ていなかったが、そんな地獄から解放してくれたお前には―――――クロニスには、とても感謝をしているんだ」

「そっか」

 それ以上、何も言えなかった。


 その後ララリアとその仲間たちは、カイナの遺体処理や、戦闘によって汚れた部屋の掃除など、様々な仕事にとりかかった。

 ちなみに俺も手伝おうとしたんだけれど、恩人にそんなことさせたくない、頼むから部屋でゆっくりしていてくれ、と言われたので、こうして魔王の部屋のベッドでただゴロゴロとしているのだった。


 そして体感三十分くらい(魔王の部屋には時計が無かった。あと俺も腕時計をつけていなかった。)待っていると、遂に仕事が終わったらしい、ララリアが扉を開けて入ってきた。俺は寝ていた体を起こし、ベッドに座った。それを見てララリアも隣に座る。

「待たせたな。やっと準備が終わった」

ララリアは、少し興奮気味に言った。

「準備……?何かするのか?」

「そうだ。我々魔族と、クロニスの今後について話をしようと思ってな」

 今後、か。確かに、魔王が居ない今(俺が殺したんだけど)魔族は混乱しているのかもしれない。次の魔王とか、今後の政策、戦略とかを決めるのかな。

「魔王軍の幹部を集めて会議をする。もちろんお前を含めて、だ」

「まじすか」

 魔王軍の幹部……怖すぎる。

 でも、本物かと言えば疑問は残るけれど、一応、魔王とさっき戦っているわけで。それを考えれば今更こんなことを考えるのもおかしな話だった。

「分かったよ。じゃあ、行くか!」

 俺が元気よく、つ威勢よく立ち上がろうとすると、ララリアが手で制止した。

「会議までおよそ2時間ある。それまではまだゆっくりしていよう」

 そんなにあるのか。まあ、会議の準備も大変なのだろう。

「了解。それまで何かすることはあるか?」

「そうだな…エロいこと、とか?」

「…は?」

 おっといけない。心の声が漏れてしまった。









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