第12話 Armed to the Teeth
8月4日日曜日。
私は大剣を、しかし以前形成したスターライトブレードよりは少し小ぶりなものを形成し、空中を泳ぐように振り回す。手に丁度馴染む重さで、以前よりは楽に振り回せる。
「波蓮ちゃん、こんな所で何をしているんだ?」
「ネイサン、それはこちらのセリフですよ」
ネイサンが買い物袋を持って近づいてきた。
私は今、市街地からちょっと離れた公園で戦いの特訓をしている。それはどっちかといえばスターライトバスターズの影響である。パウル君に影響されて大剣を普段使いしようと思い始めた、といったところである。
「波蓮ちゃん、その大剣はあの…いや、それより少し小さいか」
「はい。少し小さくして比較的楽に持てる重さにすると形成にかかる時間が短くなりまして。それはどうしてでしょう?」
「うーん、詳しいことは分からんが、持てないようなものを作ろうとすると無意識的にリミッターが掛かるって言う話は聞いたことがあるな。そのせいで時間がかかっていたんじゃないか?」
「とすると、体を鍛えればより大きい剣も作れるようになる、と?」
「まぁ、そういうことだろう。お前は基礎的な筋トレってのはやったことあるか?」
「いいえ、どちらかといえば型や空中挙動、魔法といったものの練習を主にしていたものですから」
「そうか。だったら少し筋肉を鍛えたほうが良いかもな。筋トレに使える無料のアプリを教えてやるよ。何心配はするな、余程のことがなければボディビルダーみたいにムッキムキにはならないぜ」
「それはどうも」
「それはそうと、あなたはどうしてこんな所に?」
「俺たちのチームはこの公園のステージで開かれているダンス発表会に参加していたんだ。んで、俺たちの番が終わったから、近くのコンビニで差し入れに飲み物を買ってきたところなんだ」
「そうなのですね。だとしたら早く持っていかないと飲み物が温まってしまうのではないでしょうか」
「そうだな。だったら俺は早く持っていくことにするよ。」
と言い残してネイサンは去っていった。
ネイサンから教えられたアプリをダウンロードする。開いてみると、様々なトレーニングメニューが出てきた。用具を必要としない初級者向けのトレーニングから高い負荷がかかる上級者向けのトレーニングまである。帰ったらとりあえず全身トレーニングコースからやってみようか。
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昼食に牛丼を食べた後、まだ外が暑いのでショッピングモールに入り、服屋に入って服を物色する。
こんな世の中だから、服に関する技術は私が生まれる前よりかなり進歩したって聞いたことがある。当然ながら、変身する度に服を破いていたらいくらお金があっても足りない。かといって変身する度に服を脱ぐわけにはいかない。だから一部の服にはX-ウィルス?の活性化を検知して変形する仕組みが組み込まれている。私が着ているスカートやパンツにも、当然その仕組みが入っている。そのような服のタグには、変形後の見た目が描かれている。
私が入ったのは、水棲種族に変身する人向けの服屋だ。人魚、マーマン、イルカとかシャチとか、クラゲ人(…クラゲ人?)とか。今は夏・秋物が多いみたいだ。女性向けの服は全体的にフリルが多く、男性向けの服は流線型の柄が描かれている。
これは!という服を見つけたが、税抜49800円と、とても買える金額ではない。そういえばこんな感じの服を誕生日にもらったが、まだほとんど着ていないなぁ。まぁ、余りにも垢抜けすぎて着るタイミングがないだけだけど。
次は本屋に行く。ここの本屋は家の近くにあるものよりも大きい。新刊は出てるかな…と見てみると、ミステリーや実用書、自己啓発書などの新刊が大量に表に出ている。【殺人事件、死者0人】、これは面白そうね。本を手に取り更に奥に入ってみると、この前買ったスターライトバスターズのアンソロジーブックがある。しかし、結構歯抜けになっている。よりによって丁度2巻がない。別の本屋に行って買おうか。
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帰る途中、路地に差し掛かった時後ろから殺気を感じた。前に歩くにつれ殺気を持った人が近づいてくる。そこで私は、殺気を引きつけ…限界まで近づいた瞬間杖を形成して後ろを薙ぎ払った。
「ぐわぁ!」
と言いながら後ろにいた人は気絶してしまった。意外と弱いのね。
後ろにいた人は、ポロシャツに白い帽子、マスクにサングラスを着けていた。そして右手にハンカチらしきものを持っていた。これに睡眠薬でも染み込ませてあったのかしら。とするとこの人は私を誘拐しに来たのかな…?なぜ私を?もしかして以前香世ちゃんが言っていた人体実験目的の誘拐?まぁ推測の域を出ないけど。とりあえず110番を…と思ったけどこの状況だと一方的に自分が攻撃したと思われるかもしれない。とりあえずこの人は日陰に置いておこう。
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家に帰り、自分の部屋に入って少し休憩した後トレーニングアプリを開く。私はその中で【全身トレーニングコース・器具なし】を起動してみる。1番目の運動は腕立て伏せのようだ。とりあえず腕立て伏せをやる…があまり手応えがない。これまでの練習で筋力がついていたのかな。しかし負荷を上げるには…と考えていると良いことを思いついた。
人魚の姿になり、そのまま腕立て伏せをする。これまでに体重を測った経験によると、どうやら人間の姿より人魚の姿のほうが体重が増えるようだった。人魚の魚体には筋肉が詰まっているからだろうか。また、足先が尾っぽの先になることにより下半身でバランスが取れなくなり、腕でバランスを取ることを強制されるため、腕に掛かる負担が上がるだろうと考えた。これにより、腕により強い負荷が掛けられた。
私はその後、スクワットやサイドランジ、プランクなどといった運動をした。
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お風呂に入った後、私はスマホでスターライトバスターズをする。どうやらこのゲームは、マルチプレイのときに強すぎると強さを調整された状態になるため、いつでも緊張感を持ってプレイできるようだ。(とは言っても当然とても難しいクエストには調整が掛からないようだが。)
そうしていると、突然Stringsにメッセージが入った。見てみると…
「えぇ!?志保ちゃんが家に帰ってない!?」
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