第2話 魔王に会おう

「ところで、どうやって魔王城まで行くんですか?ここからかなり距離があると思うんですが」

「さっき見ていただろう?あれだよあれ」

 さっきのあれ…?ああ、最初に見た黒いやつか。そういえば、あの中から出てきてたな。あれでワープしてたってことか。

「すごいですね、あの距離をワープできるなん……て?」

 思いついたことをそのまま言ってみたら、ララリアは不機嫌そうな顔をしていた。ほめ言葉のつもりだったが、何かまずいことを言っただろうか。

「あの、なにか嫌なことを言ってしまいましたか?」

 不安になって訊いてみる。すると、ララリアの口から意外な言葉が出てきた。

「敬語。使わなくていいよ、なんか気持ち悪い」

「あ、そうだったんですね!今後気を付けま…」

 ギロッ

「き、気を付けるよ…あはは…」

 こ、こわ~!

 そんな会話をして一息ついたころ、ララリアはゲートを作り始めた。


「…よし、ゲートができたぞ」

「さっきは遠くからでよく分からなかったけど、こんな風になってたのか」

 まだ少しだけ違和感があるな、魔王軍幹部とタメって。

「普段は敵に入られないように、かなり上空で作っているからな。今回は飛べないお前がいるから特別だぞ」

「おう、ありがとう……でも、上空に作ったら敵にすぐに見つからないか?」

「⋯よし、早く入るぞ」

ララリアは無視した。もしかして気づいてなかったのか?図星だったのか?

「ちょっと待って、深呼k」

「早く入るぞ」

「あああああああああああああ!」

 ララリアは俺の腕を掴み、ゲートの中へ無理やり入れた。



「ここが…魔王城……!」

 俺はごくりと唾をのんだ。

 ゲートを通って着いたのは、魔王城の入口だった。とても荘厳で、しかも超巨大で。とにかく迫力が凄い。まるで中にいる魔王の強さを、そして恐ろしさを物語っているようだった。

 ホントウニ、マオウ、ヤサシインデスヨネ…?

「ちょっと待ってくれ、今ゲートを閉じるから」

「やっぱ帰ろうかな…あ、ゲー…ト……」

 ゲートは既に閉じられていた。

「よし、終わった。じゃあ行くか」

 …俺も終わった(人生が)

 ここまで来てしまったものは仕方ない。ということで、俺はおとなしく魔王に会いに行くことにした。


 俺たちが魔王城の廊下を歩いていると、やけに視線を感じた。

「なあ、ララリア。なんか凄い見られている気がするんだが」

「当たり前だろう。そもそも私は魔王軍幹部だぞ。皆の憧れの存在だ。それに、お前は人間。我々魔族からすれば、魔王城に人間が入ってるなんて緊急事態だ。たぶん私がいなかったら襲われているだろうな」

 ひ、ひえ~。怖すぎる。

 でも確かに、そうだよな。人間からすれば、王城の中に魔族が侵入したようなものだからな。もしかしたら、魔族たちも怯えているのかもしれない。


 でもやっぱり怖え~!

「ほら、もうすぐ着くぞ」

「マジか…」

 俺は再び、唾をのんだ。


 こんこんこん。ララリアが扉をたたく。

「▊██▄▋▄▄▄▋█▊▊▄▄▄▄▉▉」

 ララリアが何かを言った。何を言っているのかは分からない。分からないってこんなに怖いんだな。今度ちゃんと勉強しておこう。

「▎▅█▇▇▋▋▇▉▄▋▉▁▎▁▅█」

 …魔王はイケボだった。もちろん、何を言っているかは分からないけれど!

「入っていいそうだ。良かったな」

「二つ返事で通してくれるなんて、本当に優しいんだな」

「私が幹部の為、ある程度信用されているというのもあるが、初対面…というか対面すらしていないお前を自分のお部屋に通すなんて、本当に異常だからな?他の魔王だったらどうなっていることか」

「魔王って一人じゃないのか、初めて知った」

「ほら、無駄話していないで早く入るぞ」

 ぎいいいいいい。

 ララリアが、古くて重そうな扉を開く。そして俺は、魔王の部屋へ足を踏み入れた。



「やあ、こんにちは。遠くからお疲れ様、ぜひゆっくりしていってよ」

 なかなかに美青年な魔王に戦意が削がれそうになる。もちろん戦いに来たわけではないけれど、俺は魔王にクレームを言いに来たのだ。少し後ろめたい気持ちが…。

 いや、無い!人の敷地に勝手に移住するやつだぞ、騙されるな、俺!

「魔王様。早速ですが、あなたの移住についての話をするために来ました」

「何の話だろう、セールスならお断りだよ?」

 ニコニコしながら冗談を交えてくる魔王。こういう余裕があるからこそ魔王になれるのか。…いや、俺が弱すぎて警戒すらされてないってことだな。まあいい、実際弱いし、変に警戒されるよりも気が楽だ。

「単刀直入に申し上げますと、移住をやめていただきたいのです」

「へえ、どうしてかな。一度決めたことを変えるのは大変なんだけど」

「あの地は私の所有地でして、私が木々の整備もしているのです。私があの地を失えば、私は職を失い、生活も困難になってしまいます。どうか、お願いいたします」

 ミスった。なんか、お願いする立場になってしまった。しかしこうなってしまった以上は切り替えよう。

「そうだねぇ…ララリア、少し大事な話をするから、席を外してくれるかな?」

 え?

 魔王の優しい声色が、逆に恐ろしい。

「分かりました、失礼します」

 待ってララリア、俺を一人にしないで!怖いから!超怖いから‼

 ぎいいいいいい、がちゃん。

 はい、助けてください。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る