第3話 魔王との対談(?)

「よし、話を続けよう。…あの地は君の所有地と言っていたけれど、それは誰が決めたんだい?」

 ララリアが退室してから急に魔王の雰囲気が変わった。しかし、俺はひるまない!

「町で決め、ボルトロ国の王、 トルエノ・ライズ様に承認していただきました」

「ボルトロの王が関わってるのか。うーん、面倒くさいな。じゃあさ、」


「『僕に譲渡しろ』」

 なんだ、これ。…魔法?俺に「はい」と言わせようとしている気がする。洗脳魔法、なのか?でも、そこまで強くはない。魔王が俺を舐めすぎて、滅茶苦茶弱い魔法を使ったのか?

 てか全然優しくないじゃん!魔法使ってきた!暴力反対!

「お断りします」

 すると、魔王が不思議そうな顔をする。

「あれ、効いてないの?」

 やっぱり、何かされていたのか。

「何か俺に魔法を使ったんですか?」

「へぇ…凄いね、君。これを耐えたのは、前魔王以来初めてだよ。もしかして、ララリアの反逆かなぁ。」

「何の話ですか。とにかく移住をやめて欲しいんですけど」

「ええ、嫌だよ。あの場所、凄い良い立地なのに」

「他に探してください」

「聞き分けのない子だなあ、もういいや。後始末が少し面倒だけど」

 すると、魔王の指先から、青い炎が現れた。

 俺と魔王では、見たところ五、六メートルくらいの距離はありそうだけれど、それくらいの距離があっても、火傷しそうなくらいに熱く感じた。

「ああ、そういえば、前魔王もこうやって殺したっけ。死後の世界があるのかは知らないけど、もしスカーレットに会ったらよろしく言っといてよ」

「スカーレット?どこかで聞いたような…」

「まあ、どうでもいいや。ばいばい」

 そう言い終えると、現魔王はその青い炎を俺に放った。


 これは、避けられないな—―――今までありがとう、町のみんな。育ててくれてありがとう、お父さん、お母さん。…ああ、これが走馬灯か。時間がゆっくりと流れ、今までの人生が想起される。お父さん、お母さん、今そっちに行くよ。

 無駄だと思うけれど、つい反射的に腕で顔を覆った。

 そして、放たれた炎が俺の腕に触れた、その時。

 炎が、霧散した。そのままの意味で、霧のように散った。


「「―――え?」」


 魔王が驚いていたが、俺の方が驚いていた。

 ちょっと待って、これ。どういうこと?魔王に遊ばれているのか?いや、でも、あんなに驚いてるし…。


 もしかして、だぞ?仮に、例えば、もしも――――俺に魔王の魔法が効かないのなら?

 戦って、勝てる…かも、しれない。

 どちらにせよ、魔王は俺を殺そうとしてきたんだ。

 黙って殺されるくらいなら、抵抗くらいしてから死んでやる!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 俺は魔法も何も使えないので、死ぬ気で、全力で、本気で、殴りかかった。

 もちろん魔王が反応できないはずもなく、しかし驚いている隙を突いての攻撃だったため、反応が少し遅れて、先程俺がやったように、腕を組んでガードした。

 いや、正確には、ガードをしようとした。


 俺が繰り出した拳は、魔王の腕に当たり、そして―――――魔王が、壁までぶっ飛んだ。


 …え?

 もう、訳が分からない。もしかして、夢なのか?でもそう思えば納得もできる。スライムも倒せないような弱小で卑小な人間が、魔王なんて倒せるはずがないのだ。

 つまりこれは、かつての俺が、冒険者になれると思っていたころの俺が描いた、夢物語なのだ。納得納得。めでたしめでたし。


 というわけにも、いかなかった。魔王はその状態からすぐに復活し(さすが魔王)、それはそれは物凄い形相で俺を睨んでいた。

「許さない」

 そう一言言って、魔王は何かを大声で叫んだ。


「『▊▋▉▊▅▊▇█▄▆▎▄▇▇▉‼▄▄▄▊▕▏▎▍▊▇█▎▍▉▅‼』」


 すると、広い魔王の部屋のどこからともなく、様々な、そして数えられないの魔族が現れた。おおよそ、魔王が先程の洗脳魔法らしき術を使って呼んだのだろう。

 そんな考察をしていると、背後から何か攻撃が来る気配がした。それを俺は左に動いて避ける。すると先程いた場所に、刃物が通った。怖い…けど、今日の俺の勘は冴えているらしい。この調子ならどうにかして逃げられるかもしれない。

 次はしゃがんで、その後に前に転がる。そして右に移動しながら立ち上がって…。

 そんなことをしていると、俺の中に唐突に、先程魔王が放った青い炎がフラッシュバックした。

 今なら、撃てる気がする。

 自分の魔力が絶望的に無いということも忘れて、俺はあの炎で魔王討伐ができるかもしれないと思い始めた。

 しかし、肝心の魔王がいない。さっきの攻撃でビビったのか?

 そこで俺は目を瞑った。そうすれば、気がしたからだ。

 目を瞑っていても、魔族の攻撃が避けられる。気配を感じるからだ。つまり、同じようにして魔王を探せば…。

 あ、いた。やっぱり後ろの方で隙を狙っていたのか。卑怯な奴だな。

 そして俺は、目を開けて、魔王のいる方向に人差し指を向けた。


「【蒼炎そうえん】」

 すると、魔王に向けた人差し指から、青い炎が現れる。それを俺は、他の魔族に当たってしまわないように、極端に細く、小さくする。

「…食らえ」

 俺の指先から放たれた炎は、目で追えないようなスピードで進み、魔王の眉間を貫通して、さらにその向こうの壁も貫通して外に旅立っていった。











 

 












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る